『オリバー・ツイスト』と『レ・ミゼラブル』の泣かせ役について考えてみた

小説などほとんど読まない日々なのだが、最近、たまたま『オリバー・ツイスト』を読み、『レ・ミゼラブル』の映画(2012年)を観た。

オリヴァー・ツイスト (新潮文庫):
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レ・ミゼラブル (2012):
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娘が図書館でDVDを借りてきていたので、せっかくだからと観てみた『レ・ミゼラブル』。若かりし頃図書室にあった本は『ああ無情』というタイトルで、その題名も、分厚さも、「ビクトル・ユーゴー」という作者名も、世界史に出てくる「ロマン派」という呼称も、すべてが見ただけで胸焼けするような印象をもたらして、読んだことがなかった。そして今だに読んではいないので、ここでは映画のあらすじが原作と同じようなものだろうという仮定で話を進める。

さて、その『レ・ミゼラブル』を観て、唯一泣いたのが、エポニーヌが死ぬところだった。マリウスに恋して、マリウスの想い人との間をとりもつことまでやるいじらしい女性。小悪党の両親に育てられながらまっすぐな愛を貫き、その人への銃弾を受けて死ぬエポニーヌ。うう...泣ける。

そこでその役者さんを検索したところ、ミュージカルで『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役とともに、『オリバー・ツイスト』を原作とする『オリバー!』のナンシー役も務めていると書かれていて驚いた。


つい先日読んだ『オリバー・ツイスト』で、やはりナンシーが死ぬところで泣いたんだった...!

ナンシーは、家族もなく、盗人集団の中で生きながらもオリバー少年を救おうと力を尽くし、そのことがバレて暴力的な恋人に殺される。裕福な善人に救われるチャンスがあったのに、恋人を見捨てられないと自ら戻って行って殴り殺されるというリアルにひどい話で、この小説の中でここだけは泣いてしまった。

というわけでなぜ私を泣かせたこの2役を同じ人がやってるんだ!と驚いたのだけれど、その二つの役には、同じ人が起用されるべく通底する共通点があるのだと思えてきた。

彼女の外見にヒントがある。彼女は親しみやすいすばらしい笑顔と歌声と演技力の持ち主なのだけど、黒髪で、いわゆる「美人!」ではないのだ。対して、『レ・ミゼラブル』のマドンナであるコゼット役の女優さんは、金髪で、うっとりするほど美しい(まあ、好みはあるだろうけど)。『オリバー・ツイスト』のマドンナ:ローズは外見は分からないが、まあこちらは人間離れしてて引くくらい清らかな心の持ち主と描かれており、美醜と善悪と混同された表現が散見されるこの小説においては、心が美しい=美人に違いないだろうと思われる。

マドンナは美しく、性格もよく、救われる。サブマドンナ(という言い方は今思いついただけ。本当はこういう役柄に何か名前がついているのかな?)は少々口が悪いけど愛嬌があって性格がよく、死んで観客を泣かせる役割を果たす。そういう構図が、メロドラマにはあるということなのだろうか、と考えた。

ちなみにマドンナは幸せになるわけなのだけど、その「幸せ」は、コゼットはマリウスとの結婚であり、ローズはハリーとの結婚である。サブマドンナの不幸は、どちらも男の選び間違いにある。幸せも不幸せも、女は男との関係においてのみ生じるように描かれているわけだ。

(ちなみにちなみに、コゼットは主人公ジャン・ヴァルジャンに引き取られるまで預けられていた家で虐待されて過ごしていた;ローズは孤児だったのを裕福な家庭に引き取られた、という点でもマドンナたちは似ている。社会階層の高い家庭出身の女性より、恵まれない環境出身の女性のほうが魅力的なのだろうか?)

『オリバー・ツイスト』はイギリス・1838年刊。『レ・ミゼラブル』フランス・1862年刊。文学事情はとんと分からないけど、19世紀のヨーロッパの小説って、他もこの法則があったりするのか、そして日本は...?とちょっと興味が湧いた。

ちょっとね。


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