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18歳定年法人代表の「反省」と代表を続ける理由 川村賢人#2
4月に取材をしたとき、川村賢人は思いきり社会に中指を立てていた。
その2カ月後、彼に会うと、「反省」をしたという。
友人の言葉に、漫画のワンシーンに、
自分の奥底を見てしまった彼がどのように「反省」をしたのか。
そして、聞きにくいことを彼に聞いてみた。
「なぜ、Sustainable Gameの代表を辞めないんですか?」
Sustainable GameのWebサイトには、このような文言がある。
「愛をもって社会へ突っ込め。」
はっきり言って、この言葉は彼に似合わない。
でも、彼は代表を辞めない。
その答えは意外にもシンプルだったりする。
ジャドーが話を聞いてみたい若者を取材する『今ドキの若いモンたち』
一人目は、一般社団法人Sustainable Game*代表の川村賢人さん(18)。高校入学を機に上京し、2022年6月より、一般社団法人Sustainable Gameの代表理事を同法人創業者の山口由人さんより引き継ぐ。
* 一般社団法人Sustainable Game
企業やNPO、自治体と連携し、社会問題解決に向けた社会共創の場の創出に向けて活動する中高生による一般社団法人。主な活動として、街を歩きながら課題を発見する教育プログラム「課題発見DAY」の主催、ソーシャルグッドなリアリティ番組「SPINZ」の企画・運営、社会問題を解決したい未成年が共創したい企業と出会えるプラットフォーム「Flare」の運営が挙げられる。未成年と企業による共創プロジェクトの支援等の事業活動を行い、40社以上の企業との実績を持つ。定年は18歳。
#1は2023年4月のインタビューをもとに作成しています。#2からはその2か月後(2023年6月)のインタビューをもとに作成しています。
#1はこちらから
反省
池田:お久しぶりです。少し、顔色が変わりましたか?
川村:この2カ月で様々なことがあったので、変わったかもしれません。ちなみに、どう変わっていますか?
池田:軽くなった、という感じですかね。2カ月前は、言っていることはギラギラしているけれど、顔はどんよりとしていました。
川村:それは少し心当たりがあります。お恥ずかしながら。
ちなみに、2カ月前の僕って、どんなことを言っていたんですっけ?
池田:こんなことを伺いました。
(#1の下書きを見せる)
川村:うわー、イタいですね。
でも、一ミリも間違っていない。若干、脚色されている気もしますが、僕の当時の感情を、どストレートに正確に表現されています。
池田:それはよかったです。
ちなみに、先ほど、ここ2カ月で様々なことがあったと言っていましたが、何があったんですか?
川村:一言で言うと、「反省」をしました。
池田:反省?何かきっかけがあったんですか?
川村:同い年の友人に「最近のお前はつまらないよ」とはっきり言われたんです。「批判だけしている、ただの嫌な奴になっている」とまっすぐ目を見て言われて。
池田:それはなかなか堪えますね。
川村:言われたときはかなりイラっとしました。でも、イラっとしたということは、図星なんだなと。良い奴になろうとするのは難しいですが、嫌な奴にならないようにはしようと心がけるようになりました。
池田:具体的に何を気を付けるようになったんですか?
川村:「一を聞いて十を知る」ができる友人とのやりとりを意識的に減らしました。人と話すときに、その友人が基準になっていたので、一を言って一しか理解しない相手や、一すら理解できない相手をかなり馬鹿にしていたんです。
池田:なるほど。
川村:そこを意識するようになってから、本当に良いことだらけでした。
自分の伝え方が不十分すぎたことに気が付いたり、コミュニケーションにストレスを感じなくなったりしました。
池田:なるほど。ちなみに、この2カ月間の川村さんに一番影響を与えたのは「最近のお前はつまらないよ」の一言だったんですか?
川村:たしかに彼の言葉は大きかったです。でも、それ以上にある漫画のワンシーンに胸を打たれて。これ、今の俺じゃん!みたいな。ちょっと今持ってきますね。
池田:あ、ありがとうございます。簡単にその漫画の概要を教えてもらえますか?
川村:『惡の華』という漫画なんですが、どう説明しましょう。
いや、さっき言ったワンシーンを見てもらうのが早いです。これ、主人公のセリフなんですが、引用しますね。
僕は…惡の華を読んでる
澁澤龍彦を…ブルトンを…萩原朔太郎を…パタイユを…読んでる
でも…だから何なんだ…⁉
僕は違うって思ってた…
他のくだらない奴らとは違うって…
でも…何が?
ボードレールなんて…!
惡の華なんて本当はよくわかんないんだ……!
ただ…それを読んでる自分に酔ってただけだ…!!
見ないようにしてた…
本当の自分を…
特別じゃない自分を……!
僕は…
空っぽなんだ…!
池田:主人公が、自分がただの凡人であることに気が付いたシーンみたいですね。なんとなくですが。
川村:その通りです。哲学書ばかり読んで、周りを見下していた中学2年生の主人公が、あるきっかけで自分自身は空っぽであることに気が付くんです。
池田:それが今の川村さんと重なるところがあったということでしょうか?
川村:そう、ですね。そうですよね。これが胸に刺さったということはそういうことですよね。
1年前に、創業者の山口由人(ゆうじん)からSustainable Game(以下、SG)の代表を引き継いで、自分は、何者かではないが、何かできる人間だと思っていたんです。でも、実際は何もできていない。ただ由人がやっていたことを変わらずにやっているだけ。
池田:主人公と同じく、自分は空っぽの人間だと思っているということですか?
川村:正直、未だに僕はこの主人公と自分は違うと思いたいんですよ。
でも、今は認めざるを得ない。最終的に、「やっぱり僕はこの主人公とは違った。僕は中身があった。」と言いたい。そのためには、今は僕はこの主人公と何も変わらないことを自分に言い聞かせているんです。これが僕の「反省」の仕方です。
池田:川村さんはその主人公とは何が違うと言えそうですか?
川村:現時点では、本質的な違いはわかりません。
一つ言えることは、『惡の華』の主人公は凡人と違う存在になるためにドデカいことをしようとしすぎました。これとは逆のこと、つまり、僕は地味なことを地道にやろうと努めています。
何故、SGの代表を辞めないんですか?
池田:ここで、大幅に話題を変えようと思います。
失礼を承知で聞くのですが、川村さんは何故、SGの代表を続けているんですか?
川村:僕には向いていないという意ですか?
池田:正直に言うと、そうです。
SGのWebサイトには、「愛をもって社会へ突っ込め。」と書いてありますよね。これがどうにも川村さんに似合うとは思えないのですが。
川村:たしかにそうですね。
僕には、愛もないし、社会に突っ込む度胸もない。ホントに似合っていませんね。
由人(SGの創業者)は「愛をもって社会へ突っ込め。」を体現したような人です。同世代の仲間も、大企業の大人も、由人の周りにはいつも人がいる。本当に太陽みたいな人です。
彼は頭が特別良いわけではないですが、誰よりも考えているし、誰よりも勤勉です。彼はよくポエムみたいなことを言うんですが、それは狙った表現をしているのではなく、彼の胸の内から出た感情や感覚を言葉にしたらそうなっているんです。「愛をもって社会へ突っ込め。」はそんな彼と彼が作ったSGにぴったりの言葉だと思います。
池田:そんな方から代表を引き継いだとなると、かなり大変でしたよね。
川村:正直言って、何度も辞めたいと思いましたよ。
その時々で、辞めない理由をなんとなく作っていましたが、僕が辞めていない理由が今、分かった気がします。
僕は由人が好きなんだと思います。彼が作ったものを僕が無にするのは、もったいない。
池田:「申し訳ない」じゃなくて、「もったいない」なんですね。
川村:「もったいない」です。彼を好きと言うのは、尊敬だけでなく、愛おしさもあるんですよね。
このインタビューが記事になるときにSGがどういう状況になっているかわかりませんが、今のSGの事業が社会に必要不可欠かと聞かれると、胸を張ってYESとは言えないです。でも、SGは社会にあった方がいい。なくなったらもったいないと思います。
池田:失礼な質問に答えていただき、ありがとうございました。
川村:僕もこんな回答をしたのは初めてかもしれません。
代表になった経緯を聞かれることは多々あったのですが、まさか「何故やめないのか」を聞かれるとは。
#3につづく(近日公開予定)
#1と#2では、川村さんとSGについて主に伺いました。#3では、川村さんの思想についてより深くお話しいただいています。公開をお楽しみに!
取材・テキスト/池田