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1900人のリストラを従業員に伝えるAirbnbのCEOから学ぶ、困難な判断を受け入れてもらうための「すごい伝え方」
Airbnb が1,900人のレイオフをすると発表した。コロナショックが世界中の全ての業種に影響を与える中、「旅行」というものは最もインパクトが大きい業種の一つであることは間違いない。
今回、CEOであるBrian Cheskyが出したレイオフを伝える従業員向けのレターは、彼の苦しい心情が滲んだものだった。しかし同時に、随所に従業員への配慮が素晴らしく行き届いており、また、この逆風の中でもAirbnbがどのように進んでいくのかのビジョンも感じられる熱いメッセージだった。個人的には、深く感動してしまった。
特に私が印象に残ったポイントを、翻訳したメッセージを紹介しつつ考察してみたい。(興味ある方は是非オリジナルをお読みください。以下、抜粋パートは当方の拙い翻訳となることをお許しいただきたい)
①苦しい決断をストレートに伝える
冒頭で彼はこれから苦渋の決断について伝えることを、正直に述べている。
私が自宅から皆さんにお話しするのは7回目です。毎回、良いニュースと悪いニュースを話してきましたが、今日はとても悲しいニュースをお話ししなければなりません。
レイオフについて質問されたとき、私は「全ての選択肢がテーブルの上から外れることはない」と答えてきました。今日、私はAirbnbの従業員の規模を縮小することを認めなければなりません。私たちのように「つながり」をミッションとしている会社にとって、これは非常に困難なことであり、Airbnbを辞めなければならない人たちにとっては、さらに困難なことでしょう。私がこの決断に至った経緯、離職する人たちに向けて提供すること、そして今後起きること、についてできるだけ詳細に共有したいと思います。
スピーチや、こうした社長メッセージは「最初が肝心」である。このオープニングからは、本人にとってもつらい決断であったことが伝わってくる。
そして、このメッセージを最も厳しく受け止めるであろう離職者たちへの共感、配慮がまず最初に示されている。誰の心情をケアすることが最重要であるかがよくわかっている戦略的な始め方、ともいえるかもしれない。
特別な言い方はしていないが、つい常套句で始めがちな我々日本人にとって、参考になるオープニングではないだろうか。
②「原点に戻る」と伝える
そしてBrian氏は今回のレイオフ判断についての説明を続けるが、その中でも印象的な伝え方があった。
新しい世界での旅行はまた違ったものになるでしょう。Airbnbもそれに合わせて進化する必要があります。人々は、より家に近く、より安全で、より手頃な価格のオプションを求めるようになるでしょう。
しかし同時に、今我々から奪われたように感じるもの、つまり「人と人とのつながり」も強く求めるようになるでしょう。私たちがAirbnbを始めたときに考えたこと、それはまさに一体感を感じること、そして人と人とが繋がること、についてでした。
今回の危機によって、私たちはもう一度原点に立ち返り、基本に立ち返ることになったのです。それはつまり、自宅を誰かのためにホストし、体験を提供したい人達の日常、というAirbnbだけが提供出来るスペシャルなものなのです。
この一節が、今回のメッセージで最も素晴らしいと思った部分の一つである。コロナによって旅行が出来なくなり、Airbnbのサービスが不要になるのではない。そうではなく、人々が求める「人の繋がり」を提供することこそ、むしろ我々の原点なのだとポジティブ転換しているのだ。見事な伝え方ではないだろうか。
実はこれは以前ご紹介した豊田社長の伝え方とも似ている。豊田社長も、元々トヨタが持っているモデルチェンジの遺伝子をもう一度発揮していこう、といって社内の変革を促していた。それと似た伝え方ではないかと思う。
「進むべき道を指し示すために、あえて企業の原点に立ち返る」というのは、とても効果的なコミュニケーション手法であるという事を改めて感じさせる。
③誰かを決して責めない
続いて、縮小していく部門について言及していくが、ここにもきめ細やかな配慮が見られる。
今回の決定は、縮小される当該チームの人々の仕事を反映したものではないし、またこれらのチームの全員がAirbnbを離れるということではありません。加えて、Airbnb全体のチームにも影響があります。Airbnbが目指す方向性に対する位置づけに応じて、多くのチームが規模を縮小することになります。
部門の統廃合をするからといって、どこかのチームが悪いとかそういうわけではない。みんなで痛みを分かち合おう、というBrianの組織への愛情、思いやりが感じられる言い回しだ。
④コアバリューに基づく原理原則を示す
続いて人員削減の詳細の説明に入るが、その前にその指針を先に示している。
人員削減にどのように取り組むかについて、コアバリューに導かれた明確な原則を持つことが重要でした。これらが私たちの指針となる原則でした。
●将来の事業戦略と必要とされる能力に基づき、削減計画を立てる
●影響を受ける人々のためにできる限りのことをする。
●多様性に揺るぎないコミットメントを持つ
●影響を受ける人々との1:1のコミュニケーション持つことに最善を尽くす。
●すべての詳細が明らかになるまで、決定事項の伝達は控える。部分的な透明性はむしろ状況を悪化させる
レイオフというのは、疑心暗鬼や様々な憶測を呼び起こしやすいものである。それに対して、「透明性」や「コミュニケーション」「情報管理の徹底」などをして臨むという配慮がしっかりと示されている。
こうしたセンシティブな判断をする時こそ、「企業理念が最も効果を発揮する場面」だと言える。難しい決断は論理ではなく倫理で決めなくてはいけないからだ。
企業における倫理が、理念である。理念の共有が普段から行われていたかどうかが、こうした局面で問われることになる。
⑤去る人々に最大限の誠意を示す
そして説明は、今回のレイオフ対象者への様々なオファーに及ぶ。退職金などそれらのオファーは手厚いものであるが、その中身以上に私は伝え方に注目したい。
様々な検討の結果、我々は、心から愛し、また大切に思っているチームメイトとの別れを余儀なくされることになります。
Airbnbには優秀な人材がいます。世の中の会社は、これから彼らを迎え入れることが出来るのはとてもラッキーだと私は思っています。
去っていく人たちをケアするために、私たちは退職金、株式、ヘルスケア、ジョブサポートを様々な面を検討しました。すべては、彼らに共感し、また最大限の思いやりを持って報いるためにです。
リストラをする際に「他の会社はあなたたちを採用できてラッキーだ」というのはとてもユニークな表現だ。日本でこんなことを言ったら炎上するかもしれない。それでも、去り行く従業員の能力を高く評価していること、また次の働き口を見つけるために全力を尽くすこと、を伝えようとしている表現と言える。
⑥最後に、個人的な気持ちを伝える
その後、実務的な説明をしたのちに、Brianのメッセージは終盤に差し掛かる。最後は、個人的な彼の心情を伝える。
この8週間で学んだことですが、危機は何が本当に大切なのかを明確にしてくれます。嵐の中を進みながら、いくつかのことが、私の中でよりはっきりしてきました。
まず、Airbnbの皆さんに感謝しています。この悲惨な経験を通して、私は皆さんに刺激を受けてきました。最悪の状況でも、私たちは常に最高を目指してきました。世界は今、これまで以上に人と人とのつながりを必要としています。まさにAirbnbが必要とされる時でしょう。私がこれを信じているのは、あなたを信じているからです。
第二に、私は皆さんへの深い愛情を感じています。私たちの使命は、単に旅をすることだけではありません。Airbnbを始めた当初のキャッチフレーズは "Travel like a human "でした。旅よりも人間の方が常に重要だったのです。私たちの目的は「一体感」であり、その中心にあるのは「愛」です。
物凄くストレートなメッセージだが、とても胸を打つ。そして、最後に、彼はこう続ける。
Airbnbを去る皆さんへ
本当に申し訳ありませんでした。どうか、今回のことはあなたのせいではなかった、というこを覚えておいてください。世界はこれからもあなたがAirbnbにもたらした資質と才能を求めて止まないでしょう。それらのお陰で、Airbnbは作られたのです。それらの才能を私たちと共有してくれたことに、心の底から感謝したいと思います。
なんと「謝罪」でこのメッセージは終わる。私はアメリカで仕事をしたことは無いが、アメリカ企業のCEOが従業員に謝罪をするというのは、それほど一般的なことではないのではないだろうか。それでも、彼はそれをしてまで従業員に気持ちを伝えたかったのだろう。
以上、Brian CEOのメッセージから6つのポイントに注目してみた。
私は最初にこのメッセージを読んだ時、レイオフと言う重いテーマのメッセージのはずが、すごく温かい気持ちになった。深い愛情と感謝、そして確かな未来への希望を感じることができたからだ。そして、きっとまたAirbnbは復活するだろうという期待をステークホルダーに感じさせることができる、そんな効果もあるメッセージに思えた。
コロナウィルスの影響で、今後日本でもリストラの判断をする企業が出てくるかもしれない。その際に、我々リーダーがどんなメッセージを出せるかは非常に大切である。このメッセージは参考になる部分が多いだろう。
リストラとは決して終わりではなく、新たなビジョンに向けた重要な一歩である。それを熱いメッセージで教えてくれたBrian CEOに感謝したい。
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