ディズニー航海日誌①
【航海日誌①】
この航海日誌は、十数年前に経験した、ディズニーシーで起こった悲劇のものがたりである。
大いなる後悔とともに、ここに公開するのである。
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『ディズニーランドに行きたい!』
世の健全なるお父さんの多くが、この言葉を聞いて思うことはひとつ
「召集令状きたっー!」
そう、戦地に赴く心境である。
夢の国と言われる戦場では、オヤジ達はスキあらば休めるところを探す。
笑顔を絶やすことなく、努力をしつつ。
まさに、敵国の戦場で有能に行動することが、休日の満点パパの勲章を手にすることができる。
できなければ、ダサ親父の烙印を押されるのである。
「まさしく、そのとおり!」と思ったあなたは、
同志だ。
7月1日、川崎市民の日は学校休みということで、
夢の国の機運が高まる息子とかみさん。
家族サービスの最上級=ディズニーランド。
ここをうまくエスコートできれば、
お父さんの株が上がる↑
できるパパは、ディズニーランドをノンストレスでパッピーエンド!である。
しかし、私の過去の体験で得たものは、『地獄の黙示録』である。
数少ないTDL体験のほぼ全てが、
ぐったりした体を引きずりながらTDLの門を出て、楽しかったと自分に言い聞かせ、作り笑顔が固まったまま車に乗り込む。
そして、帰るまでの長い道のりを考え、我にかえり沸々と怒りがこみ上げる。
『何が夢の国じゃ! まやかしじゃっ! まやかしじゃっ! みんなとりつかれとるっ! 恐ろしやっー!』
駐車場を出るための長い渋滞で、恨み念仏を唱えるのである、、、、。
そんな私のTDLヘイトな気持ちをかみさんはじゅうじゅう承知しているのだが、子どもは別である。
子供は行きたい!MAX!
つられて、かみさんも行きたいMAX!
魔法の国の魔力にやられているのである。
残念なことに、私はこの魔法にかからない。
いっそのこと、かかったほうが幸せなのはわかってる。
しかし、コシの強いツルツルうどん並に、箸にも棒にもひっかからないのである。
だからもうできることは、気持ちを切り替えて、家族サービスに徹する。
シークレットサービス並みに徹する!覚悟する!
お父さんとしての株を上げるためだけに、魔法にかかったふりをしてでも!と決意する。
『今度こそ、家族で最高体験、ハッピーメモリー刻んでこっ!』と、バカなテンションで、白昼夢でトリップするしかない。
覚悟が決まれば、いつまでも負け戦ではイカンと、ここはお父さんの凄さを見せつけるチャンスだと、俄然、戦闘モードになった。
なぜなら、私には勝算があった。
なんと、去年からフロアをシェアしている会社が、ディズニー関係のお仕事をしているのだった。
ディズニー関係、、、なんて、魅力的な関係、
どんな関係よりドリーム感のある関係、、
ディズニーとの関係、、、
それが、目と鼻の先にいるっ!
関係の関係を結ぶチャンス!
それとなく、やさしく教えてくれそうな女子に聞いてみると、ドリームワールドな関係関数が爆発!
年間パスは当たり前、常に最新の情報を持っているドリーミー全開な女性がいるではないか!
夢の国の夢子先生というべきSさんに、
「今度ディズニーランドに行くんですが、いろいろ教えてください!」
と意を決して頼むと、普段クールなSさんが、
菩薩も羨むほどの笑顔を向けてくれるではないか!
『あ、この人、TDL魔法にかかってるな。というか、中世の宣教師並みだな』
一瞬、引き気味になったが、どっこい、それでもありがたいと地蔵並みの笑顔を返す。
S先生にまず、「どうやら息子はランドではなくシーに行きたいと言っている」
というとすかさず、
『シーだったらとにかくトイストーリーマニアに乗ってください。入ってすぐにファストパスを取りに行ってください。そこで勝負は決まります!(菩薩スマイル!)』
考える間もないぐらい語りだすSさん。
『はい! わかりました! リニア? いや、トイストーリーマニアですね! マニアでもない素人ですが、とりあえずそれに乗れ!と、そ、それから、どうすればいいんでしょうか?? パレードとか、寸劇みたいなのは興味ないのですが…』
あえて、ショーを寸劇といって笑いを取ろうとしたが、S先生から一瞬の殺意!
あわてて、地蔵スマイルですっとぼけて、ギリセーフ!
S先生は、慈悲の心で哀れなTDL落ち武者おやじ一歩手前のわたくしを、お救いくださろうしておられる。
マリア様、いや、マウス様をいまから信じます!
ありがたや~!
「いいですか、トイストーリーマニアのファストパスを取るためには、まず、開園時間に並ぶ覚悟が必要です。そして、開園と同時に走ってください。走って並ぶんです。ファストパスの列に並ぶんです。みんな走りますよ~。頑張ってお父さんは、ダッシュしっくださいね~。はい、そしてパスが取れたらあとは、好きな乗り物に乗ってください。ファストパスは一度取ると1時間は次のファストパスは取れません。そのために、携帯で乗り物の混雑時間を常にチェックし、それを計算しつつ、その間に空いてる乗り物に乗る。
そして、ファストパスを取る。その繰り返しです。そして大事なことですが、チケットはネットで事前に購入しておくこと。チケット売り場に並ばなくてすみますからね。常識ですね」
わ、わかりやすい! シンプルで的確!
野村ID野球のようなわかりにくさは一切ない!
これが、いわゆるメジャーベースボール!?
シンプルイズベスト!
ディズニーシーで遭難の挙句、落ち武者!
から一転して、海賊船の船長気分!
羅針盤を持って宝の地図を眺めるジャック・スパロウに変身だ!
そして、S先生はおもむろにデスクの引き出しを開けると、ディズニーシーのパンフレットをそっと私に差し出し、一言、
「がんばってきてください。(弥勒菩薩スマイル!)」
後光!後光が射しとります!
「せんせいっ! オラ、がんばる! 思い出の宝を!宝石を!先生に届けるだっ!」
と、心の中で固く誓ったのであった-
-後半に続く-