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受容と共感

 アメリカの心理学者ロジャース ( Rogers, Carl Ransom / 1902-87 ) は自身のクライエント(来談者)とのカウンセリング中に、積極的なアドバイスは行わず、クライエントを援助 ( helping ) する手法を考え出した。それは、クライエントの感情を受容し共感することにより、クライエント自らに問題解決の力をつけようとするものだった。

 ロジャースはこれを「非指示的援助法 ( nondirective helping method ) 」と呼び、論文を発表した。その後、この手法は広く認知されることになったが、ロジャースは「手法 method 」と言われることを嫌い、代わりに、「来談者中心カウンセリング( client-centered counseling ) 」と呼び、現在にいたっている。

 「受容と共感」とは、クライエントの感情に焦点をあて、指図 (さしず) したり、反論したりせず、そのまま受け入れ共感することで、クライエントが、「自分の気持ちをわかってもらえた」、という安心感を得ることができるものである。「話をしている相手は自分の痛みをわかっている」と思うと、クライエントは安心感を得ることができる。

 例えば、「痛い」、と言えば、「本当に痛いですね」、と共感し、「辛い」、と言えば、「それは大変辛いことですね」、と言うことで、痛い思いや辛い感情を共有するということだ。するとクライエントは安心し、問題の整理ができ、自ら解決しようとする力が湧いてくる。もしクライエントが問題解決法を言い出せば、それを受容して支持すればよいし、場合によっては次の来談が不要になることもある。

 このように、受容と共感はクライエントの問題解決に重要な役割をはたす。要はあくまでもクライエントの感情を受容し共感することであり、理屈や道理で指図 (さしず ) したり議論したりすることではない。
 仮にクライエントが理屈や道理に合わないことを言ったとしても、それは「辛い」という感情を訴えるためだけの言語表現だったりするので、言っている内容自体はあまり意味を持たない。言語表現の裏にある「感情」にこそ焦点をあてることである。

* 例えば、体罰トラブルのケースでは:
 被害生徒の痛みや恐れ、不安を感じることではじめて教員側の謝罪が伝わる。父母に対しても同様で、子供を預けている不安や恐れ、体罰に対する怒りを受容し共感することが肝要だ。

 生徒側の問題点を指摘しても、「*防衛機制」から被害者の怒りを増長させ、信頼関係に亀裂が生じ、問題解決から遠のく。生徒や父母の感情を受容し共感することで、「自分の息子にも悪い点があった」、ということを父母側から言ってもらえる場合もある。

* 例えば、「末期ガン患者」が医師に痛みを訴えた場合:
 「痛み止めの薬をあげますからすぐに楽になりますよ」、と言うよりも、「そりゃ、痛いよな!死ぬほど辛いよな」、と言ってあげた方が患者の気持ちは楽になる。医師が自分の「痛い」という感情を共有してくれたと思い、安心感が得られるからである。

* 防衛機制:攻撃に対して無意識に自分を守ろうとする行動や態度、言語表現

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