新型コロナウイルス(COVID-19)に関する雑感1
1月末の時点で感染者のホテル等宿泊施設への隔離が声高に叫ばれた。3月初め現在でこの論説を唱える人はほぼ見かけないのは、この論説が旬の時期を過ぎたからだろうか。
私は非常時にたびたび見られるこのような「ホテルや旅館が受け入れればいい」というアイディアを、いつも胡乱な印象で眺めていた。当人はグッドアイディアだと思っているのかもしれないが、元・宿泊業に携わった者としては受け入れ難いポイントが最低でも3つ、今回の場合は4つある。一つずつ列挙する。
1.費用負担や機会損失の補償はどうするのか。
宿泊施設が通常の営業を休んで、あるいは縮小して非常宿泊者を受け入れた場合、毎年の常連客をおことわりせねばならない。一度おことわりしたお客様は他の施設を利用することになり、翌年戻ってきていただける保障はどこにもない。長期間になればなるほどそのリスクは増大する。宿泊費用や消毒・設備の準備費用は目に見える支出なので行政も支援がしやすいだろう。しかし、機会損失に対する補償費用の算出は難しい。おそらく支払われた事例はないだろう。
また、設備の破損・盗難などが起こった場合の補償も難しい。通常のお客様ならある程度の破損や盗難に対してもケア出来るように施設自らが料金をリスク込で設定することができる。が、非常宿泊者の場合、格安で受け入れざるをえないのが大半である。性善説では経営は潰れる。
2.風評被害については誰が責任を持つのか。
災害受入れならイメージアップにも繋がるかもしれないが、今回のような疫病の場合、風評被害は避けられない。もちろんいいイメージもつくだろうが、負のイメージのほうが大きい。日本人には「穢れ」を嫌う習性が強く根付いている。これも算出が難しいしおそらく支払われない負債だ。
3.従業員や出入り業者の感染リスクはどうするのか。
今回に関しては、従業員や経営者・出入り業者などに感染するリスクも考慮されなければならない。「一切立ち入らなければいい」というわけにはおそらくいかない局面がある。感染のリスクの大きさ・程度や感染した場合の責任など詳細はひとまず置く。焦点はそこではない。言いたいことは4に預ける。
4.なぜあなたが言うのか。
一番言いたいのはここだ。なぜ、自分が従事していない・リスクを負わない民間の事業者にこのような大変なことをやらせようと言えるのか。言うんだったら、お前がやれ。
私はこのような「グッドアイディア!」を軽々しく言い出す人間の根底にある「サービス業蔑視」をいつも強く感じている。
従業員の感染リスクについて話した時など特にその片鱗が強く出る。リスクを指摘された時になってはじめてそのリスクに気づき、一瞬考え、「出入りしなければいい」などとまたまた思いつきの善後策を追加する。従業員や出入り業者も、感染者や自分と同じホモサピエンスで、伝染する可能性があるということを指摘されてはじめて思い出したという様相である。サービス業の人間を人間扱いしていない。
サービス業を蔑視する人は医療従事者に対しても同様のことをやっているだろうし、また、損失や風評リスクを矮小化すること自体も結局は、「サービス業の人間の生活なんてどうでもいい」という蔑視に繋がっている。そんな意見が受け入れられるわけがないだろう。
はたして私の考えは大げさだろうか。誇大妄想だろうか。
おそらく、今回の感染者やこれまでの災害で被災者を受け入れた宿泊施設は、こういった負の材料をすべてわかっていて、すべて飲み込んだうえで「自らの判断で」困っている人たちを受け入れている。そうした宿泊施設の関係者や協力者のみなさまには、同じ日本人として、感謝と敬意しかない。
本当に本当に、ありがとうございます。
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