「1800万円のサイン」で手が震えた日~タイ起業10年記⑭
最悪の状態の組織から脱するための「勇気」。
それが僕には必要だった。
そんな時、強制的に勇気を出さなくてはいけない出来事があった。
それは「オフィスの移転」だ。
先日書いたように、パートナーとのすれ違いもあって、共同で使っていたオフィスから出ることを決めた。2018年の後半ことだった。
もちろん、強制的に出たのではなく、自分の意志で出たのだ。
何かを変えたい。
環境を変えることで新しいスタートを切れるのではないかと期待した。
どうせ出るなら、みすぼらしいオフィスにはしたくない。
バンコクの一等地にあるグレードの高いオフィスにすることにした。
新しいオフィスの家賃は約40万円、年間で約500万円程度だった。
タイのオフィス契約は3年契約が基本なので合計1500万円、内装なども入れると3年で1800万円ほどのお金がでていくことになる。
別に大した金額じゃないと思う人もいるだろう。
ただ、何の後ろ盾もない自分にとって1800万円の出費が確定することの不安は大きかった。
契約書にサインするときは手が震えた。
でも、「未来を切り開くんだ」という思いで、決意をもってサインしたのだ。
環境が変わると、驚くほどにコミュニケーションが変わった。
みんなで家具を選び、ロッカーに荷物を入れた。
席次表を決めたり、オフィスの運用ルールをみんなで話した。
近くの屋台はここが美味しいよ、とランチスポットを開拓した。
新婚家庭が新しい生活を始めるような、親密さがそこにはあった。
ワクワクする時間と空間を共にしながら、僕らのチームの文化は再び良い方向に変わっていったように思う。
そして、「勇気が、決断を正解にするんだ」というリーダーの姿勢を僕は身をもって学んだのだった。
勢いに乗った僕らは、2019年に最高の業績を挙げた。
ところが、その後1年ほどして訪れる「コロナ危機」でチームは再び苦境に陥ることになる。
(つづく)