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ウーパールーパー
ファミレスの店長である主人公は、配偶者に頼まれて義父を密かに自分の店で働かせる事に。かなり物覚えが悪いけれど憎めない人柄でどこか可愛げのある義父は、何となく似ているからという理由で「ウーパールーパー」というあだ名が付く。最年少の女の子にも気軽に「ウーパールーパー」と呼ばれて、満更でもない義父。そのあだ名を付けたのは、毎回新人の教育係を任されるベテラン店員(苗字がリーなので通称「将軍」)。彼女は主人公にはよく媚び、裏では店の事を主人公よりも仕切っている存在だった。
いつからか、ベテラン店員「将軍」の口からどれだけ「ウーパールーパー」が使えないかという愚痴を暇さえあれば聞かされるようになる。その度に上手く言いくるめようとする主人公だったが、弁の立つ「将軍」に言い負けていたたまれない気持ちになってしまう。
義父に面と向かって厳しくする事も出来ず、遠回しに配偶者を通じて伝えてもらおうと相談すれば必ず配偶者から「なぜ庇ってあげないのか」と怒られ、そもそも義父に難しい仕事は無理だと頭では理解している部分もあり、八方塞がりとなる主人公。
店長がどうも煮え切れない事に業を煮やした「将軍」は、ある時から急にあたり構わず義父のことを叱責するようになる。影響力の強い彼女のそれに、他の従業員も追従し、公然と義父を罵るようになってしまう。もはや店長が何を言っても、義父のちょっとしたミスを面と向かってあげつらう事が日常茶飯事となり、職場の雰囲気は著しく悪くなる。
それまで気安く「ウーパールーパー」と呼ばれて満更でもなくニコニコしていた義父はその頃から常に表情を暗くし、厳しく叱責されればされるほど些細なミスを繰り返すという悪循環に陥っていた。自宅でも常にしょぼんと沈み込んでしまっていて、義母からも何事があったのかと主人公は問い詰められるようになる。特に配偶者は毎晩のように主人公に恨みごとを言うようになっていった。
そんなある日、いつものように「ウーパールーパー」の名で呼ばれる義父を目にする。呼ばれた義父の背中は信じられないほど小さく見えた。主人公は意を決して彼のもとに近寄り、優しく労るように声を掛ける。今でも愛称で呼ばれ続けているのだから、まだ何かしら希望があると思いたかった。しかし、義父の表情に感情の機微は感じられず、死んだ魚のような瞳で主人公を一瞥しただけ。もはや限界なのだと主人公は実感した。このまま職場に置いていても家族関係さえ気まずくなってしまうような気がして、辞めた方がいいのかもしれないと伝えようと事を心に決める。
その直後に「将軍」がいつものように粗探しした上で義父をなじろうと寄ってきたので「彼の事は辞めてもらうよう伝えるつもりだ」とこそっと伝え、むしろ「将軍」を連れて別室へ。そこで「将軍」には居る間くらいは優しく出来ないのかと伝える。「あの人は年齢的に新たに物を覚えるというのが不得手だし、そんなの最初から分かりきっていた事をじゃないか」と主人公。「むしろ最初の頃は親しみを込めてウーパールーパーっていう愛称を付けて、みんな優しく接してくれていたじゃないか」。すると、「将軍」は笑った。「店長はウーパールーパーの意味知らなかったんですか?」。「最初からアホなロートルっていう意味ですよ」。