冒険は続くのだ(インディ・ジョーンズ 運命のダイヤル)
長年のファンならば、ワンカット目から違和感を感じるはずだ。
1981年の第一作目以降、インディ・ジョーンズシリーズには、ある「お約束」がある。
それは、提供のパラマウント社の山のロゴが出たあと、ワンカット目で、その山に被せるように、実際の山か山のようなものを映し出すというものだ。
第一作目は南米の山、第二作目は銅鑼に描かれた山、第三作目はアメリカの赤茶けた山、第四作目は趣向を変えてプレーリードッグの巣。
それが今回は、なかったのだ。
シリーズがシリーズである所以
今回は製作のルーカスフィルムのロゴからナチスのバンの錠前のカットに切り替わっていた。
ロゴから実際の何かに変わるというのは、今までのものを踏襲している。
だが、それは「山」ではなかった。
なにせ、冒頭のシーンはアルプス山中であり、ワンカット目が山でも全く問題はなかったはずなのだ。
さらに別の「掟破り」もある。
それはインディの移動のシーンだ。
今までは飛行機や船の映像の背景に地図が映され、移動の軌跡がテーマ曲とともに描かれていくという演出があった。
移動中、何度このシーンを脳内で思い描いたことか。
ところが今回、最初の移動であるニューヨークからモロッコへの飛行シーンでは、地図ではなく回想シーンが挟まった。
シリーズものの映画、というものには、一種のカタがある。
例えば、同じルーカスフィルムの「スターウォーズ」シリーズ。
必ず冒頭で「遠い昔、遥か彼方の銀河系で」という言葉が現れ、タイトルのシークエンスへと進む、
あれがなければスターウォーズではないと言える。
それは、一種のアイデンティティのようなものなのだ。
そのアイデンティティを捨てる。
それも、シリーズ最終作で。
いったいどういうことだろう。
監督が変わったからだろうか?
だがそういう類の「冒険」は誰も求めていないはずだ。
皆、インディ・ジョーンズが見たいはずなのだ……。
だが、そんな私の戸惑いは、映画を見ているうちに、消えていった。
第二の誕生
そもそも、作品前半で描かれる主人公インディの姿は、明らかに、我々が知っているインディ・ジョーンズではない。
つまり、彼は、今までの快活な冒険家ではないのだ。
隣の部屋の若者が大騒ぎしていると、「うるさい」とバットを持って乗り込む老人。
最終講義をしてもほとんどの学生は授業を聞かず、質問にも答えず、そんな状況にも諦めている老教授。
今までの、ナチスや怪しい教団やソ連を相手に古代の秘宝を守り、ヒロインを虜にするインディを知っていると、観ていて痛々しい。
そんな一人の老人が、いつのまにか、ナチスの残党との秘宝争奪戦に巻き込まれていく。
そのうちに老人はインディ・ジョーンズに再びなっていく。
目には光が灯り、冒険にも前のめりになる。
それとともに、シリーズのアイデンティティの一つ、地図のシーンが挿入される。
つまり、最初のインディ・ジョーンズシリーズらしからぬ演出は、前半のインディ・ジョーンズらしからぬインディを表しているのではないか。
私はすっかり監督の術中にハマっていたわけだ。
冒険を捨てた老人が再び「インディ・ジョーンズ」になる物語。
ある意味でこれは、彼の第二の誕生なのだ。
世界中の「年老いた元冒険家」たちへ
そんなふうに今作を解釈した時、私は人ごととは思えない感覚に陥った。
2019年まで、インディに影響されてかは定かではないが、毎年のように海外へ行っていた。
ヴェトナム、タイ、カナダ、台湾、カンボジア、フランス、スペイン、ロシア、イタリア、ギリシャ、トルコ……。
それが、2020年のコロナウイルス感染拡大でどこにも行けなくなった。
世界的に、誰もが、旅や冒険から遠ざからざるを得なくなってしまった。
きっとそれは「旅」にかかわらず、血湧き肉躍るような体験の多くがそうだったのだと思う。
いわゆる「不要不急」とされたものであれば、なんでも……。
その4年はかなり大きなものだったように思う。
今まで旅してきたことなどまるで嘘だったかのように感じることがある。
自分が海外で一人で色々なことを乗り切ることなんてできないかのように感じることもある。
だが、それらの体験は確かに現実だったわけだし、海外で一人でなんとかやっていたのも紛れもない事実なのだ。
それでも、信じられない。
だが、劇中では、老人が冒険を通して再びインディとなった。
時間の流れや悲しみの渦の中で、心が縮こまってしまっても、再び冒険する心を思い出すこと、改めてやり直すことはできる。
冒険を始めれば、冒険は始まるのだから。
あえて最終作を、華々しい老インディ・ジョーンズの冒険で飾らず、老人がインディ・ジョーンズになる物語にしたのはきっと、世界中の「年老いた元冒険家」たちに対するメッセージなのではないか。
The adventure continues(冒険はまだ続く)
と。
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