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イェリングのルーン石碑を読む
デンマークのユラン半島、ヴァイレ近郊にあるイェリングは、ヴァイキング時代には王都が置かれていました。
今はそんな面影も感じられない小さな町ですが、王の墓と思われる墳墓群とルーン石碑が残されています。
![](https://assets.st-note.com/img/1665105747858-XXnMqOgpGM.jpg?width=1200)
2004年の画像。私が訪れた時もこんな感じでした。
![](https://assets.st-note.com/img/1665105845147-nvBZDaeAC0.jpg?width=1200)
ルーン石碑2つのうち大きい方(上記画像、左)は、デジタル機器用の近距離無線通信規格の一つ Bluetooth の名の由来となったデンマークのハラルド(ハーラル)青歯王(ca. 958-987)が両親(父ゴルム老王と母テュリ王妃)を記念して建立したものです。
![](https://assets.st-note.com/img/1665098987879-QdrX0LdCFM.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1665099090350-hae7H1DmTG.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1665099607154-8T7N3AuZgL.jpg?width=1200)
ルーン解読
Side A
: haraltr : kunukʀ : baþ : kaurua
kubl : þausi : aft : kurm faþur sin
auk aft : þąurui : muþur : sina : sa
haraltr ias : sąʀ : uan : tanmaurk
Side B
ala : auk : nuruiak
Side C
auk tani karþi kristną
Old Norse (古ノルド語)訳文は VIKING LANGUAGE 1 より
Haraldr konungr bað gera kumbl þessi ept Gorm fǫður sinn ok ept Þyrí móður sína - sá Haraldr es sér vann Danmǫrk alla ok Norveg ok Dani gerði kristna
注)
ルーン文字 ᛅᚢᚴ はそのままアルファベットを当てはめると auk となりますが、多くの古ノルド語テキストでは ok と書かれるため、訳文ではそちらに合わせています。
※ ok は現代英語の and
日本語訳 (拙訳)
王ハラルドは父ゴルムと母テュリのため、これらの記念碑を建立す。ハラルドは全デンマークとノルウェーを勝ち取り、デーン人をキリスト教に改宗させた。
下記の画像は、コペンハーゲンの国立博物館にあるペイントされたレプリカ。
![](https://assets.st-note.com/img/1665101319382-RXVrC9nTkW.jpg?width=1200)
小さい方のルーン石碑は、ゴルム老王が妃テュリを記念するモニュメント。
![](https://assets.st-note.com/img/1665102342168-vKgB2oxqyP.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1665102390335-2ePhwFgyeH.jpg?width=1200)
ルーン解読
表面
: kurmʀ : kunukʀ :
: karþi : kubl : þusi :
: aft : þurui : kunu
裏面
: sina : tanmarkaʀ : but
Old Norse (古ノルド語)訳文は VIKING LANGUAGE 1 より
Gormr konungr gerði kumbl þessi ept þurvi (þyri) konu sína, Danmarkar bót
日本語訳 (拙訳)
王ゴルムは、デンマークに彩りをもたらした妻テュリのためにこれらの記念碑を建立す。
注)Danmarkar bót は直訳すると「デンマークの装飾品」となるのですが、この文では「美しいデンマーク王妃」の意味で亡き妃を偲んでいるように思えるので、上記のように訳しました
参考文献
Jesse L. Byock, VIKING LANGUAGE 1
Learn Old Norse, Runes, and Icelandic Sagas Second Edition, JWP 2017.
おまけ
スカンディナヴィア各地(多くはスウェーデン)に残された沢山のルーン石碑は、書物に歴史を記すことのなかった古代~中世初期北欧の歴史を知るための貴重な一次史料です。
もっと多くのルーン碑文を日本語で読んでみたい方に、下記の書籍をおすすめします。
ルーン石碑の解読部分は本文の付録のようなものですが、付録にしてはかなり良い扱いになっており、資料価値も高いです。
マッツ・G・ラーション著(荒川明久訳)『悲劇のヴァイキング遠征 東方探検家イングヴァールの足跡 1036-1041』新宿書房、2004年。
マッツ・G・ラーション著(荒川明久訳)『ヴァリャーギ ビザンツの北欧人親衛隊』国際語学社、2008年。
![](https://assets.st-note.com/img/1665105025408-4ZBb33TEjf.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1665131159367-OXW4O68eL9.jpg?width=1200)
ルーン石碑のイラストまたは写真(両方の場合も)、ルーン碑文と解読、古ノルド語に加えて
現代スウェーデン語訳と日本語訳を掲載。
『ヴァリャーギ』は出版社がなくなってしまったため、入手困難になりましたが、図書館で借りられます。
『悲劇のヴァイキング遠征』は今も新品で入手できます。
スウェーデンヴァイキングの首領イングヴァールの事績を記したルーン石碑を解読しながら、当時の東方遠征について知ることができる良書。
「イングヴァールのサガ」の翻訳も掲載されています。