見出し画像

「SDGs、嫌いになっちゃったんだよね」東大推薦入試を通して学んだこと 岸ふみ#1

インタビュー終了後、彼女の口から出たこの言葉をタイトルに入れようと決めた。

「SDGs、嫌いになっちゃったんだよね」

彼女は、純粋に、社会課題を解決しようとしていた。地元の規格外品を救うために高校時代をささげた。そんな彼女が、SDGsを嫌いになったと発言する。

地方で燻っている学生や、若者に理解を示そうとする大人が今見るべきは、間違いなく、岸ふみだ。

ジャドーが気になる若者を取材する『今ドキの若いモンたち』
2人目は東京大学文科三類1年生の岸ふみさん。長崎県諫早市出身。高校時代は、規格外野菜からアップサイクル商品を開発するブランド「ROKU」を立ち上げ、食べられるのに捨てられてしまう地元のみかんを救う方法を模索した。

SDGs、嫌いになっちゃった。


池田(インタビューアー):東京大学に入学してから2か月が経ちますが、率直に大学生活はいかがですか?

岸ふみ(以下、岸(敬称略)):なんとか乗り切ったという感じですかね。でも、楽しんでいますよ。

池田:岸さんは東京大学にいわゆる「推薦入試」で入られたと聞きましたが

岸:その通りです。「学校推薦型選抜」で入りました。一次で志望理由書・提出論文、二次で小論文・面接・10分のプレゼン、最後に共通テスト、これらが評価される入試方式です。私は、提出論文には高校時代の活動とそこで得た考察を書きました。

池田:論文の詳細については後で深掘りするので、ここでは論文を書き上げた後の心境を聞きたいです。

岸:単純に「やり切った」というのと共通テストの勉強がんばらなきゃってくらいですかね。

池田:たしかに。まだ共通テストの勉強が…って感じですよね。論文執筆自体を通して学んだことや感じたことはありますか?

岸:学んだことよりも大きな心境の変化がありましたね

池田:ほう。それはどういった変化ですか?

岸:今までは盲目的になりすぎていたのですが、論文を書いてからは能動的になった、とまでは行きませんが、自分で意識的に考えることが増えたと思います。

池田:もう少し詳しく聞いてもいいですか?

岸:今までは、教科書やニュースで目にする「社会問題」はすべて悪で、それらは解決されるべきものだと思っていたんですよね。データとか情報とか、なにも疑わずに信じていた。でも、私はその社会問題を解決しようと尽力した結果、それがまったく役に立っていないことに気が付いたんですよ。そもそも解決すべき問題だったのかもあやしくて。なかったんですよ。これって本当に問題なのかな?っていう視点が。

池田:なるほど。問題ですらないものを、あたかも深刻な社会問題かのように報道している人やメディアはごまんといますからね。

岸:まさに。だから、なんというか、SDGsとか嫌いになっちゃたんですよね。

池田:!!!

規格外野菜を救うために尽力した高校時代


池田:では、論文で書いたという、高校時代の活動について詳しく教えてもらえますか?

岸:はい。高校1年の時に同じ学校の先輩が学校外でいろいろな活動をしているのを見て、なんとなく校外活動みたいなのにあこがれていたんです。特に大きなきっかけとかはなかったのですが、自分が食べることが好きだったので、なにか食べ物関係の社会課題を解決しようと思いました。そこで、長崎県諫早市の規格外みかんの廃棄量をどうやったら減らせるかなと。そこで、「ROKU」というブランドを立ち上げ、規格外みかんの皮から抽出した精油でキャンドルを作って販売していました。

Botanical Soy Candle みかんの香り(ROKU)

池田:素敵な活動じゃないですか。ちなみにどうしてキャンドルにしたんですか?

岸:シンプルにスムージーとかも検討したのですが、消費できる廃棄みかんの量が少なくて。熟考した結果、キャンドルがベストだったんです。

池田:なるほど。活動は順調だったんですか?

岸:はい。かなり順調でした。経済的に苦しい場面もありましたが、本当に多くの人が協力してくれたおかげで販売までできましたし、なにより私が楽しかったです。でも、活動していく中でどうしてもモヤモヤがあって。

池田:ほう。モヤモヤは具体的に、いつ感じたんですか?

岸:農家との交渉の際に感じたモヤモヤが一番印象に残っています。廃棄みかんの買取をするときに、私がお金をほとんど持っていなかったので、「こんな少額で買い取らせていただいて本当にありがとうございます」と伝えたら、「いやいや全然いいよ!こんなゴミと変わらないから!」と農家の方に答えられて。

池田:岸さんとしては、それをゴミじゃ無くそうとしているわけですからね。

岸:はい。だから、私の想いが伝わっていないなと感じてしまって。私のやっていることって意味あるのかな?みたいなモヤモヤがありました。

池田:なるほど。その時以外にもモヤモヤを感じていたことはあるんですか?

岸:結構ありますね。でも、周りから褒められたり、社会からもそこそこ評価されたりしているので、「私、いいことしてる!(のかな?)」みたいな感じで。あまり気にしないようにもしていました。

池田:察するに、そのモヤモヤの正体には気づけたんですね。

岸:はい。グリーンウォッシュ*に陥っていたことがモヤモヤの理由でした。

*グリーンウォッシュ
グリーンウォッシュとは、環境に配慮しているように見えるが、実のところはそうでない商品やサービスを指す造語。名前の由来は、環境に配慮しているイメージの「グリーン」、上辺やごまかしという意味を持つ「ホワイトウォッシュ」から来ている。

モヤモヤの理由


池田:それに気が付いたのはいつだったんですか?

岸:昨年の8月28日に、論文執筆でメンターをしてくださっていた大学生に、「そもそもこれって環境に良いの?」と聞かれたんです。

池田:日付まで覚えているんですね。

岸:この8月28日に、私の活動が国際コンテストで賞を取ったんですよ、その日にこんなことをいわれたので強く印象に残る一日でした。

池田:1日で真反対?の評価を受けたんですね。そのメンターの方に「環境にいいの?」と聞かれたときはどう感じましたか?

岸:いや、何を言っているんだろうと思いました。良いにきまってるでしょ、と。でも、実際に調べてみると、アップサイクルしてキャンドルを作るのはどうやら別に環境にいいわけではなかった。むしろ悪かったんです。

池田:えっ!そうだったんですか

岸:はい。規格外品は焼却処分ではないので当然CO2も排出されません。また、埋めた時に土壌に悪影響があるわけでもない。一方で、キャンドルの生成には精油を取り出したり、キャンドルを生成する過程で多くの道具を使うので、その時点で多少なりとも環境負荷がかかっているんです。

池田:なるほど。自分の活動がグリーンウォッシュだと知ったときはどうでしたか?

岸:正直、ショックでした。でも、論文執筆に関して言えば、自分の活動を批判的にとらえた考察をする人って多くないんじゃないかと。もしかすると、東大に受かるかもしれないと思えました。

池田:あ、受験の方に視点を持っていてポジティブに捉えたんですね。

岸:そうですね。受験方向に向けてもそうですし、やっと今までのモヤモヤの正体がクリアになって、すっきりした感じもありました。

池田:一生懸命に取り組んできたからこそ、見えた景色なのかもしれませんね。


#2につづく

#1では高校時代の活動についてと論文執筆に至るまでをお話しいただきました。#2では東大推薦入試で提出した論文の内容を存分にお話しいただいております。

公開をお楽しみに!


取材・テキスト/池田

いいなと思ったら応援しよう!