【終活110番064】こころの距離の縮め方
天使のような赤ちゃんと両親の間には、何者も侵すことのできない無償の愛がというものがあります。赤ちゃん側には、親に対して全幅の信頼があって、すべてを委ねることで安寧の中を生きています。親の側にも、わが子に対する何物にも代えがたい愛があって、この子のためなら命を差し出してもいいと思えるほどまでにかけがえない存在なのです。まさしく相思相愛。お互いにとって相互不可欠な関係性がそこにはあります。
ところが、どんなに天真爛漫で純真無垢な赤ちゃんにも、社会との接点を持つほどに少しずつ自分の世界ができてきます。それこそが人の成長の証であり、自我の目覚めです。こうなると、あれほどまでに絶対的な拠り所であった親が、絶対的なものではなくなっていきます。親もはじめは戸惑うでしょうが、一抹の寂しさを我慢しながら、わが子の成長を喜ぶわけですね。
そして、子どもの精神的自立は、小学校中学年くらいにもなるとさらに加速していきます。部活や塾や習い事で忙しくなり、親子で過ごす時間は一気に減っていきます。多くの人との交流が増えて、さまざまな情報が入ってくることで、自分なりの価値観が作られはじめます。
思春期を迎え、母親や父親以上に好意を寄せる相手が現れ、両親よりも何でも相談できる友人ができて、親子の会話はきわめて少なくなります。気にかけた親があれやこれやと質問を重ねてみても、子どもの受け答えは表層的で気持ちの乗っていないものになりがちです。むしろ親とは疎遠にすらなることもあるでしょう。
やがて、別の街の大学に通うようになり、別の街で仕事に就くようになり、恋人と暮らすようになり、結婚して、子どもが生まれて…。こんなふうに、親子の距離がどんどん離れていくのです。気づけば、年に一度か二度、お正月やお盆くらいしか顔を合わせないのもふつうになっていきます。
そんな関係が当たり前になって長い時間が流れていったある日、歳を重ねた親の側に、子どもの応援を求めざるを得ない状況が訪れます。仕事中の子どもの携帯電話が鳴って、「お父さんが倒れた」とか、「お母さんの様子がおかしい」とか…。
この瞬間、自分の家庭や仕事のことでいっぱいいっぱいで、ほぼ親のことなど考えもしなかった子どもの側に、突如として老親のことが飛び込んでくるわけです。親側としてはやむないことではありますが、超多忙な子どもにとっては負担を感ぜざるを得ない。それが正直なところでしょう。
長い年月をかけて離れていった親子のこころの距離。そして、物理的な距離。これを埋めることなしに、なんの予告もなく、突然まさかがやってくると、人は混乱するものです。だからこそ、早い段階から、離れてしまった親子の距離を縮める作業が必要なのです。それを今日から実践してみてはどうでしょうか。
日常的な声かけから始めよう
時間をかけて徐々に離れていった親子のこころの距離を縮めるには、やはり、それなりの時間をかけなければなりません。しかも、老親のまさかはいつ現実のものとなるかがまったく読めません。こうしている瞬間にも起こり得ますし、今夜かもしれないし、明日かもしれない。だから一日も早く取り組んでほしいと思います。
やること自体は簡単なものです。日常的に声をかける。これだけです。親のほうからすべきことだと思いますが、それを待っているくらいなら、子どものほうからもやるべきです。なぜなら、親のまさかは子のまさかだからです。結局、親に何かがあれば、子どもの側はスルーできないからです。親子の縁は死ぬまで切れない。いや、死んでも切れないものなのです。であるならば、事が起きてしまう前に手を打っておいたほうがいいのです。子どもの側になれば、それが自分のためなのです。リスクマネジメント。そういうことです。
さて、日常的に声をかけるといっても、長年はなれていた親子関係においては、ちょっと抵抗があるかもしれません。いまさら恥ずかしいとか、照れくさいとか。別にわざわざそんなことしなくても、いざとなればどうにかなるから大丈夫だとか。そんなふうに高をくくっている人はとても危険です。いざその時になって困り果てて、苦悩して追い込まれる人たちをたくさん見てきました。悪いことは言いません。転ばぬ先の杖だと思って試してみてください。
離れて暮らしている親子が多いと思います。直接顔を合わせることがむずかしければ、電話でもメールでもLINEでも手紙でも構いません。重要なのは接触頻度です。基本的にウイークリーをお奨めしています。さすがに手紙を毎週送るのは大変でしょうから、基本は電話かメール。四季折々にグリーティングカードなんてどうでしょう。親の側が感激することはまちがいありません。ほとんどコストはかかりませんから実践すべきです。相手のマインドにあなたの存在を刻み込むことが大切です。後になって、やっておいてよかったと思える時がまちがいなくやってきます。だまされたと思って始めましょう。
では、どのような声かけをすればいいのか。代表的なものをご紹介します。コミュニケーションスタイルは、みなさんのキャラクターに合わせてアレンジしてください。主旨としては、以下のようなものが有効です。
【子どもから親へ】
「変わりない?」・「元気にしてる?」・「何か問題ない?」・「無理してない?」・「もう若くないんだから気をつけてよ」・「なかなか会えないけど、いつも気にしてるよ」・「なんかあったら言ってきてよ」・「私にできることなら何でもやるからね」・「いつもありがとね」・「カラダ、大事にしてよ」・「長生きしてよ」…
【親から子どもへ】
「変わりない?」・「元気?」・「問題ない?」・「困ったことない?」・「なかなか会えないけど、いつも応援してるからね」・「なんかあったら言ってきなよ」・「あんまり無理しないでよ・」「カラダ、大事にね」…。
おすすめの内観エクササイズ
それでもなかなかはじめの一歩が踏み出せないというそこのあなた。それは、親子で日常的に声をかけあうことの根源的な理由がわかっていないからです。相手をいたわる言葉の根っこには、相手に対する慈悲のこころがあるものです。相手に安らかであってほしい。穏やかであってほしい。幸せであってほしい。仮に潜在的にでもそういった思いが宿っているとしたら、恥ずかしいとか照れくさいとか言っている場合ではありません。ましてや、忙しくて…なんてもってのほかです。
何の因果か知りませんが、超奇跡的な確率で親子となった関係です。どんなにダメダメな親であっても、どんなにわがまま勝手なわが子であっても、振り返ってみれば、その存在ゆえにうれしかったことねたのしかったこと、幸せだったことがあるはずです。そこにフォーカスして感謝の言葉を言ってみましょう。
でもその前に、相手につらい思いや哀しい思いをさせてしまったネガティブなエピソードを思い出してください。そして、その時に相手に迷惑や負担をかけてしまったことを言葉にして詫びてください。謝罪するのです。「ごめんね」をしたあとに、先ほどの「ありがとう」を言うようにします。その順番のほうが、相手の心により染みこんで、より印象に残りやすいのです。
わかっていただけたなら、まずはYouTubeでヒーリングミュージックをさがしてください。「癒し BGM」とかで検索すれば腐るほど出てきます。気に入ったものを決めたら部屋の照明を落として、ソファか椅子に腰かけて姿勢を正します。腹式呼吸で自分のリズムをつかんだら、軽く目を閉じて過去にタイムスリップします。
あなたが父親・母親に、わが子に、いちばん迷惑をかけたこと、心配をかけたこと、謝りたいことは何ですか?できれば具体的なエピソードを思い出して、その情景を述べた後に、「ごめんね」を言ってください。
当然のことですが、すべて声に出してやってください。
つぎに、親に、わが子に、してもらっていちばんうれしかったこと、感動したこと、感激したこと、幸せに感じたことは何ですか?具体的なエピソードを思い出して、その情景を述べてから「ありがとう」を言ってください。
もちろん、声に出して、です。
これがお薦めする内観エクササイズです。はじめはむずかしく感じるかもしれませんが、簡単なことです。慣れてしまえば、この内観の時間が心地よくなるはずです。涙が流れてくることもめずらしくありません。ストレス解消にもなるし、免疫力が高まります。ぐっすりと眠れるようになったという人も多いです。
こうして相手に対する謝罪と感謝の根拠を見出すことができれば、日常的な声かけなんて、いたって簡単です。ルーティーンのように当たり前になるでしょう。そしてこのジャブが、長い時間をかけて離れていった親子のこころの距離を確実に縮めてくれるはずです。躊躇することなくトライしてみてください。
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