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よるの電車と踊るメメ、物語はない。

都市生活における電車というのは、公衆環境にありながらとてもプライベートな空間である。電車に乗り込めば、如何に廻りの環境から影響を受けないかに腐心し、自分の空間を作ることに躍起になり、それを侵す者には容赦がない。

かつて地方からやってきた僕にとって、電車は長距離移動のための手段だったから、電車に乗るやいなや寝込んだり、新聞を肩の幅に留め広げ涼しげに記事を読んだり、ヘッドフォンで音楽を聴きながら目を閉じている光景が都会的に見えたし、僕もそんな光景の一部になるべく努力をしていたような気がする。

そして今は多くの人が電車に乗り込むやいなやスマートフォンの小さな画面に没頭する姿は見慣れた光景だ。その姿は都会的なんだろうか?

僕の知り合いのダンサーで、毎日様々な場所に出没しては踊る人がいる。都会のど真ん中で。大きな公共施設で。商店街の片隅で。電車の中で。自然豊かな場所で。それをスマホで動画に収めては毎日のようにSNSにアップする。

そこに映っているのは踊るその知り合いだけど、同時に記録されているのは、踊るそのストレンジャーに無関心を装ってる人たちだ。これは僕も経験があるけど、街なかで突然踊りだしても、不法侵入をしたり、道行く人に危害を加えなければ、街の中でも、電車の中のようにプライベートな、しかも動的な空間を簡単に築くことができる。これは劇場での活動が出来なくなたこの一年の活動で気付かされた、もっとも大きな発見だった。

電車の話に戻るが、よるの電車というのは、ひるの電車とはまるで別物だ。

田舎では、よるの電車は闇の中を悠々とすすむ。煌々と白いLEDライトで車室を照らし、宇宙船のように突きすすんでいく。大気の組成が違うかのように、明と暗の境目はそれほどまでに明確だ。それは都会も変わらない。光による車室と外界との異次元度は田舎とは比にならないけど、都会ならではの公衆のなかのプライベート空間があって、確実に移動しながらおのおの自分の時間を過ごすことができる。

「メメは、死んでることに気づいてなくて街を彷徨ってるんじゃないか?」

2021年1月某日。緊急事態宣言下の六本木STRIPED HOUSE GALLERY で、彫刻家・菅野猛さんの個展「向日葵」の会場をお借りし、初めてメメ/トトというキャラクターを撮影したのだが、仮編集を終えたあと、そんな説が制作陣に出てきた。

このフィクション「メメ」はト書きだけで構成されたメモのような台本があるが、ドラマのようなテキストはない。物語がないから、見る人それぞれに物語を委ねることができる、そう思っている。なにせもともとドキュメンタリーから派生するフィクションという位置づけだし、今後の取材する相手によっていろいろな展開に対応できなくてはならない。

メメは死んでいるのかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。

そう思ったらメメを踊らせたくなった。

そんなわけで、ト書きメモのような台本にはなかったけれど、せっかくロケーションのいい場所に撮影に来ていたので、吉田真優さんに踊ってもらった。踊る格好ではなく、いつもの‶歩く女、メメ″の恰好でダンスしてもらった。

この撮影が終わって仮編集を終え、何人かの知り合いに見てもらったら、「メメの恋心が伝わった」というような感想を頂いた。全然そういう設定ではなかったが、見ている人にとって投影される物語が多ければ多いほど嬉しい。

風景があり、環境があって、人間(身体)がいて(あって)、その人間(身体)が普段やらないアクションをする。そこに関係性が生まれる。見出す。それがフィクションだと思う。

普段の電車の景色にどれだけ公衆の場として、プライベートな僕らは関わっていけるだろうか。
電車の中で、そんなことを考えながら、今日も家路につくのだ。


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 よるの電車
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omokage_メメ/シーン6より

出演/吉田真優(メメ)、ヨシアノ(トト)
撮影/芥生浩隆、熊谷知彦
音楽:Me / Fjodor (Artlist)
   ReflectionsontheWaterftDYEBRIGHT / SPEARFISHER (Artlist)
制作:LOKI
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