ヴァイキングの父称についてのメモ書き
ヴァイキング時代にはまだ姓がなかったので、当時の人々は自分の名前(ファーストネーム)の後に「父称」をつけていました。
男子には〇〇ソン(― son)、女子には〇〇ドーティル(― dóttir)が付きます。
※〇〇は父の名前(属格)
ヴァイキング時代を舞台にした歴史創作などをする時に気を付けたいのは、古ノルド語では個人の名前も格変化すること。
エイリーク(Eiríkr)の息子はエイリークスソン(Eiríksson)になりますが、ビョルン(Bjǫrn)の息子はビャルナルソン(Bjarnarson)。
属格(gen)の語尾は大抵 s で、ar になるのは少数派です。
上記の表にない名前だとホーコン(Hákon)、シグルズ(Sigurðr)など。
ビョルン(Bjǫrn 強変化男性名詞)とビャルニ(Bjarni 弱変化男性名詞)の属格は似ているので注意。ビョルンの息子はビャルナルソン(Bjarnarson)、ビャルニの息子はビャルナソン(Bjarnason)です。
名前の語尾が n , ðr の場合は属格が ar になる、と憶えておくとよいかもです。
また、語尾が i の場合は弱変化になるようです。
※いずれも男性名の場合。今回は父称の話なので、女性名は載せていませんが、女性の名前も勿論格変化します。
父称をつけることで同じ名前の人物を区別できますが、父称も同じ場合もあり得ますよね。
〈赤毛〉のエイリーク、〈野心〉のシグリーズなど、ヴァイキングに綽名が多いのは、そういった事情も関係しているのかもしれません。
【追記】
古いルーン石碑にはゲルマン祖語や初期ノルド語のものもあるので、変遷の具体例(現代英語の guest)を。
gastiz(ゲルマン祖語)→ gastiR(初期ノルド語)→ gestr(古ノルド語)→ gestur(現代アイスランド語)
初期ノルド語はいわゆるヴェンデル時代(550-800 A.D.)あたりです。
ヴァイキング時代に使われた古ノルド語は11世紀前半くらいから西ノルド語(ノルウェー、アイスランド、フェロー諸島)と東ノルド語(デンマーク、スウェーデン)に分かれ、そこからまた個々に変化していきます(中世ノルウェー語など)。
13世紀のノルウェー王ホーコン4世(老王)の名はホーコン・ホーコンソンとなっています(ヴァイキング時代であれば、ホーコン・ホーコナルソンになるはず)。
13世紀のノルウェーで使われていたのは西ノルド語もしくは中世ノルウェー語と思われるので、同じ名前での父称の相違は時代によるものかもしれないですね。
【追記2】
現代のアイスランド人の父称はヴァイキング時代とは少し異なり、Sigurður の息子は Sigurðarson ではなく Sigurðsson となります(ただし父称ではなく単独で使う属格形は Sigurðar)。