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中世北欧のルーン文字と言葉(古ノルド語)
最初に、北欧5か国の国名を古ノルド語と、その国の現代語表記にしたものを紹介します。
Nóregr Norge / Noreg ノルウェー
Svíþjóð Sverige スウェーデン
Danmǫrk Danmark デンマーク
Ísland Ísland アイスランド
ǫ (o の下に鬚が付く文字)は現代アイスランド語のキーボードにないので、ö で代用することが多いです。
ノルウェー語の Norge はブークモール(bokmål デンマーク語に近いといわれる)、Noreg はニーノシュク(nynorsk 古いノルウェー語に近い方言)。
スウェーデンはカタカナ表記するなら 「スヴィーショーズ」 でしょうか。
カナ表記はいつも迷うところで、研究者の方でも人によって異なります。
たとえば、Eiríkr (男性名) だと、エイリーク、エイリークル、エーリク、エリクなど。
外国語を 50音しかない日本語で表わすのは、とても難しいですよね。
アイスランド語は現代語も全く同じ表記。
極北の孤島、「地の果てのテュレ」 と呼ばれたアイスランドは他言語の影響を受けることがほぼ無かったので、ヴァイキング時代にノルウェーから移住した人々が持ち込んだ言語 (古ノルド語)が殆どそのまま残ったそうです。
そのおかげで、現代のアイスランド人は無理なく古典が読めるのだとか。
※古ノルド語と古アイスランド語について。
前述のとおり、ハラルド美髪王の時代、アイスランドに移住したノルウェー人達が新天地に古ノルド語を持ち込んだので、古ノルド語と古アイスランド語はほぼ同じと考えてよいと思います。
ゆえに古ノルド語の研究は、一般的には古アイスランド語を通じて行われているのだそうです。
ところで、北欧の人々がラテン文字のアルファベットを使うようになったのは11世紀。
書物に残されているのは、12世紀以後のものです。
それ以前は、ルーン文字が使用されていました。
最もポピュラーなのが、ヴァイキング時代に使用されたヤンガーフサルクと呼ばれる16文字のルーン文字。
![](https://assets.st-note.com/img/1698841598098-6ebfjsemC2.jpg?width=1200)
現存するルーンは、とりわけスウェーデンに多く残されているルーン石碑が有名ですね。
![](https://assets.st-note.com/img/1698842039735-5PGbtoSuu4.jpg?width=1200)
上記はシグテューナ(スウェーデン)に現存するもの。
北欧神話のヨルムンガンドと思しき蛇(竜?)とともにルーン文字が刻まれています。
10世紀末、エイリーク勝利王と息子のオーロフ・シェトコーヌングが造ったシグテューナの町に残されたルーン石碑の一つです。
一言で「ルーン文字」と言っても、実は大きく分けて3つあります。
よく混同されるので、違いをあらためて記しておきます。
2世紀頃、ゲルマン民族が使用していた エルダーフサルク と呼ばれる標準ゲルマンルーン文字は24文字ありました。
こちらは今でもルーン占いなどによく使われていて、市販されている天然石や木製チップに刻んだルーン占いセットの多くがこちらになります。
![](https://assets.st-note.com/img/1698842165910-TZ5GjRoDNf.jpg?width=1200)
ルーンは当時もまじない等に使われましたが、神秘的な魔法の文字というわけではありません。
ごく普通に、誰かへの伝言や記念したい事柄を木片や金属、石などに記すのに使用されたのが殆どです。
(丸みがなく、直線と斜めの線で構成される角ばった文字は、紙ではなく木や石に刻むのに適していたからと考えられます)
ラテン文字を知らなかったゲルマン民族が使った、一般的な文字でした。
(キリスト教化された後も、アングロサクソン人やヴァイキングはルーン文字を好んで使ったようです)
ルーン文字は、その後、ゲルマン民族の移動によって欧州各地にもたらされました。
デンマークのユトランド半島南部にいたアングル人がブリテン島に渡った際にもルーン文字は持ち込まれ、独自の発展を遂げて 33文字 のアングロ・サクソンルーン文字 ができました。
![](https://assets.st-note.com/img/1698842212283-AAqZ0wiRdH.jpg?width=1200)
こちらはおまけ。
6世紀前半 (500 ~ 550年) の銀貨に刻まれていたルーン碑文を白樺のチップに記しました。
碑文はスウェーデンのものです。
![](https://assets.st-note.com/img/1698842386139-VcWC4V62Fw.jpg?width=1200)
意味は「召喚、繁栄、Gakaz、幸運を」 (Gakaz は意味が不明ながら呪文の一種とされる)
この時代のスウェーデンは中世初期、ヴェンデル時代 (プレ・ヴァイキング時代) と呼ばれた時期。
エルダーフサルクからヤンガーフサルクへ、変化する途上だったと考えられます。
複合(バインド)ルーンが幾つか見られるのが面白いです。
ところで、アングル人やサクソン人が来る以前からブリテン島に住んでいたケルト系といわれる人々――ブリトン人やピクト人、アイルランドから渡ってきたスコット人は、ルーン文字を使用していません。
彼らは古代、ドルイドが主に使っていたというオガム文字を知っていましたが、比較的早い時期にキリスト教が伝来したので、中世初期にはラテン文字を習得していたようです。
ゆえにアイルランド、スコットランド、ウェールズで発見されたルーン碑文は、9世紀以後のヴァイキング時代のものと思われます。
古ノルド語、ルーン文字に関する記事は下記のマガジンにまとめています。