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老親リスク回避の4ステップ『縮伝頼渡』(その3)頼まれる <後編>

さて、今回は、老親リスクを回避する4ステップ『縮伝頼渡』の第三段階の後半戦をお届けします。

頼まれる...…の後編です。

前回の記事(前編)では、現役世代のあなたが老親からエンディングまでのサポートを依頼される流れを作る目的で、まずは両親に老いに対する自覚をさせて、問題意識・当事者意識・危機意識を喚起させること。そのツールとして、『MMMO(トリプルMO:もしも万一まさかが起こったら)』というリスク診断シートを使うこと。そして、その作業を通して、例え漠然とでもいいから、「どんな状況になった時に、子どもたちに何を支援してもらう必要があるのか」についてイメージしてもらうのが望ましい……ということをお伝えしたつもりです。

後編の今回は、どんなに元気な人であっても、エンディングまでに通らなければならない老後の8大課題それぞれについて老親に認識してもらい、子どもに頼んでおくべきことを明確にしてもらうことをゴールに設定します。

実は、このプロセスこそが、本当の意味での終活なのです。想定される老後リスクごとに、①現時点で親が望むこと、②その実現のために子に依頼したいこと、③必要となる財源 を決めて親子間で共有しておく。これこそがエンディングまでの段取り、つまり終活の本質なのです。
ご理解いただけるでしょうか?

それでは、老後の8大課題の解説に入っていきます。
以下、課題ごとに、元気なうちに決めておかねばならないことを質問形式で並べていきます。

【要介護】⇒ 介護が必要になったらどうするの?
①要介護認定の手続きはどうするの?自分でできるの?誰かに頼むの?
②手続きに必要となる主治医の所見はどうするの?どこの医者に頼むの?誰が頼むの?
③ケアマネによる聞き取り調査は自分だけで対応できるの?誰かに同席してもらうの?
④介護サービスを提供してくれる事業者の選定と契約は自分でできるの?
⑤サービス利用開始後、毎月行われる事業者との面談は自分だけで対応できるの?
⑥支払いをはじめとする事務や事業者との折衝は自分で対応できるの?誰かのサポートが必要なの?

【認知症】⇒ 認知症になってしまったらどうするの?
①認知症の兆しを感じたり、誰かに指摘されたりしたら、どこの医療機関に物忘れ外来の予約を入れるの?受診はひとりで問題ないの?
②自宅で療養するの?身の回りのことはどうするの?自分でできるの?誰かの支援?
③運悪く、周囲に迷惑をかけるような症状が出てしまったときはどうするの?
④入院する場合、自分で認知症病棟を確保できるの?主治医に頼めるの?
⑤支払いをはじめとする医療関連の事務や折衝は自分でできるの?誰かのサポートが必要なの?
⑥症状が悪化したら、どんなタイミングで施設に入るの?

【施設さがし】⇒ 施設に入るときはどうすればいいの?
①施設に入る場合、予算はいくらなの?月額いくらまで?
②エリアはどのあたりにするの?駅でいうとどこ?
③個室じゃなきゃイヤ?それとも相部屋でもいいの?
④現地見学は自分でできるの?誰かのサポートが必要?
⑤施設に絶対にないとダメなサービスは何?
⑥施設に入る際の引っ越し関連の作業は自分でできるの?誰かのサポートが必要?
⑦契約や支払い等の事務、施設側との諸々の折衝は自分でできるの?それとも?

【手術】⇒ 高齢にもかかわらず手術をオファーされたらどうするの?
①後期高齢者がん検診でひっかかったら、精密検査やセカンドオピニオンはどうするの?
②がん以外でも手術をオファーされたらどうするの?
③医者や病医院とのやりとりは自分でできるの?誰かのサポートが必要?
④入院の準備は自分でできるの?誰かのサポートが必要?
⑤退院後の生活はどうするの?自宅?施設?身の回りのサポートは誰に頼むの?
⑥支払い等の事務と、病医院との折衝は自分でできるの?誰かのサポートが必要?

【延命治療】⇒ 延命治療をオファーされたらどうするの?
①口からものを摂取できなくなったとき、胃ろうにするの?
②腎機能が低下したとき、透析するの?
③自力で呼吸できなくなったとき、人工呼吸器にするの?
④判断できない、会話できない状態になった時、延命措置の意思決定はどうするの?
⑤支払い等の事務や、病院側との折衝はどうするの?

【財産管理】⇒ 財産まわりのことは、どう考えてるの?
①相続派?それとも贈与派?
②遺言とか、書いてる?書くつもり?
③(兄弟姉妹がいる場合)争族になるのイヤなんで、ちゃんと財産分与の方針を決めておいてくれない?
④認知症になって口座凍結されたらどうするの?
⑤認知症対策として、定期預金の解約、証券類の売却とかは考えないの?
⑥銀行に成年後見制度をすすめられたらどうするの?
⑦赤の他人に財産を管理されてもいいの?子どもに管理を託すのとどちらがいい?
⑧施設や病院に入って自宅に戻らないことがわかった時、自宅はどうするの?
⑨相続権者全員を教えてくれる?相続権者以外に財産を渡したい人とかいる?
⑩今後、家族会議や親子会議とか、やりたいと思う?

【葬儀】⇒ 葬儀はどうするの?
①どんな葬式にしたいとか、考えてる?やり方と予算はあらかじめ教えておいてくれる?
②葬儀の生前予約とか、してる?互助会の積立てとか、やってる?
③式の手配や段取りは誰がやるの?

【死後事務】⇒ 死後の各種届出はどうするの?
①断捨離とか、してる?
②各種届出は誰がやるの?
③遺品整理とか、誰がやるの?
④祭祀関連の作業は誰がやるの?

【その他】
①エンディングノートとか、書いてる?
②さいごは、誰にそばに居てほしい?
③カミングアウトしておきたいこととか、ある?


いかがでしょうか。
全部で50項目です。少なくとも老親側は、これらについて元気なうちに方針を決めて、それを子どもたちと共有しておく必要があります。なぜなら、多くの場合、実際の作業を本人ができない場合がほとんどだからです。

親の意思がわからないなかでジャッジしなければならない子どもの側は、相当な負担になるし、ストレスを抱えることになります。加えて、経済的不利益を被ることもままあるので、かけがえのない子どもたちのことを想うのであれば、こうした作業は、親世代にとって果たすべき最後の大仕事と言えるでしょう。

なお、子どもたちと共有…と書きましたが、子どもがふたり以上いる場合、必ずしも子どもたち全員と共有する必要はありません。経験的に、老親のサポートというのは、子どもたちのうちのひとりに集中する傾向が強いからです。子どもが複数いたとしても、老い先を託したいと思える子どもは(親の心の中では)潜在的に決まっているのかもしれませんね。

なので、現役世代のみなさんには、もしも兄弟姉妹がいるのであれば、なるべく自分が両親の老後のパートナーになることをおすすめします。以前の記事でも書きましたが、要は老親から頼られる存在になることで、親との絆も深まるし、結果的に一番多くの財産を受け取れる確率が高いからです。

50個の質問を見ていただくとわかると思いますが、「財産管理」を除けば、結局は、医療と介護とエンディングの話なのです。医療及び介護の現場では、「患者責任家族」とか「患者代表家族」とか「あの患者のキーパーソン」とかいう表現で、折衝に係る代表窓口を決めてもらうようにしています。要するに、支払い等の事務手続きや、治療方針・介護方針等に係る本人に代わっての意思決定や、病医院や介護事業者との折衝を行う家族のことです。

具体的には、「兄弟姉妹のなかで唯一、親の近くで暮らしているから」といった理由を除けば、親がいちばん頼りにしている子どもになることが多いです。現役世代のみなさんは、仕事や家庭に忙しいので、できれば自分が窓口になるのは避けたいなぁ~と考えがちですが、それはちがいます。親子の絆を取り戻し、結果的に財産分けで優位に立ちたいという気持ちがあるのであれば、積極的に老親の終活にかかわって、キーパーソンを買って出るぐらいであってほしいと思います。是非、老親の人生のファイナルステージに、戦略的に関わるようにされることをおすすめします。


というわけで、老親リスク回避の第三段階『頼まれる』をまとめると、老親に老い先についての問題意識を持たせた上で、「医療・介護・エンディングのキーパーソンになってくれないかな?」と頼まれるようにうまく誘ってください。最悪、一緒に終活をする過程で、「母さん(父さん)の老後のキーパーソン、私がやろうか?私がやるよ」と、立候補してでも兄弟姉妹に先がけて名乗り出ることです。それがあなたのみならず、あなたのお子さんにとってもメリットがあるのだということを言い添えて、今回の話を終えたいと思います。


次回は、老親リスク回避の4ステップ『縮伝頼渡』の最終段階『渡される』です。いよいよおカネの話です。今回あっさりとしか触れなかった「財産管理」の話を含め、老親をして、「この子に医療や介護やエンディングのサポートを託すのであれば、然るべき予算は先に渡しておかないとなぁ」と認識させるための、もっとも重要なフェーズとなります。乞うご期待です!


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