【ドクトルJの告白016】医者は患者の話を聴かない ~西洋医学のデータ偏重~

以前は、西洋医学が行われている現在の病医院の特徴を表わす言葉に「3時間待ちの3分診療」というのがありました。実際には、朝一番から散々待たされた挙句、診察室滞在時間は1分程度ということもザラにありました。今日では、予約制の導入や、新型コロナの影響によるオンライン受診の伸び、さらには患者側の受診控え等もあって、1時間以上も待たされるケースは、かなり減ってはきましたが…。

長寿高齢化が進んだ、国民皆保険制度のおかげで誰もが気軽に医療を受けられる、診療時間の長さが病医院の売上や利益と連動していない等々、理由はいろいろあるかとは思いますが、私からすると、わずか3分程度患者さんと向き合って適切な治療が行えるなどということはあり得ません。いや、診察の前に検査して、その検査データを見ているから大丈夫だという考えもあるかも知れませんが、今日の主流である生活習慣病についてはそんな簡単なものではないでしょう。患者さんが長い長い人生のなかで繰り返してきた生活習慣です。患者さんとじっくり膝を突き合せなければ問題の根本解決などできるはずがありません。逆に言えば、その膨大な歴史のなかの何が悪さを起こしたのか。この原因を見極めることなしに、糖尿病ならAセット、高血圧ならBセット的な処方を機械的に行っているのが現在の医療だということになります。

元東京大学総長で東大名誉教授の故・森亘氏は、「現代の多くの病気については、その原因・経過・治療に心理的社会的要因が大きく関わっているということを、医師としては常に心に留めておかなければならない。こうした心身医学的アプローチにおいては、患者の内側にある心理面の把握と分析が非常に重要になってくることは当然で、そのためには、臨床検査によって得られた数値や画像を眺めるだけでなくね医師と患者が人間同士として接触し、患者の心に直接触れることが不可欠」だとしたうえで、『単純に病気や症状だけを治すことだけが務めではない。にもかかわらず今日では、全人的医療によって人間としての患者を癒すという医師本来の使命や目的が失われがちである』と、警鐘を鳴らし続けていました。

今日の病医院では、本来あるべき診療プロセスのうちもっとも重要な『問診』が抜け落ちてしまっている印象を拭えません。というか、医師は患者さんの話を「聞いて」いるかも知れませんが、「聴いて」はいないのです。データを読むのに必死なのです。あるいは、データをちょっと見たら自分だけで結論を出してしまうのです。

『聴』という字には、「耳」だけでなく「心」と「目」も入っています。「十」を指して、十本の手指と解釈することもできます。要するに、全身全霊で患者さんの話に傾聴するというのが問診です。患者さんは、つらい、悲しいという気持ちをわかってほしいと願っています。その気持ちに寄り添うようなコミュニケーションが、古いと言われるかもしれませんがもっとも大切なことだと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?