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【ドクトルJの告白044】霞ヶ関が描くメディカル・カタストロフィー

ここで少し、わが国の医療が向かっている方向について整理しておきましょう。第一次小泉内閣のときにスタートした社会保障構造改革。これは、2001年1月の中央省庁再編時に設置された経済財政諮問会議の最重要検討テーマでした。とくに国民医療費の適正化問題は、2007年からの福田内閣においてさらにクローズアップされ、社会保障国民会議が設置されました。その後、安倍・麻生政権でも経済財政諮問会議の審議項目として掲げられ、2009年9月、民主党の鳩山政権発足まで重要な役割を担いました。

その最終報告においては、『2015年までに、現行医療のムダ排除と医療の質向上を同時並行で推進し、国民医療費の適正化を実現させる』として、2015年のあるべき地域医療の青写真を描いています。かなり踏み込んだ議論を経ていることが伝わってくる内容になっています。

これを受けた世間一般の反応としては、「ここ数年、医師不足だの医療崩壊だのと喧伝されているなかで、まだムダな医療があるのか」という点が注目を集めました。会議の席上では生々しい議論が展開され、会議の構成メンバーである有識者たちの総意として、ムダな医療分野が具体的にリストアップされたのだそうです。数で言えば、「ムダな医療」に含まれる病医院はそれこそ万単位だったとも…。しかし、医療業界等への影響に配慮してドキュメント上は具体的な表現はなされなかったようです。私が想像するに、自治体病院、地方の大学病院、民間の中小病院、内科系診療所などが該当する可能性が高いかもしれません。あくまでも想像ですが。

また、民主党政権においては、政権の経済政策の中核として国家戦略室が設置されたため機能を停止した経済財政諮問会議ですが、菅直人副総理と長妻昭厚生労働大臣は、就任後まもなく、過去10年にわたって社会保障構造改革の民間有識者リーダーを務めてきた東大の経済学者・吉川洋氏に面談を申し入れ、同氏らがまとめた報告書の詳細や議論の過程について教えを請うとともに、民主党政権下でもそのシナリオを踏襲することを確認したと聞いています。

そして、2012年のダブルマイナス改定(診療報酬と介護報酬のこと)と国民の啓発教育が推進されれば、ムダと烙印を押された病医院が云万単位で淘汰され、そこで医療に従事していた医師や看護師たちが重点分野にシフトされていくような、そんな医療再編シナリオが用意されていたといいます。水面下で動きだした「患者剝がしマル秘プロジェクト」と、2012年の診療報酬・介護報酬のドラスティックなマイナス改定。この3つを称して『トリプルインパクト2012』と言われていました。これによって2015年までには、じわじわと日本の医療全体があるべき姿に再編されていくだろう…。そんな青写真がかなり具体的に描かれていたのですが…。

そうです。2011年の東日本大震災で、このプランは棚上げになりました。
それどころか、ムダな医療機関にリストアップされていた病医院でさえ、震災被害を支援するために多額の税金を投入して、被災前以上にきれいにリニューアルされたのでした。

そして、です。ペンディングとなっていた医療再編シナリオが、『トリプルインパクト2024』としていよいよ発動されそうだ…という情報が飛び込んできました。いや、また新型コロナの影響で頓挫するのでは…と考える人もいるでしょうが、どっこい、そうではありません。

なぜならば、新型コロナで受診控えしていた高齢者を中心に、医者通いを控えたら(何年もの間、日常的に服用していたクスリをやめたら)、むしろ体調が改善して健康になってしまったというケースが山ほど出てきたからです。つまり、医者との適正な距離感こそが健康を取り戻すための有効策であることに、多くの国民が気づいてしまったのです。なので、例えコロナが収束しても、多くの病医院に生活習慣病患者は戻ってきません。この流れのなかで当然淘汰されてしまう病医院もかなりあるでしょう。よって、『トリプルインパクト2024』を保留にする必要はもはやないわけです。霞ヶ関の住人のあいだでは、医療再編シナリオのことを『メディカル・カタストロフィ(悲劇的結末)』などと言ってみたいですよ(笑)。

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