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「なぜグリーンウォッシュに陥ったのかを説明します」東大推薦入試の提出論文を解説 岸ふみ#2

彼女は、天才ではない。変人でもない。

でも、凡庸でもない。

じゃあ、彼女のどこが凡人と違うのか。

正直言って、わからない。

彼女の近しい人間に聞いても、おそらく「わからない」と答えるだろう。

強いて言うなら、悩んでも迷っても手を動かし続けたことが、彼女と凡人との間に一重の差を生み出していると言えよう。

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2人目は東京大学文科三類1年生の岸ふみさん。長崎県諫早市出身。高校時代は、規格外野菜からアップサイクル商品を開発するブランド「ROKU」を立ち上げ、食べられるのに捨てられてしまう地元のみかんを救う方法を模索した。

#1では高校時代の活動と論文執筆に至るまでをお話しいただきました。#2の本記事では、東大推薦入試で提出した論文の内容を存分にお話しいただいています。断っておきますが、これは推薦入試の指南書ではありません!

#1はこちらから

なぜ私がグリーンウォッシュに陥ったのか


池田:では、本題の提出論文の話に移らせていただきます。
論文の方、事前に読ませていただいたんですが、

岸:あ、そうなんですね。どうでしたか?

池田:先ほどの話も含めると、よくここまで自分を批判的に捉えられたな、と尊敬しました。あとは、納得するところが多かったですね。

岸:それはよかったです。
でも、論文という形式上、ちょっと表現が難しかったり、堅苦しかったりするんですよね。高校時代の私のような人に読んでもらいたいので、かみ砕いた文章にして公開しようかと思ったのですが、ちょうどこのインタビューがあったので、お任せしようかな、と。

池田:素晴らしい論文を世の中に上手く伝えられるよう頑張ります。

岸:お願いします(笑)

池田:ではまず、簡単に要約をさせていただきます。グリーンウォッシュ*に陥ったことの要因として岸さんは、「規範の形成」「認知の欠如」「懐疑的な視点を持つことの少なさ」の3つを挙げていますよね。

*グリーンウォッシュ
グリーンウォッシュとは、環境に配慮しているように見えるが、実のところはそうでない商品やサービスを指す造語。名前の由来は、環境に配慮しているイメージの「グリーン」、上辺やごまかしという意味を持つ「ホワイトウォッシュ」から来ている。

「社会問題を解決しなければいけない」という規範の形成

池田:では、1つ目の「規範の形成」についてから伺います。ここでの規範とは、具体的にどういうことなんですか?

岸:規範というのは、簡単に言えば、何かを考えたり行ったりするときに元となる基準みたいなものですよね。私の論文内でのこの基準は「校外活動をするならば社会問題を解決しなければいけない」というものだったんです。

池田:なぜそのような規範を持つに至ったのでしょうか。

岸:新型コロナウイルスの影響もあってか、当時、オンラインでの校外活動が全国的に割と普及したんですよ。それで、私もそのような活動を行う中高生向けのコミュニティに入ったり、SNSを通じて全国の同世代と交流したりしました。そのようなコミュニティにはボランティアとかソーシャルグッド崇拝とも言うべき規範が出来上がっていたんです。

池田:ほう。社会問題を解決するのがカッコイイみたいな人が多かったんですかね?

岸:うーん。そういう人もいました。それに、学校外の活動歴は、推薦入試とか海外大学の入試に有利に働くことが多いんですよ。こういう社会問題を解決しました、もしくは解決しようと努力しましたっていえばわかりやすいじゃないですか。

池田:たしかに。

岸:そういう環境に身を置いてしまったからこそ、社会問題を解決しなければならないという規範が自分の中にも出来上がってしまったのだと思います。ただ、ここで勘違いしてほしくないのは、この規範自体が悪だと言っているわけではないということです。あくまでも、その規範を内面化した自分に自覚的になれなかったことに問題があると考えています。

環境リスク認知の欠如に気づいていない状態における活動の開始

池田:では、次に、2つ目の「認知の欠如」について伺わせてください。
岸さんはどのような認知が足りていなかったのでしょうか。

岸:提出論文の中では、私は環境リスク認知が欠如していた、と書きました。が、これに関して根本的なことを言ってしまえば、言語化能力が未発達であったこと、情報収集に問題があったことが要因であると思います。

池田:なるほど。これは多くの中高生に言えそうなことですね。

岸:そうだと思います。当時の私に限らず、言語化能力が十分に成熟していない中高生は一定数いるのかな、と。

私は高校時代に、スーパーで期限切れになった食品が捨てられているのを問題視したあるショートフィルムに出会ったのですが、その時になんとなくの不快感を覚えてしまったんですね。
それが私の廃棄ミカンのアップサイクル活動のきっかけになったのですが、なぜ不快感を覚えてしまったのかよくわからなかったんです。それなのに活動を始めてしまったので、ところどころで詰めの甘さがでてしまいました。

池田:言語化能力が未発達ゆえに起こってしまったことですね。

岸:はい。それに加えて、私は食品ロスと規格外農作物の廃棄はまったくもって別の問題である、という単純なことが理解できていなかったんです。
環境配慮という視点で見れば、食品ロスは処分するときに焼却するのでCO2を排出しますが、規格外農作物は焼却処分ではないのでCO2が排出されることはありません。

池田:なるほど。たしかに飢餓問題と矛盾するという点では近しいですからね。それが情報収集に問題があったということなんですね。

岸:その通りです。中高生はどうしてもインターネットのような手軽な情報収集に頼ってしまいがちです。実際に当事者に聞いてみたり、専門家の資料を丁寧に読んでみたりといったことをすればいいのですが。

池田:おっしゃっていたことをまとめて「環境リスク認知の欠如」としたのですか。

岸:はい。そして、私のような、その悪影響を明確に理解できていない、そしてなぜ自分がそれに不快感を持つのか言語化できていない中高生の目の前に現れて“問題っぽさ”を強調するのがSDGsなんです。

池田:あーなるほど。それは言いえて妙な気がします。

岸:先ほど話した中高生向けのコミュニティやその他の課題研究発表大会などでは、行っている研究や活動の重要性を説明するときに「SDGsの〇番の実現に貢献できるから」と書いている人が多かったんです。私も例にもれずSDGsの12番「作る責任 使う責任」に貢献できるから私の活動には意義があると資料に書いていました。

池田:SDGsのマークを付けることで、あたかも自分がその社会問題の悪影響を理解したと自身で誤認してしまうということですね。

岸:まさしくそうです。

懐疑的な視点を持つ機会の少なさと、確信を得る機会の多さ

池田:では最後に「懐疑的な視点を持つ機会の少なさ」について聞かせてください。これは、ここまでに話していただいた中高生コミュニティの規範と環境リスク認知の欠如が大きく影響していると思うのですが、いかがでしょうか。

岸:おっしゃる通りです。先ほど話したような中高生のコミュニティにいたり、そこのメンバーとかかわっていたりすると、ある意味で等質的で居心地が良かったんですね。だから、批判的な問いを自分で持ったり、周りから持たれることがあまりありませんでした。

池田:周りから批判的なことを言われる機会はまったくなかったのでしょうか。

岸:実を言うと、一回だけありました。ある人に規格外品の販売リスクを説明されて、農作物の廃棄がそもそもの問題ではないんじゃない?と。

池田:それは最終的に岸さんが得た考えにかなり近いですが、その時にはその意見をどう受け止めたのでしょうか。

岸:あの時は都合よく自分の活動を解釈してしまったんですよね。お恥ずかしながら。一度立ち止まって批判的に考えていれば、グリーンウォッシュには陥らなかったと少し反省しています。ただ、これには中高生ならではの「卒業までに何かしらの成果を出さなければいけない」という焦りがあったのも要因の一つだと思っています。

池田:それは本当に中高生ならではですね。多くのケースで、活動できる期間が3年よりも短くなっていますからね。

岸:はい。受験勉強や活動開始の時期などによって変わりますが、かなり短いのは事実です。
そして、ここでもう一つ言いたいのは、懐疑的な視点を持つ機会の少なさに対して、確信を持ってしまう機会が多いことです。

池田:周りの大人から褒められたり、同級生から尊敬されたり、みたいなことでしょうか。

岸:それらもあります。具体的に私の場合は、参加していたインキュベーションプログラムや大会で、起業家や審査員の方から課題発見とブランド立ち上げ・プロダクト販売を評価されることが続き、自分がやっていることは素晴らしいことなんだと確信を得てしまったんです。

池田:なるほど。正直、評価を得ている状況で自分のことを批判的に見るのは簡単ではないですよね。

さいごに

池田:インタビューをさせていただき、ありがとうございました。最後に少し質問をさせていただきたいです。
最終的に、自分はグリーンウォッシュに陥っていたと結論付けましたが、ご自身の高校時代の活動は無駄だったと思いますか。

岸:少なくとも私の場合は、無駄ではなかったと思います。自分を批判的にとらえられたのはメンターのおかげでもありますが、実際に自分で手を動かしていたからこそですから。なんとなく人から言われたことを飲み込んで論理だてても上手く理解できなかったと思います。そういう意味で、私の活動に充てた時間は有意義なものではあったのかなと。

池田:では、もし岸さんのような中高生がいたらどうアドバイスしますか。

岸:いやーそれは難しいですね。「それ、グリーンウォッシュじゃね?」っていうかってことですよね。

池田:はい。

岸:言わないんじゃないかなと思います。少し上から目線ですが、自分が言ったところでやってみなければ本当の意味で学べないと思うんですよね。私がそうであったように。

池田:うーん。たしかに。それはまさに先ほどの言葉にあったように、実際に手を動かしてからこそ学べたことがあるからですよね。



取材・テキスト/池田

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