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自助という名の地獄(2)

前回の記事で、わが国が向かっている自助社会の実現について、私たち一般大衆個々の人生を鑑みた時、かなりむずかしい現実があること。にもかかわらず、私たちは時の政権のコントロール下に置かれる状況を自ら選んでしまいがちなことをお話しました。

経済的のみならず社会的な意味においても自分と子どもだけで人生を全うすることは、結構ハードルが高いと思います。なので今回は、私たちが資本主義国家ニッポンという枠組みの中で、自助を強いられながら、人生100年時代を全うしようと思ったら、やはり、計画的に自衛策を講じて実践していく必要がある……。そんなお話です。

結論から具体的に言ってしまうと、50歳になって人生を折り返したら、自分と家族を守るために、後半戦(老い先)にそなえなければならないということです。

コロナ禍で、「自粛を要請する」などという、言葉遊びのようなフレーズが市民権を得てしまった感がありますが、これになぞらえて言えば、私たちの税金で甘い汁を吸っている政治家と官僚に不条理を強いられながらサバイバルしていこうと思ったら、「(彼らが推し進めようとしている)自助を支援する」ためのインフラが、地域・職域に整っていることがどうしても必要になってきます。

というのも、そもそも人は自分ひとりでは死んではいけません。少なくとも、直系の子どもをはじめとする家族や、それに準ずる誰かの支えが不可欠です。これは、経済的に自立できている人であっても同様です。問題は、頼られる側の直系卑属の筆頭である現役世代には、現役世代の事情がある……ということです。

ごくごく標準的な国民は、なぜ自分たちたけで人生を全うすることができないかということを、わかりやすい例で示してみます。20年間にわたって、1万件超の電話相談と2千件の個別支援に当たってきた現場感でお話しすることなので、老親や自身に何が起ころうと医療にも介護にも当然のように容易にアクセスできる政治家や役人にはピンとこないはずです。しかし、私たち一般大衆レベルの日本人は、この真実を知っておかねばなりません。相談現場では、すでに(現役世代にとっては最大のリスクである)『老親リスク』という大問題が浮き彫りになっています。

具体的に書いていきますね。

老後のことや老親のことで悩みを抱えている人たちの標準的な家族構成は、「老親ひとりに子ども2人」です。同じく、老親の家計状況は、「年金15万円/月。財産総額は相続税非課税の範囲内で、土地・家屋2,000万円、現金預金1,000万円」。大体がこんな感じです。

こうした家族において、ある日、老親がなんのそなえもないままに、80歳で認知症を発症したとします。さて、この場合、この親子のいく末はどうなるでしょうか。

都市部で民間の老人ホームに入るには、毎月30万円程度が必要です。年間360万円です。療養期間を10年としても3,600万円。20年間で7,200万円です。年金の15万円があったとしても、毎月15万円は預金を切り崩していかざるを得ません。預金1,000万円は5年半で底を尽きます。あとの4年半分相当1,800万円は子どもが持ち出すしかありません。これが、介護費用をわが子に持ち出しさせざるを得ない老親側の事情なのです。なお、(対策を講じていなければ)認知症の老親名義の不動産は、親が生きている限り売ることができません。

親がそなえておかなかったばかりに、現役世代にしてみれば、引き継ぐことになったかもしれない老親名義の預金だけでは足らないどころか、自分の貯えまでも切り崩していかなければならないわけです。過酷な現実です。老親の介護問題で子どもの家庭が崩壊するケースがままありますが、その最大の要因は、やはり経済的な理由に他なりません。

こうした具合ですから、老親が何の準備もないままに「まさか」が起きると、多くの場合、(法廷で争うかどうかは別にして)現役世代のふたりの子どもは、自分の人生と生活を死守するために争うことになります。少しでも、自分の家庭がダメージを負わないように。時間とおカネを損なわずに済むように。

ちなみに、その頃には、後始末に奔走する現役世代も高齢者になっています。そのまた子どもたちは、就職・結婚・出産・マイホーム購入といった一大イベントを控えている可能性が高い。要は、人生において、おカネのかかる時期を生きています。

そんなタイミングで、自分の親がさらに高齢な老親のことで時間とおカネを費やさざるを得ない状況にあるとしたら、こんどは前途ある子どもたちにまで支障が及ぶことになる…。つまり、老親リスクの波紋は、現役世代のみならず、(老親から見て)孫世代にまでダメージをもたらすということです。

だからこそ、100歳まで生きなければならない今日にあっては、老親世代(70代~80代)・現役世代(40代~50代)・子ども世代(10代~20代)の三世代の問題として、そなえる意識を持っておくことが大切なのです。いわゆる終活の本来的な目的は、わが子に負担をかけないことなのです。

これが一般大衆レベルのすべての国民が孕んでいる長生きリスクです。たちが悪いことに、このリスクは必ず起こります。そんなことは自明の理です。にもかかわらず、多くの人たちが見てみぬフリをして、ただ漫然と問題を先送りしています。

子の親たるもの、自分が倒れた後に子どもたちの関係がおかしくなってしまうようなことを望まないのであれば、50歳ともなれば元気なうちに、可能な限り早いうちから老後設計をして、子どもに依頼する作業にかかるコストは先に渡しておくことをおすすめします。

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