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【守備の原則とベルマーレ】「2024 J1リーグ 第38節」ヴィッセル神戸vs 湘南ベルマーレ 分析レポート

「2024 J1リーグ 第38節」

ヴィッセル神戸vs 湘南ベルマーレ 分析レポート

3-0(前半2-0/後半1-0)


Ⅰ.「はじめに」

 クラブ史上初となるリーグ連覇・二冠達成にリーチが掛かっているヴィッセル神戸。
 前節は試合終了間際の劇的な同点ゴールで引き分けに持ち込み、数字以上の意味を持つと言って過言ではない「勝ち点1」を獲得。
 その結果、今節「勝てば優勝」(引き分け以下でもサンフレッチェ・ゼルビアの結果次第では優勝の可能性あり)という、分かりやすい条件で試合に臨むことが出来る点は好材料。
 真の強豪クラブへの道を邁進すべく、是が非でも優勝を勝ち取りたい一戦。

 対する湘南ベルマーレは、もはや秋冬の風物詩とも言えるシーズン終盤の追い上げで残留を確定。チームとしての完成度が高まって来たシーズン終盤においては、優勝争い中のクラブを上回るペースで勝ち点を積み重ねており、結果だけでなく内容も伴っている素晴らしい試合を披露。
 注目はリーグ二桁得点コンビの鈴木章・福田選手の2トップと、チームの心臓であるアンカーを担う田中聡選手。
 果たしてベルマーレは目の前での優勝を阻止できるか。

 結果としては「3-0」でヴィッセルの勝利。冒頭にて記した通り、クラブ史上初となるリーグ連覇・二冠を達成。
 ヴィッセルは序盤から得意のロングボールとクロスを多用した攻撃で、ベルマーレ守備陣を圧倒。前半の2得点は何れもその得意な形から生まれており、宮代・武藤選手が決めた点も含め、今シーズンの集大成と言える攻撃を披露。
 守備では前線・中盤・最終ライン、どの局面でも最後まで球際激しく戦っており、注目のベルマーレの2トップに対しては、山川・トゥーレル選手が仕事をさせず、見事にクリーンシート達成。

 ベルマーレは幾ら「目の前で優勝は見たくない」「来季へ繋がる試合を」「1つでも上の順位へ」と動機付けとなる要素を並べたところで、正直に言って、ヴィッセルの「優勝」というモチベーションには敵うわけもなく、スタジアムの雰囲気も含め、メンタル的に難しい試合であったとは思います。 

 ただそんな中でも、失点シーンにおける「もったいない」と言わざるを得ない守備対応「ヴィッセルのSB裏」にしか出口を見つけられなかったビルドアップに関しては、改善の余地あり
 そこで今回のレポートでは「ベルマーレの失点シーン」「ベルマーレのビルドアップ」をメインに分析・解説していきたいと思います。

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Ⅱ.「フォーメーションの確認」

 ヴィッセルは「4-1-2-3」をベースに守備時は「4-4-2」に可変。
 トランジションにおけるアンカー脇のスペースが気になったのか、後半途中からベースを中盤三角形の「4-2-1-3」に変更。

 ベルマーレは山口監督の下ではお馴染みと言える「3-1-4-2」がベース。守備時にはWBが最終ラインに入り、サイドボランチ(IH)がアンカーと並ぶ「5-3-2」に可変。
 後半、ヴィッセルのシステム変更への対応なのか、別の意図を持ってのことなのか真意は不明ですが、ベースを「4-4-2」に変更。

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Ⅲ.「ベルマーレ失点シーン 徹底検証」

注意事項

 この章では守備の原則を引き合いに出しながら、失点の問題点・改善案を示すことになりますが、その前にひとつお伝えしておきたいことがあります。
 「原則を守っていれば失点の可能性が下がる」ことは確かでありますが「常に原則を守り続けることは言う程、簡単なことではない」ことも確かであり「そもそもプロでも原則を知らない(習っていない)方も少なくない」ことも確かであります。
 そのため、失点に絡んだ選手を安易に責めることは出来ません
 その点を踏まえた上でお読み頂けると幸いです。

1失点目

 1失点目の流れは以下の通りです(映像1分49秒~)。

① ヴィッセルが押し込んでいる中、ベルマーレから見て左サイドへと展開
② 大迫・井手口・酒井選手の間で短いパス交換を数本挟んだ後、井手口選手から酒井選手にバックパス
③ ②の途中で大迫選手は最前線に戻る
④ 酒井選手からインスイングのクロス。大岩選手の前に武藤選手が入り、ヘディングシュート
⑤ 上福元選手がセーブするも、こぼれ球を巡ってミンテ選手と広瀬選手が交錯
⑥ フリーの宮代選手がゴールに流し込み失点

 以上を踏まえた上で、問題点・改善案を示していきたいと思います。

 ②③の局面における問題点としては……
・前線に飛び出した後、サイド・ライン際まで流れた井手口選手に対して、サイドCBの鈴木淳選手が釣り出されてしまっている
→エリア内の空いたスペースに大迫選手が走り込む
井手口選手1枚に対して、鈴木淳・畑選手の2枚で見る形となっている→WBを下げて5バック化した意味がない
・前線に戻った大迫選手に対して、途中まで平岡選手が追走。パスが出ないと見るや否や動きを止めてしまう
大迫選手はエリア内でフリーの状態。3ボランチ3枚(平岡・田中・池田選手)はエリア内のスペースを埋めるでもなく、マークにつくわけでもなく、ペナ前で並列待機。これでは過剰配置

 ②③の局面における改善案としては……
鈴木淳選手は持ち場(最終ライン中央)を離れず、走り込んで来た大迫選手をマーク
・井手口選手に対しては平岡選手がプレス
平岡選手がサイドに流れても、ペナ前は田中・池田選手の2枚で不足なし
・畑選手は平岡選手との間を切りつつ、酒井選手へのバックパスに対しては、強度の高いプレスでクロスを阻害(せめて精度を落とす)
・バックパスに対しては細目に最終ラインを上げる(原則の徹底)
→ボールが動いている間にペナルティエリアラインまで上げ、キックモーションに合わせて下げていれば、オフサイドを取れていた可能性も


 ④⑤の局面における問題点としては……
・鈴木雄・大岩選手の立ち位置と身体の向き(同一視野の原則)
→正しい位置と身体の向きを取れていればクリア出来ていた可能性も。大岩選手が競り負けたとしても鈴木雄選手がクリア、もしくは広瀬選手と交錯の形に。そうなればミンテ選手は宮代選手につけており、失点の確率は下げられたはず

 ④⑤の局面における改善案としては……
・クロス対応の原則(同一視野)の徹底
→クロス対応の原則「マーカーとボールホルダー(ボール)が同一視野に入るポジション取り」(略称:同一視野)の徹底

 端的に言ってしまうと上記の通りではあるのですが、前々からもう少し具体的にお伝え出来ないかと考えており、今回、新たな説明を加えてみたいと思います。
 クロス対応において同一視野を取る際、図Ⅰの様に「両腕を90度の角度で広げ、その中にボール保持者とマーカーをぴったり収めるイメージ」で立ち位置と身体の向きを選択・調整すれば、正解に辿り着くはずです。
 具体的な流れとしては以下の通りです(図Ⅰ参照)。

右手でマーカーを触って適切な距離を取る。この際、背中を触ることでファーへ流れる動きに対する牽制にもなります
右腕を基準に90度の角度を作るイメージで左腕を上げる
90度の中にボール保持者とマーカーがぴったり収まる様、立ち位置・身体の向きを調整

 これでクロス対応の際、同一視野を取れる様になるかと思いますが、もちろん、試合中、悠長に手順を踏んで一つひとつ確認している余裕はありません。そのため、試合中、正しい立ち位置・身体の向きを意識せずに取れる様、日々の練習から意識付けすることが重要となります。

図Ⅰ.クロス対応の原則(同一視野)

 以上の点を踏まえた上で1失点目のシーンに戻りたいと思います。
 図Ⅱはヴィッセル酒井選手がキックモーションに入った際の、武藤選手と大岩選手2人の立ち位置・身体の向きを簡略化したものとなります(映像2分19秒~)。

図Ⅱ.1失点目とクロス対応の原則(同一視野)

 大岩選手はタッチラインと正対する様な身体の向きを取っており、その立ち位置・身体の向きで90度を作ってみると、武藤選手は枠外・酒井選手は中に入ってはいるものの、全く以て「ぴったり」とは言えない位置に収まっています
 これでは武藤選手の動きが見えておらず、反応が遅れて前に入られてしまうのは理論上、当然の帰結ということになります。
 ちなみに図にはしておりませんが、ファーサイドの佐々木選手と鈴木雄選手の関係性においても、同じ様な現象が起きています。

2失点目

 2失点目の流れは以下の通りです(映像3分59秒~)。

① ヴィッセル陣地の深い位置からのFK。前川選手がベルマーレゴール前にロングボールを放り込む
② ミンテ選手と大迫選手が競り合い、大迫選手が後方へボールを流す
③ ②のボールに佐々木選手が反応し、中に折り返す
④ 武藤選手が無人のゴールへと流し込む

 ②③の局面における問題点としては……
→3バック中央のミンテ選手が前に出た際、大岩選手のカバー(絞り)が甘い

 ②③の局面における改善案としては……
3バックの場合、中央のCBが前に出た際、サイドCB2枚が中に絞ってカバーの位置に入ることは原則

 左CBの鈴木淳選手と比較して、大岩選手の絞りが甘かったため、2人の間をボールが通ってしまい、佐々木選手に裏を取られる形となってしまっています。

 ちなみに②の局面において、大迫選手がミンテ選手を背負う形であれば、ミンテ選手が競り勝っていた可能性も十分にあったと思いますが、これは斜めから飛び込んで来た大迫選手の戦略勝ちと言えるかと思います。

3失点目

 3失点目に関しては、スローインとクロスという違いはありますが「天皇杯 第104大会 準決勝 横浜F・マリノスvsガンバ大阪 分析レポート」の記事で書いた様に、ベルマーレはペナルティエリアの中を固めるだけでなく、ボールがこぼれることを想定して、ペナルティエリア前に選手を配置しておく必要がありました。
 端的に言うと3失点目はこれに尽きるかと思いますが、詳しく知りたい方は以下のリンク(無料公開)からご覧ください。

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Ⅳ.「ベルマーレのビルドアップ」

 ベルマーレはビルドアップの際「3-1-4-2」と「4-4-2」の咬み合わせの悪さを利用して「ヴィッセルのSB裏」を狙っていました。
 具体的にはヴィッセルのSHをサイドCBまで引き出し、ヴィッセルのSBをWBまで引き出し、空いたスペースにボールを送り、サイドボランチ(IH)が走り込むという形となります。
 この形自体は「3バック対4バックにおける定石」であり、何ら問題はないのですが、ヴィッセルの左サイドは割と素直に出て来てくれたのに対し、右サイドは簡単には出て来ず、出て来た場合も、ボランチの井手口選手がSB裏のスペースまでカバーしており、崩すことが難しい状況にありました。

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