#17 猫が消えた日
実家には猫がいる。
飼い猫、というには曖昧な、いわば、野良猫に餌付けして居ついた猫、が正しい言い方だ。
ただ、昔から我が家にたむろっていた猫たちと違うのは、頻繁に家の中にいることで、今までは餌はあげるけども家には上げないスタンスを貫いてきた我が家でイレギュラーな子だった。
その子が、今年3月の時点で帰ってこなくなったという。
そんなことを今日、初めて知った。
今思えば昔から我が家は無責任に猫に餌をやる迷惑な住人だったのかもしれない。
祖父母は猫嫌い(見かけると水をかけるほど)なのに私が物心つく頃から遊びにきていた猫を裏庭でみかけていたのは母がそうしていたからなのかも、と確認してないけど思う。(母の実家は昔も今も猫を飼っている)
ただ、ほぼ野良なので数年で見かけなくなることはしばしばで、それでも代わる代わる猫たちは我が家に来ていた。時に巨大なファミリーになったりもした。
そして、ある日。そのイレギュラーな子である猫が現れる。
名をじゃみくろ。(命名者私)
そう、私の名にもなっているメスの白黒八割猫である。
じゃみくろ。通称じゃみちゃんとの出会いはよくある通い猫の赤ちゃんで、数匹いた一匹だったと思う。そこが曖昧なのはその事よりもその後、じゃみちゃんの母親が道端で動かなくなって、ガリガリで皮膚病みたいのも患っていて虫の息なのを目の当たりにしたから。
じゃみちゃん以外の兄弟はいつの間にか居なくなっていた。野良だからしかたない。そして母猫もそうなっていたその日の昼過ぎには亡くなっていた。寄り添おうとするじゃみちゃんに病気が移っては不味いと思って捕まえて、母猫は自宅横の畑(我家の敷地)に埋めた。
まだ小さかったじゃみちゃんはすぐに人慣れした。といっても私の家は家の中で猫を飼うのを祖父母が亡くなった後も許可しなかったので私がたまに家の中でこっそり世話して出たがったら出しての生活をさせていた。
そんなある日。
猫の保護団体、活動をされている方とお会いすることがあって話を聞くことになった。
野良猫への無責任な餌付けと、無秩序な繁殖(これは野良であれば仕方がないがそこに人間が餌付けして安定的な生活をもたらしていたら該当するのだろう詳しく覚えてない…が…)妊娠出産を繰り返すことでメス猫の体がボロボロになって病気などで死ぬケースも多いことも教えてくれた。
野良で世話をするのならば、もしくは、正式に飼うのだとしても避妊と、耳に避妊してありますマークをつけるべきと言われ、私は昔、十数匹にも増えた猫が一気に謎の死を向かえた日のことを思い出して決心した。
避妊手術はじゃみちゃんと同じ歳に生まれた別の子も連れだっておこなった。
今更ながら思うことは色々あったが手術は無事に終わり数日後、また我家で暮らすことになる。(もう一匹の子は懐かなくて野良を貫いている)
じゃみちゃんはとても懐いてくれていた。
足にまとわりつくし膝の上にも乗ってくれる。ゴロゴロ言って名前の由来である少しじゃみじゃみした声(どんな声よ)で鳴いていた。
しかしそんな生活にも変化が訪れる。
私が仕事で遠方(今の場所ともまた違う)に引っ越すことになったのだ。
その時じゃみちゃんを連れていけばまた何か変わったのかもしれないが、その時の私は一人暮らしで慣れない場所に連れていくより我が家にいた方が幸せだろうと最初から連れていく頭はなかった。今思えば無責任だった。
その代償は引越当日、驚いて飛び出して、2、3日家に寄り付かなかったと後々聞いたのと、たまに帰省しても一目散に逃げていく姿と、全く鳴かない子になったのを聞いた時に感じた。
じゃみちゃんを傷つけてしまったのだ。
その溝は埋まることなく。
幸いにして母が猫好きで、私の引越と同じ時期に上の姉2人も嫁ぎ家を出て、じゃみちゃんも母という安らぎを見つけれた。
じゃみちゃんはその後、母にしか懐かなかった。
帰省した時は逃げられるので私は寝込みをそっと襲って少しだけ撫でて吸うのをかろうじて許してもらっていた。
マジでウザかったと思う。ごめん。未練たらたらなんだわ。
そんなこんなで13年。
去年の11月に帰省した時に真っ黒の艶やかな毛並みが赤茶けて、背骨が見えるくらいガリガリに痩せたじゃみちゃんをみて衝撃を受けて。
逃げる気力もなくただ無心に撫でるのを許してくれている姿に不安を覚えた。
それでもこの春までは生きていたのだ。
3月12日。
その日は珍しく下の畑に降りていったそうだ。
家は少し高い位置に家があって下に畑があるから下の畑と呼んでいる。体が弱ってからは軒先以上は出なかったらしいじゃみちゃんがそこに居るのを母は見た。
じゃみちゃんもじっとこちらを見ていた。
母は用事があって少しして出掛けた。
そして母が帰ってきてもじゃみちゃんは帰ってこなかった。
思えば最近ずっと傍に寄ってきていたようだ。
普段近寄らない父も撫でさせてもらったと聞く。
母は家で死んでくれれば畑に埋めてあげられたのにと言った。
(火葬とかそういう手段はきっと昔から考えてない我家の事情です察して下さい)
消えた畑の周辺も裏山も探したが見つからなかった。
あんなに家に入り浸っていたのに、最後は野生の本能で姿を眩ました。
聞いた時はあんな状態だったしいずれはと思って覚悟もしてたから、そっか…としか言えなかったけど今とてもどっと来ている
どっときてる……