パソコン用のディスプレイについて、ワシも考えたの巻
色々あってどうしてもPC用のディスプレイのいいのを買わねばならず、それならとお勉強した結果を以下に記します。
●まずは結論から
以下はとんでもない長文になる予定なので、「そんなもの読んでられっか!」という方のために、結論を書いておきます。
・早いゲームをプレイする等で究極の応答速度を求めるなら、現在はOLEDな液晶一択。IPS液晶などとは一線を画す数字的な性能差もさることながら、実際に見た瞬間に分かる違いがあります。
・ただしOLEDの寿命は短く、最新の第三世代のものでも恐らく3~5年くらいと思う。
・画面の鮮やかさを最大限で重要視したい人は、ミニLED技術搭載のVAやFastIPS液晶を選んだほうがいいが、OLEDとの差は最大輝度にあるのみで問題点もままある。――ので、製品を店頭で見て決めるのもあり。
・ミニLED搭載の液晶、OLED液晶ともに、まだ過渡期の製品である。
ミニLEDは「ミニ」ではなく「マイクロ」LEDになってからが本番だし、OLEDは寿命の問題が残っている、。
と言っても、PC用の液晶ディスプレイ自体、もう20年くらいずっと過渡期なので、欲しくなったら買ったらいいという状態ではある。
てことで、詳しい説明を以下に。
●求むるところ
仕事の環境的な問題から、HDRでの再現性のちゃんとしたディスプレイを揃えなければならなくなった。
今まで使っているディスプレイもモノは悪くはないのだけど、仕事や趣味の写真の現像用とゲームをして遊ぶ場合のモニタを分けていたため、2台のモニタのどちらもメインモニタとせねばならず、置き場や視点の移動が若干面倒だった。
ということで、どうせ買うならというので、ゲームも仕事も写真の現像も一枚のモニタでこなせることを目的とした。
●要点はなにか
・仕事的には、HDRな動画をある程度正しく表示できること
・写真の現像的には、少なくともsRGBのカバー率が充分であり、色のトーン再現性も高いこと(調整でなんとかなるならそれでいい)。
・ゲーム用途では、応答性が高く残像が出にくいこと
この3点が踏まえるべき要点である。
なお画面のサイズはゲームに適した24~27インチ程度。
解像度(?)は4Kや8Kはまったく必要ないどころかリアルタイム処理のデータが重くなるだけなので、フルHDないしはWQHDとした。
ただしこの2点に関しては特に論議する内容もないので、本文では割愛する。
以上を鑑みるに、大事なのは製品に使われている液晶パネルの種類を選ぶことであるように思えた。
てことで、持ち時間をやりくりしてネットやら知り合いの「その道の人」に聞いたりした結果、以下のようなことが分かった。
●液晶パネルは現在4種類
このへんは数年前にディスプレイを買った際とほぼ同じ。
液晶の構造により、IPS、VA、TN。それにOLED(有機EL)が最近になって現実的な選択肢として加わり、大まかにこの4種類が主立った液晶パネルと言える。
ディスプレイの性能は、ほぼこの種類に依存する。
でまあ、それぞれのパネルについての「今」をお勉強したところ。
○IPSパネル 現在の主流。色の再現性や視認性がもともと高い反面、以前は応答性が低かった。が、主流になっているぶん発達の度合いが近年めざましく、応答性もかなり良くなり、値段もかなりいい感じに。
現在、私の写真と仕事用のディスプレイはこれを使っている。
画面の明るさやコントラスト表現などはバックライトに使われるLEDに依存しており、最近はマイクロないしミニLEDと呼ばれる技術によって応答性やコントラスト表現を補助している。
ただし、ミニLEDは明らかに過渡期の製品で、本来は1画素あたり1個のLEDが理想であるところが、現状はまともな製品でも全体で1000個程度しかない。
この分割数の少なさは、コントラスト差が強い部分では輝度漏れとして普通に視認できてしまい、ちょっと詐欺っぽい。
一方で、「ADS」ないし「fast IPS」と名付けられた新しめのパネルの応答速度は、後述するTN液晶とそこまでの差が生じなくなりつつある。
○VAパネル 再現性・応答性の両面ではそれぞれそこそこで器用貧乏に見られがちだが、唯一、明るい部分と暗い部分の差の表現、いわゆるコントラスト比だけは非常に高い。
分かりやすく言うと、黒が締まって見えるパネル。
ほかの性能が際立ってはいないため人気のない液晶であるものの、コントラストが高い=光漏れがしないため、ミニLED技術を使ったディスプレイの製作には実はIPSよりも向いているように思えた。
が、現実的に人気がないため、ミニLED搭載の製品は非常に少ない。
○TNパネル 安物の代名詞だったTNパネルではあるけど、新しめのパネルはとにかく応答性が良く、ゲームをするのに向いている。
私もゲーム用にはこのパネルの液晶を使っている。
反面、ちょっと斜めから見るだけで色や輝度が正しく出なくなったり、色の再現性も酷かったりと、いまだに問題も多い。
このパネルを使う限り写真の現像は別の液晶でとなるので、まず最初に、TNパネルを使った製品は候補から外した。
#世間的にはTNパネルもまともになったと言われてますけど、ぜんぜんそんなことはないです、ええ
○OLED(有機EL)パネル 上記3つのパネル方式が液晶裏に設けられたLED、いわゆるバックライトの光を透かして光るのに対して、OLEDパネルは液晶それ自体が1ドットごと独立して発光する仕組みである。
この方式は色の再現性が高く、応答性も非常に高い(最速のTNパネルの10~20倍)が、反面、寿命が短いという大問題を抱えていた。
寿命の短さは発光時に出る熱によって有機素子が崩壊していくというものなので、最大輝度を上げれば上げるほど寿命が短くなるという問題を抱えている。
スマートホンなどに使われていた初期の製品は、2年くらいで焼き付けが起きたりしていた。
また、PCディスプレイに使われるようなそこそこ大型のOLEDパネルは非常に高価でもあった。
●結論としてはどうなのか
上記の特性はパネルの基本的な性質を示すものではあるけれど、その特性が実際に使ってみてどの程度影響するかが選ぶポイントとなる。
これは時期によっても大きく動くものだと思う。
で、2024年後半時点で私が得た印象はというと……。
性能面だけを見ると、OLEDパネルと、ミニLED搭載型のIPSまたはVAパネルの性能は拮抗している。
輝度を高くできるミニLED技術を使ったIPSやVAパネルはコントラスト比を非常に大きく出来、明るくて華やかな絵を表現しやすい。
一方で、OLEDパネルは応答性が非常に高く、激しく動くゲームなどで、事実上、残像が一切出ない。
――ということに、世間的にはなっている。
そこで色々聞いたり実際の製品を見てみたところ、私の所感としては、まず輝度については、OLEDが提供できるレベルで充分であると思えた。
というか、大抵のOLEDパネルの最大輝度でも、実物を見ると私には過剰品質なのだ。
PCのディスプレイというのはある程度近付いて見るので、離れて見るのが一般的なTVなんかの場合とは必要な輝度が違う。
ぶっちゃけ今のOLEDパネルが最低限確保している400cd/m2程度でも十分以上で、それ以上だと輝度を下げないと仕事用のディスプレイとしては目を悪くしそうだった。
つまりミニLEDなIPSなどの高いコントラスト表現は、私には過剰品質である。
一方で応答速度のほうは、最新のFast IPSなどの実質5~8ミリ秒という(宣伝的には皆1ミリ秒と書いてあるけど、実際はそこに達してはいない)速度は、普通に残像が見えてしまう。
実物を見ると、OLEDパネルの0.3ミリ秒前後(実効値)との差はわりと大きい。
これは私が遊んでいるゲームでは優位差を生じそうだ。
色の再現性などはOLEDもミニLEDなIPS/VAも似たようなもので、価格も似ている(ミニLEDなIPSのほうが少し安い?)。
ただし、寿命に関してはOLEDが相当に不利で、ほかの液晶タイプの半分程度と言われている。
一方、ミニLED採用のIPS液晶はまだLEDの数自体が馬鹿馬鹿しいほどに少ない。
現状で標準的な1画面あたり1000分割という数は、一見多そうに見える。
しかし4Kが800万個の画素を有していることを考えると、1000分割では、LED1個あたり8000個の画素を同じ輝度で光らせていることになる。
当然、繊細な輝度表現なんてLED側では出来るわけがなく、画素1個1個が完全に独立して光るOLEDとは比べるのも馬鹿馬鹿しい。
液晶前面での輝度むらが減った、或いはたくさんのLEDを使っているぶん画面が明るい(華やか)程度に考えるのがいいだろう。
これは、写真の現像をする場合にエッジの表現がおかしなことにもなりかねないし、実際の製品を見るとこのへんちょっといい加減な印象も受けた(店頭で見まくった製品の設定等がおかしかった可能性は捨てきれないが)。
ということで、私的にはOLEDがいいかなと思い、十数万で27インチのOLED液晶を購入するに至った。
●実際に購入してみて、OLED液晶はどうか
結果的には満足である。
寿命的には恐らく3から5年くらいなんだろうなあというのは、ディスプレイに散々ぱら寿命を延ばそうとする機能が搭載されているところからも透けて見える。
仕様書にも、品質保証は3年(パネルの寿命も含む)と書かれているし。
他にも、輝度を確保するために設けられているマイクロレンズのせいか、1ドット単位の線や文字を顕微鏡で見ると微妙に滲んでいるのが見えたりする等、ああコイツは過渡期の製品なんだなあというのが分かる。
ただ、ミニLED技術搭載のIPSと比べて低めとされる輝度については、ぶっちゃけ購入したOLED液晶の400だったか500cd/m2でも明らかに過剰で、現在、パネルの輝度は最大値の50%ほどで仕事をしている。
一方で売りの応答速度はというと、これはもうビックリの満足度。
↓の画像を見て欲しいです。
これはモニタの応答速度を測る場合によく使われる↓のページを実際のOLEDモニタに表示させ、デジカメで、充分な速度のシャッタースピードで撮影したもの。
https://www.testufo.com/ghosting#background=004040&separation=480&pps=960&graphics=bbufo.png&pursuit=1
今までの液晶でこのWebの画像を撮ると、液晶画面の場合はUFOの部分が滲んだり、前後に残像が出たりするのが普通だった。
なのにOLEDモニタの場合は何枚撮っても一切残像らしきものは写りません。
これは実はウィンドウを動かしたりゲームをしたりするときにも大いに実感できて、とても気持ちが良い。
これだけでも、ゲームをしたり激しく動く動画をみたりが多い人はOLEDなディスプレイを買うべきかなあと思いましたね。
ちなみに、この感想はニアフィールド(近距離)で画面を見るPC用のディスプレイの場合です。
離れて画面を見る場合、離れれば離れるほど見かけ上の光量は落ちていくので、大画面のTVを居間に置くみたいな用途の場合は、ミニLED技術採用型のIPSやVA液晶のほうが向いているかなと思う。
ちなみに繰り返しになるが、この手の状況は技術の細かな革新によっても日々変わります。
ということで、これは2024年の後半あたりの私の所管であると補足しておきます。
追記 OLEDはグレアな表面もあり?
PC用ディスプレイの表面って、基本的にはノングレア処理、つまりは反射しないような処理をしたものが主体と思います。
ノングレア=ディスプレイ面が反射しないマットな表面になったもの。
グレア=磨いたガラスの表面のようにピカピカしたヤツという意味です。
で、私的にPCディスプレイはノングレアが当たり前と思っていました。
グレアな表面だと、自分の後ろの光が反射しまくって見にくいですし、画面が真っ暗になると自分の顔が鏡のように映っちゃったりもしますからね。
仕事中とかゲーム中にいきなりむくつけきオッサンの顔を見せられると、なんだか微妙な気分になっちゃいます。
ところが「その道の人」に聞いたところ、複数人が「OLEDなPCディスプレイはグレアなのもあり」と答えてきました。
んなアホなと思ったんですが、それにはもちろんわけがあります。
だいぶ上のほうで前述したように、OLEDが現在抱える欠点に「輝度がミニLED技術搭載のIPS液晶などよりも低め」というのがあります。
これまた前述したように、私的にはこの点は問題にならないんですが、ただこの欠点、実はノングレア処理が成された液晶面だと助長されるらしいんですよね。
まあ考えたらだいたい理解はできると思いますが、液晶面の反射防止のためにマットな処理をするってことは、光を拡散させる処理を施すってことでもあります。
これは写り込みの輪郭をぼやけさせる効果があると同時に、液晶の中側からの光も若干拡散させてしまう結果になります。
これがOLEDの欠点である輝度の低さを助長する。そして、OLEDの売りである鮮やかな色調なんかも若干ですけど削いでしまう、と。
おまけで、最近のグレアな表面は一応は表面処理をしてあるので、そこまでビカビカに映り込んだりはしない。――らしいです。
このへんの意見の説得力がまあまああったので、店頭でちょこっと確認した後、物はためしと今回はグレアな製品を買ってみました。
結果的には、写り込みはやっぱりあるものの想像してみたほどではなく、私の環境では、画面を完全に消灯しない限りは自分の顔が映り込んでみたいなことにはならないようです。
オッサンでも安心!
逆に画面の鮮やかさについては、確かに効果が出ていそうです。
ですけど、よく考えたら私ってそんなに鮮やかな画面は求めていないので、そこまでありがたくもなかったかなというのが正直なところ。
次に買うときは、OLEDだろうが他の方式だろうが、やっぱりノングレアのほうがいいかなあ。