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【新潟3ラインの突破方法】「皇后杯 第46回 決勝」アルビレックス新潟vs 浦和レッズ 分析レポート

「皇后杯 第46回 決勝」

アルビレックス新潟レディースvs 三菱重工浦和レッズレディース 分析レポート

1-1(前半1-1/後半0-0/延前0-0/延後0-0/PK/4-5)


※ PK戦までもつれ込んだ影響で、延長前半途中までしか録画できていなかったため、分析対象は前後半90分までとさせて頂きます。ご了承ください

Ⅰ.「戦評」

 過去4度の皇后杯準優勝。シルバーコレクターを返上し、悲願の優勝・男女通じて初タイトルを掴み取りたい、アルビレックス
 対して、前回大会決勝、後半ATの失点で同点に追いつかれ、PK戦で敗退。その悔しさを晴らすためには、優勝しか道は残されていないレッズ
 そんな2クラブが相まみれることとなった、皇后杯第46回決勝。

アルビレックス

 アルビレックスは前半序盤こそ、DFラインと中盤の間をコンパクトに保ち、レッズ攻撃陣にスペースを与えていなかったものの、早い段階から徐々に間延び
 そんな中での前半11分。ライン間に位置取る、塩越選手にボールが渡ってしまい、警戒していたはずの形で失点

 それから暫くは、高橋・塩越選手を中心としたテンポの良いレッズの攻撃に翻弄されていた中、前半25分、右サイドからのクロスに左SBの園田選手が走り込み、ゴール左隅に強烈なシュート。
 これは惜しくも池田選手に防がれるも、このシーンを機に潮目が変わり、直後の28分に同点ゴール
 スローインの流れから、川村選手がレッズのお株を奪う様な縦関係でのワンツーで相手を剥がし、BOX内・ライン間で待つ滝川選手へとパス。ボールを受けた滝川選手は、相手DFが飛び込めない細かなタッチを2回挟み、自らコースを作り出してのシュート。これが見事にゴール右隅に突き刺さり同点。

 後半からは守備に修正が入り、「4-4-2」の3ラインをコンパクトに保つ形を徹底
 これが見事に嵌まり、前半と比較して、レッズの決定機は激減。

 攻撃では、滝川選手を中心とした中央からの攻撃や、ファーへのクロスで決定機を作るも、池田選手の好セーブもあり、得点とはならず。
 レッズDF陣はクロスに対して、同一視野(ボールとマーカーを同一視野に入れる立ち位置・身体の向き/クロス対応の原則)を取れていないシーンが見受けられ、決定機のシーン含め、アルビレックとしてはこの形を狙っていた印象

 後半81分には、アルビレックス一筋19年目のレジェンド、上尾野辺選手・元日本代表の田中達也氏を父に持つドリブラー、田中聖愛選手・今月限りでの退団が決まっており、この試合がラストゲームとなる児野選手と、攻撃の選手を3枚替え
 それでもスコアは動かないまま後半終了。

レッズ

 レッズは前半序盤から、高橋・塩越選手を中心とした攻撃・ネガティブトランジションからの素早いボール奪取で、アルビレックスを圧倒(攻撃の詳細は後記します)

 レッズのテンポの良いパスワークは、見ていて純粋にサッカーを楽しめるプレーであり、これは女子サッカーのひとつの魅力であると感じました。

 アルビレックスの同点シーンでは、滝川選手の一連のプレーが素晴らしかった一方で、レッズのDFラインが極端に低かったことが失点要因であることも事実。
テレビ放送では、失点前のレッズDF陣の動きが確認不可。よってラインを上げられなかった理由は不明

 後半からは、守備陣形をコンパクトに整えて来たアルビレックスの対応に苦しみ、攻めあぐねる展開に。
 中央にスペースが見つからない中、恐らく怪我の影響でスタメンを外れていた、日本代表SBの遠藤選手・今季、現役高校生ながら既にリーグ3ゴールを上げており、サイドでの仕掛けも期待できる藤﨑選手を投入し、サイドからの攻撃を狙うも、思う様に事は進まず、延長戦に突入。


 そんな2クラブではありましたが、延長戦でもスコアは動かず、PK戦では池田選手の活躍もあり、レッズが3大会ぶり2回目の優勝という結末に。

 そこで今回のレポートでは「レッズの攻撃パターン&先制点」「アルビレックスの3ラインを破る方法」をメインに分析・解説していきたいと思います。

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Ⅱ.「フォーメーションの確認」

 アルビレックスは「4-2-3-1」をベースに採用。
 守備時は「4-4-2」に可変する、オーソドックスなスタイル。
 (前半は間延びしてしまったものの)3ラインをコンパクトに保ち、相手にスペースを与えないスタイル

 レッズも同じく「4-2-3-1」がベース。
 但し、トップ下の塩越選手がCFの高橋選手と並ぶ様なシーン・4トップの様なシーンも見られ、その辺りは流動的。
 守備時も同じく「4-4-2」に可変。
 アルビレックスと比較し、前線から積極的にプレスに行く傾向。また、ネガティブトランジションからのボール奪取は脅威

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Ⅲ.「レッズの攻撃パターン&先制点」

 この試合におけるレッズの攻撃パターンは、主に以下の2点となるかと思います。

① 両SBからCF高橋選手へのダイレクト・インスイングのロングボール
② レッズSHに食い付いたアルビレックスSB裏のスペースの活用

 この2点の入口・道中・出口において、塩越選手がライン間・中間ポジションでアクセントをつけながらゴールに迫る、これがレッズの主な攻撃パターンとなります。

7分(アルビレックスSB裏のスペースの活用)

 具体的な流れは以下の通りです。
① 左SB(栗島選手)からの縦パスを中間ポジションで塩越選手が受ける
② 塩越選手から左SH(高塚選手)にパス
相手SBがレッズSHに食い付いた直後、SB裏のスペースにボールを送る
④ ③のスペースに高橋選手が走り込む
⑤ 高橋選手の落としを中間ポジションで塩越選手が受ける
⑥ 塩越選手からスルーパス

 ちなみに21分には、右サイドから相手左SB裏のスペースを高橋選手が突いています
 このシーンでは、SB裏のスペースに流れた高橋選手から、バイタルエリアにマイナス気味のクロスが入るのですが、塩越選手はペナルティアーク辺りまで入って行き、その後ろから入って来た伊藤選手がボールを受け、シュートを放っています。

 伊藤選手はBOXの外から鋭いシュートを打てる選手でありますが、このシーンでは審判と被ったこともあり、ゴールとはなりませんでした。
 ただそれでも、この形があることを相手に印象づけるだけで、相手選手は判断に迷いが生じるため、そういった意味でも効果的なプレーであったと思います。

15分(右SBからCF高橋選手へのダイレクト・インスイングのロングボール)

 具体的な流れは以下の通りです。
① CB(石川選手)から右SB(長島選手)へパス
右SBは左足・ダイレクトで、インスイングのロングボールを高橋選手に送り込む
相手選手の視線がボールと高橋選手に集中
③の間に塩越選手は次の展開を予測し、先回りして動き始める
⑤ 高橋選手の落としに塩越選手がいち早く反応
相手選手の視線が塩越選手に集中
⑥の間に高橋選手はBOX内に侵入
⑧ 塩越選手から高橋選手にパス
相手選手の視線が高橋選手に集中
⑨の間に塩越選手はゴール前に走り込む
⑪ 高橋選手から抑えの利いた鋭いクロス
⑫ 塩越選手が足を伸ばすも、惜しくもボールには届かず

図Ⅰ.右SBからCF高橋選手へのダイレクト・インスイングのロングボール

 まず、②の局面において、右SBが「左足」「ダイレクト」で蹴ることには、大きく分けて2つの利点があります。

 1点目は「ボールを奪われる(触られる)可能性の低減」です。
 右SBにおける「左足」は、基本的に相手選手から遠い方の足
にあたります。そのため、相手選手にボールを奪われる(触られる)可能性は「右足」と比較し、大幅に低くなります

 2点目は「相手DFの初動の遅れ」です。
 
DFの立場から考えると、ダイレクトで蹴られた場合、(少なくとも初見の際は)単純に意表をつかれる形となってしまい、どうしても一歩目が遅れてしまう傾向にあります。
 ちなみに今回は高橋選手に当てる様な形でしたが、DFラインの裏にボールを送り込んでいた場合、相手CBが守備の原則「DFラインの裏ケア」(DFラインの裏に抜けて来る相手選手に対応するため、ボールホルダーのキックモーションに合わせて、事前に半身で数歩下がる)を徹底できていない選手であれば、このロングボール1本でゴールに迫ることも可能となります。

 
 次にポイントとなるのは④の塩越選手の動きとなります。
 相手DFの視線がボールと高橋選手に集中している間に、彼女は次の展開を予測し、先に動き出しているのですが、この「先回りの動き」により、レッズとアルビレックスの間にズレが生じることとなります。

 ④でズレを作ったことにより、後は「視線の集中」を利用し、ズレを保ち続けながら前進(⑦・⑩)することで、スムーズにゴールへと迫ることが出来たという攻撃の形でした。

11分(中間ポジションを起点とした先制点)

 具体的な流れは以下の通りです。
① 相手選手のクリアボールを、ボランチ(柴田選手)が塩越選手にダイレクトでパス
中間ポジションでボールを受けた塩越選手が右足ワンタッチで前を向く
相手2CBの間のコースに走り込む高橋選手に、塩越選手からスルーパス
④ DFラインの裏に抜けた高橋選手が、GKの股下を通すシュートを決めて先制

図Ⅱ.中間ポジションを起点とした先制点

 まず、①に関してですが、「相手の中盤に帰陣する時間を与えなかった」「事前に塩越選手の位置を把握していた」という点において、このダイレクトパスは素晴らしかったと思います。

 続く②において、塩越選手がワンタッチで前を向くことで、実質「2(高橋・塩越選手)対2(2CB)」の状況に持ち込むことが出来ています。

 そして③の局面では、塩越選手が2CBの間に右足アウトサイドでスルーパスを通すこととなるのですが、高橋選手のランニングコースと合わせて、これが非常に効いていました。
 と言うのも、図Ⅱの右CBは高橋選手に背中に入られており、彼女のことがよく見えていなかったため、もはや実質、高橋選手対左CBという状況にありました。
 そんな中、塩越選手は左CBのランニングコース上にパスを送っており、そこに高橋選手が走り込んだことで、左CBは「もはや止めるには、退場覚悟で後ろからファールするしかない」という窮地に追い込まれていました。

 ただ、大事な決勝の前半11分に退場を選択する必要はなく、結果として、高橋選手の先制点が決まったという流れになります。

 ちなみに図Ⅱの赤色の矢印の様なスルーパスを送ることも可能でしたが、上記の理由から、圧倒的にゴールの確率が高い実際のコースを瞬時に選択した、高橋・塩越選手のサッカーIQの高さが出た形であったとも言えるかと思います。

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Ⅳ.「アルビレックスの3ラインを破る方法」

 後半から守備に修正が入り、「4-4-2」の3ライン(特に「4-4」の間)を徹底的にコンパクトにして来たアルビレックスに対し、レッズはスペースを見つけること・作り出すことが出来ず、前半と比較して攻めあぐねていた印象を受けました。
 その象徴的なひとつの形が図Ⅲとなります。

図Ⅲ.コンパクトな3ラインに苦しむレッズ

 後半、レッズはビルドアップの際、SBがサイドで張ってボールを受け、アルビレックスのSHからプレスが掛かると前にボールを送り、次の局面で手詰まりという様な形に陥っていました。
 中央にスペースがなく、前半の様に起点を作れない以上、外から攻めたくなる気持ちはわかりますが、外のレーンは外のレーンで図Ⅲの様に渋滞(特に左サイド)しており、また、単にミラーゲームの様な構造にもなっていたため、工夫なしには崩すことが難しい状況にありました。

 そこでこの状況を打破するための方法として、今回は「サイドチェンジ」「SBのボールを受ける位置の修正」の2点を提案します。
 
 ちなみに先にお伝えしておくと、ドリブルで仕掛けられる藤﨑選手の投入は、ひとつの打開策として有効策であったと思います。
 ただ、冒頭に記した通り、延長戦は途中までしか観ていないのですが、そこまでの中での話として、藤﨑選手が仕掛けやすい形で彼女にボールが入っていなかった点は非常にもったいなく、そこの修正も含めた「SBのボールを受ける位置の修正」となります。


サイドチェンジ

 こちらは図なしで解説させて頂きます。
 SBをサイドに張らせるならば、SBからSBまでのサイドチェンジを繰り返すことで、相手の中盤4枚は徐々にスライドが追いつかなくなり、個々の間が開き始め、ライン間への縦パスを通しやすくなると考えられます。
 また、中盤4枚が片方のサイドに偏り、逆サイドにスペースが出来るという展開も起こり得るかと思います。そうなれば、そのスペースを使い、ドリブラータイプの選手が持ち運ぶ・仕掛けることも可能となります。
 更には、サイドチェンジを繰り返している内に、相手選手が焦れて、どこかのタイミングで不規則に前に出てくれば、その段差を利用してパスを通すことも出来るかと思います。

 後半のレッズは、縦に前に急ぎ過ぎている様に感じられたので、サイドチェンジを織り交ぜることは上記の理由含め、必要なプレーであったと思います。


SBのボールを受ける位置の修正

図Ⅳ. SBのボールを受ける位置の修正

 結論から言ってしまうと、図Ⅳの円のスペースの中・相手2トップの両脇、つまりは「内側」でボールを受けるべきであったと僕は考えています。

 具体的な流れとしては以下の通りです。
① CBが相手CFを軽く引きつけてからSBへパス
② SBは図Ⅳ円のスペースの中でボールを受ける
SBに対して相手SHが食い付き、背後にスペースが生まれる
④ SHにボールを当て、SHは③で出来たスペースにボールを落とす
中間ポジションに当たる③のスペースで塩越選手がボールを受ける

 SBが内側にポジションを取ることで、図Ⅲの様にサイドで嵌められることはなくなり、更にはアルビレックスのSHはレッズSBに対して前に出て来る傾向にあったため、その裏のスペースを活用することが可能となります。

 また、④の局面において、SHが相手SBから少し距離を取ってボールを受ければ、ドリブルで仕掛けやすい状況を作り出すことが出来、仮に相手がぴったりとついて来た場合、裏のスペースにSH自身やCFが抜けることで、こちらも好機に繋げることが出来るはずです。


 「皇后杯 第46回 準決勝 アルビレックス新潟レッズレディース vs三菱重工浦和レッズレディース」の分析レポートは以上となります。
 有難うございました。

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