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まだまだ桜井、続きます!

今朝、久しぶりにボスに会って言われました。

「へぇ~。あん時、そんなこと考えてたんだねぇ~。ずごい勉強になるから、これまでに感じたこと、書き続けてみてほしいなぁ~」

というわけで、引き続き週一ペースで投稿させていただく運びとなりました。どうぞよろしくお願い致します…。

今回は、『仮説検証型質問』のお話です。
入社当時のノートを見返してみると、現在の私にとって、つくづく(公私ともに)かけがえのないものを教えていただいたのだなぁと、改めて感謝の気持ちが湧いてきます。そんな中のひとつに、ある看護実習生(佳奈さん)のエピソードがあります。

佳奈さんが終末期病棟の実習に入った時のことです。本来の実習内容に加えて、指導担当の看護師からある課題を与えられました。それは、「ある患者さんが入浴を嫌がっていて、その都度、担当チームが大変な労力を強いられる。本人に訊いても頑なに理由を言わない。どうしてあんなにも入浴を毛嫌いするのかがどうしてもわからない。この謎解きに挑戦してみてほしい」というものでした。

テキストの予習や実習記録にレポート課題と、やらなければならないことがたくさんある中で、佳奈さんは仲のいい同期と一緒にチャレンジすることを決めました。実習は16時半に終わるので、帰り道で夕食をしながら、ふたりでさまざまな理由を推理して書き出しました。

病棟を巡回する中でその患者さんとも挨拶を交わし、看護記録も閲覧し、ある程度のことがわかってきたものの、いざ向き合うとどうしてもワケをたずねることができず悶々としていたある日のことです。当時、『踊る大捜査線』という刑事ドラマにハマっていた友人がこう言いました。

「いくらサンマルクで頭ひねってたって答えは出てこないよ。事件は現場でおきてるんだよ!明日、浴室を見せてもらおうよ!」

当初はふたりでいろいろな答えを出し合って、ふたりともが納得できた時点で、指導担当の看護師にぶつけてみようと計画していたのですが、どうにも埒が明かず悶々としていた中での『事件は現場でおきている』発言でした。

翌日の実習終了後、事情を話した上で、実際に浴室を見せてもらうことができました。入浴介助のあらましは勉強していたので、自分が患者さんになりきって、介助してもらいながらお風呂に入る流れをイメージしました。

そうしてその晩、お風呂に入っていた時に、佳奈さんは思い当たったのです。これだっ!と。

実習先はかなり歴史のある病院で、浴室もちょっと古い雰囲気が漂っていました。髪を洗って流れたお湯が、足元にある横長の格子板から下に落ちて排水溝に向かって流れていくのが見えます。そして、その円形の排水溝がはじめて見るほどの大きさで、そこに泡まみれのお湯が流れ込んでいく様子は、プチ・ナイアガラの滝と言ってもいいほどのものだったのです。

翌朝、友人の「それ、当たってそうな気がする」という言葉に背中を押されて指導役の看護師に伝えると、「ふぅん。なるほどね。あとで本人に訊きに行ってみよっか」となり、ふたりはガッツポーズで「ハイッ」と返事したのでした。

いよいよ、その瞬間がやってきました。指導役の看護師が切り出します。

「水野さ~ん。明日はまたお風呂の日なんだですけどぉ。どうですかぁ?さっぱりしましょうねぇ」

水野さんは途端にしかめっ面になり、「入りたくないのよぉ。あたし、お風呂はイヤなのぉ」とこぼしました。

「あのね。この子たち、看護師を目指して実習中なのねぇ。でねぇ。水野さんがお風呂を嫌がるって話をしたらねぇ、どうしてなんだろうっていろいろ考えてみたんですってぇ。だからね。当たってるかどうかはわからないし、正解を教えてくれなくてもいいんで、この子たちの考えた結果を聞いてみてくれないかしらぁ。未来の看護師を育てると思って協力してほしいんですよねぇ。どうかしらぁ。お願いしますよ」

促されるように、佳奈さんと友人も「お願いします」って頭を下げました。

「そんなん、どうでもいいじゃないのぉ。とにかくお風呂、入りたくないのよぉ~」

指導担当が目で合図を送り、佳奈さんが恐る恐る口を開きます。

「お風呂に浸かるというのは、もちろん衛生面もありますが、心身の癒しにも効果があることがわかっています。なので、できれば水野さんにも入浴の時間を楽しんでほしいと思っています。でも、何かしらの理由でお風呂がイヤなのであれば、その理由を明らかにした上で、その原因を取り除けたらいいなって私たち二人で考えて出した結論なんです。ご迷惑かもしれませんが、どうか聞いてください。よろしくお願いしますっ」

眉間に皺を寄せた水野さんが、二人の顔を交互に見た。数秒の沈黙の後、意を決して彼女が堰を切るように言った。

「私たち、実際に浴室に行ってみて、患者さんになったつもりでいろんなことを想像してみたんですけど…。もしかしたら、シャンプーした後に髪を洗い流すとき、お湯が足元を流れて排水溝に吸い込まれていく様子がちょっと怖くって、なんかこう、自分まであの中に引きずり込まれてしまうような感じになって、お風呂が嫌いになってしまった……ということはないでしょうか?そうだとしたら、明日からは、洗う場所や位置を変えて、排水溝が視界に入らない場所でカラダを洗うようにしてみませんか??? この一週間、このことばかり考えてきました。でも、私たちにはこれしか答えが見つかりませんでした。まちがっていたら、本当にごめんなさいっ」

そして、奇蹟が起きたのです。

水野さんは二人を手招きすると、手を握りながらこう言ったのです。

「なんかねぇ。おっきいでしょ、アレ。あたしなんか、こんなちっちゃいからねぇ。お湯と一緒に流されて消えてっちゃうんじゃないかってねぇ。夢にも見たのよぉ。あんなかに引きずり込まれちゃう夢を何回もね。だからね、70年以上も人間やってるあたしが、ホント恥ずかしいんだけど、恐ろしくなっちゃってねぇ~」

ここで指導担当の看護師が割り込みます。

「えっ!ってことは、水野さん、この子たちの推理、当たってるんですかぁ!」

水野さんが笑顔になって言いました。

「あなたたち、いい看護師さんになるわよ、きっと。患者の気持ちがわかる看護師さんにね。でも、ホントにねぇ、恥ずかしくって言えないものねぇ、こんなことぉ」

「じゃあ水野さん。明日、お風呂入ってくれますか?ちゃんと排水溝が見えないように位置取りしますから」

水野さんは「お願いします」と言うと、ふたりの頭を何度も何度も撫でてくれたんだそうです。佳奈さんも友人も、なぜか涙が溢れてきて止まらなくって、しまいには大号泣したそうです。気づけば、指導役の看護師まで泣きだしてしまって、他の患者さんやスタッフまで何事かと飛んできて…。

こういうお話でした。

さて、看護実習生の彼女が、お風呂嫌いの水野さんにぶつけた質問形式のことを、『仮説検証型の質問』というのだそうです。

一般的に、質問には、「クローズドクエスチョン」・「オープンクエスチョン」・「チョイスクエスチョン」がありますが、カウンセリングや取り調べで使われるのが、『仮説検証型の質問』だそうです。『これこれこういう理由で、こうなってしまったんじゃないですか?』みたいなことです。

実際に悩み事を抱えている相談者は、実は本人もボトルネックがわかっていないことがよくあるそうです。その時に、様々な角度から仮説検証型の質問をしてあげることで、相談者が自問自答しながら心の中を整理して答えに近づいていく…。その手助けをするのがボスやメンバーたちの仕事なのだということを教えていただきました。

この仮説検証型の質問力を鍛えるためのコミュニケーションゲームに『ウミガメのスープ』というのがあります。むずかしかったけど、とっても楽しかったな。なんか、なつかしい気分に浸っちゃいます。

ちなみに、『ウミガメのスープ』は、ボスもビジネススクールの合宿で一晩中かけてトライしたそうです。時間さえあれば、(やったことのない方は)是非チャレンジしてみてください。

今回は、私が5年前にボスと出会って採用してもらって、いろいろなことを教わってきた中で、感動した話を紹介させていただきました。他にもたくさんあるので、ボスのリクエストにお答えして、少しずつ記事にしていきたいと思います。楽しみにしていてください。

それでは、また。

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