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「 口吻の謎(ちょっと真面目でややこしい、でもなんの役にも立たない長文) 」

ヘッダの写真は、セセリチョウが長い口(以降、口吻と呼ぶ)を延ばして蜜を吸っているの図です。
この写真では、特に口吻を狙って撮ったつもり(0.5mmほど奥ピンですが)なんですが、この口吻、よくよく見ると、左右に二本の管っぽいものがくっついているように見えると思います(SNSの縮小画像では見るのがちょっと難しいかもですが)。

実は私、この口吻が二本のペアに見えることが、虫眼鏡で昆虫を見ていた子供の頃からの疑問だったんですよ。を
何故って、見た感じチョウの口吻は二本の線状の口が並んでいるように見えます。――てことは、蜜を吸うための管(導管)も二本平行して口吻の中を通っているように思えますよね。
けれど私の知る限り、食道管が二本形成されている昆虫というのはいないと思いますし、形態形成的にも消化器官の延長である食導管が2本あるってかなり不自然だと思うんですよね(食導管が丸ごとペアでできるなら、腸などの消化器官も2セットあるはずなので)。

ただこの疑問は、私が子供の頃および学生の時分にはきちんと調べるのは難しく、なんとなく「それは普通はないよなあ」とは思いつつも、「チョウには二つの口がある」と、半ばやけくそで放置状態のまま憶えていたのでした。
なにしろこんなマイナーな疑問について書かれた本なんて見つけるのは不可能でしたし、微に入り細にわたって研究してくださってそうな学者さんの論文も、他分野の人間ではおいそれと見ることは叶わなかったですから。
で、翻って現在です。
有り難いことにネットの発展はそのへんの垣根を大幅に取っ払ってくれるようになり、以前はなかなか読むことの叶わなかった他分野のペーパーなども、有り難いことに検索さえできれば結構な数を読むことが出来るようになりました。
でまあ、別の写真を見ていてチョウの導管二本問題について思いだし、今ならこの謎が解けるかも! と思ったのが半年前。
Matthew S. Lehnert」さんという、そのへんのことについて研究なさってるっぽいアメリカの研究者さん(現在はケント州立大学の助教をされているようです)をネット上で見つけ出し、彼とその周辺の論文を、公開されている物だけでもと読みあさったんですが……。
あー、暇と根気がなさ過ぎて、結論を出せるまで6ヶ月以上もかかっちゃいましたよ、先生。

で、話をややこしくしても仕方がないので結論から言いますと、やっぱりというかなんといいますか、チョウの口吻を通っている食道管は一本だけでした。
上記した通り、口吻を外から見ると確かに二本の管が並列して走っているように見えるんですが、実は口吻をダイコンで言う輪切りの方向にぶった切った断面図を書くと、「○・○」のようになっています。
で、てっきり食道管が通っていると思っていた「○」の部分には導管的なものは通っておらず、斜走筋と神経なんかが詰まっているよう。
そして肝心の食道管は、この二本の管の真ん中にある「・」の部分を通っていたのでした(実際の「・」はもうちょい太いみたいです。詳しくは下のとっても恥ずかしい図を参照のこと)。
まさか二本の管の接続部分だとばかり思っていた場所に、大事な食道管が通っていたとは……。

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ちなみにですが、この食道管、私は当然のようにストロー状に密封された管として通っていて、先端には穴が一つ空いているのだろうと想像していたんですよ。
きっとホースのような構造なんだろうなあと。
ところが論文を読んでみると、実は口吻の導管はぜんぜんストロー状ではなく、先端にも大きな穴なんてあいていないことが分かりました。
このへん、詳しく説明するとちょっとややこしいんですが、ようは、二本並列する形で並んで通っている「○」がその接する部分の上下にそれぞれひだのようなもの(論文では「dorsal legulae」と名付けられていました)を延ばしていて、ひだが接してできる内側の部分が導管になっているという感じのようです(「クールな断面図」参照)。

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で、しかもです、このひだはとんどの部分では密に並んでいて、隙間はほぼなく気密性が保たれているんですが、先端部分だけは僅かに開いており、そこが蜜その他の液(水分)に触れると、隙間からの毛細管現象ですっと導管の中に吸われるようになっています。
ようは、口吻の先端だけスポンジの簡略版みたいなものになっていて、このおかげで蜜に触れると自動的に導管の中に染みこむようにして取り込まれるという仕組み。
こうやって導管の中に取り込まれた蜜は、その後、口吻の根元にある特別な筋肉によるポンプ作用で体の中へ取り込まれます。
こうすることで、最小限の筋肉を使った小さな負圧で蜜を口元まで取り込むことが出来、高い負圧で無理矢理吸い込んだ場合と違って導管に異物を吸い入れることもなく(異物が入ればへたすると管が詰まります)、スムーズかつ省エネルギーで吸蜜することが可能となっているわけです。
このへん、三重の意味で賢く出来ているなあ、凄いなあと思いましたね。

というわけでこれは、長年の疑問が文明の発達のおかげで解消できたとともに、はからずしも昆虫の体の極めて合理的な仕組みに感心させられたという、そんなお話しなのでした。

※本当なら、末尾にはどのペーパーを読んで参考にしたかを列記し、謝辞などを述べるべきなんでしょうけど、10近くを半年ほど掛けてゆっくり読んだせいで、どれを読んだか等忘れちゃいました。
すみませぬ。

#長文
#虫 #Insects #昆虫 #セセリチョウ の何か

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