生保レディーのみなさんへ ~生命保険と遺言~
生保のお姉さんとランチをご一緒してきました…。
生保って、生活保護じゃありませんよ。生命保険のセールスのほうです。
ちなみに、医療や福祉の現場では、『生保=生活保護受給者』です。
さて彼女、一ヶ月くらい前にホームページの問合せ欄からコンタクトしてくれたのですが、私のことを知ったきっかけが、な・な・なんとTikTok。きわめてレアなケースなので、数回メールでやりとりをするうちに「ランチでも…」という流れになりました。
今となっては、「消したくて消したくてどうしようもないのに、どうしても消せない」恥辱のTikTok動画ですが、そこには生保ネタが数本アップしてあります。たまたまそれを見て、リンク先のホームページから連絡をくれたわけですが、これって、かなりの労力ですよね。
ということは、何かしら下心というか、たくらみがあるのが普通ですよね?そのあたりをメールで探り探りするなかで、なかなか面白い女性だと思うようになったんです。なんか、私のほうこそ下心丸出しですよねぇ。
とにもかくにも、待ち合わせ場所に現れた彼女を見てホッとしました。普通の人だったからです。まぁ、見た目だけで判断するのもなんなのですが…。メールでコミュニケーションを取っていましたから、内面的にはまっとうですし、興味を持てたからこそ、勢いで(?)流れで(?)誘ったわけです。でも、いざ当日になってみると、「どんな人がやってくるのだろうか」と、期待よりも不安が募っていたのは事実です。男はいくつになっても臆病です。
でも、ビジュアル的にも普通の女性だったので、気分はとても楽になり、お店のテーブルに着く頃には、むしろ高揚感で足取りも軽かったです、正直。だって、私は還暦すぎのロートルです。相手の人はどう見ても30代半ばくらい。はしゃぎたくなるのも当然ですよね。
話してみると、メールの言葉や表現の選び方から受けたコンサルチックな印象はなく、「なぁんだ、本当にふつうのお嬢さんだな」という感じでした。本人いわく、対人関係においてはどうしても鎧をまとってしまうのだそうです。
言われてみれば、私だって同様です。寝室を一歩出た瞬間から、社会性を備えた人格者を演じながら生きています。パンツまで脱いでしまうことなど、滅多にありません。ごくごく一部の、親しい人と美味しいお酒に浸った時以外はね。
会話はランチタイムだけでは収まらず、彼女、アフタヌーンティータイムにはパンケーキまで頼んでました。私は乳製品が苦手なので、流れで(?)ビールを少々。というのも、彼女は私の電子書籍(『はじめてのシニアビジネス必勝の方程式』)を読んでくれていて、感想文まで書いて持ってきてくれたんです。こういう人、なかなかいませんからね。妙に感激して、わきが甘くなってしまったのも当然のことでしょう。
結論を言うと、彼女のVIPクライアントが50名ほどいるらしいのですが、その人たちの終活サポートをおカネに変える方法論について、私なりのアイデアを出してあげました。ただし、生命保険会社の社員の立場でそれをやってしまうと法に抵触してしまうので、「副業としてやるしかないよねっ!」ということで、これから定期的に個人指導をさせていただくことになりました。
授業料がどうのこうのとおっしゃるので、飲食代は交互に出すことで折り合いをつけました。私の本音としては、こんな娘のような年代の女性と一緒の時間を過ごせるわけですからおカネを払ってもいいくらいでしたが、「順番こで奢るということにしませんか?」という彼女の申し出を粋に感じてそうすることに決まりました。にしても、『順番こ』という言い回しに、なぜか胸キュンの私でした…(笑)。
ところで、ひとつだけ、彼女にまじめな注文をしました。
それは、まだ子どもが小さいお父さん・お母さんに生命保険を売る時には、保険証券を渡す際に、余白の部分に『全ての財産は妻の○○に相続させる』とメモ書きするよう勧めてほしい…ということです。
生命保険の役割は、生活を支える家族が亡くなったときの備えです。例えば父親が亡くなったとき子どもがまだ未成年だった場合には、死亡保険金で受験や進学にかかる費用を賄えるわけですから、生命保険というのはとても意味のある買い物です。でも、これまでに相談を受けた中に、そうは問屋が卸さなかったケースがいくつかあったのです…。
契約内容は、「契約者:夫 、被保険者:夫、受取人:妻」。
死亡保険金は、当然、妻が受け取ることになります。
でも実は、相続手続きにおいては、少々面倒なことが起こります。
「被相続人:夫、相続人:妻、子ども(未成年)」
この場合、何が大変かというと、遺産分割協議ができない! 子どもが未成年だから!
遺産分割協議ができないとどうなるかといえば、亡くなった夫名義の預金口座や証券口座の解約手続きができません。で、こうなってしまうと、家庭裁判所での手続きが必要になってきます。
具体的にいうと、子どもの「特別代理人」を家裁で選任してもらい、妻と特別代理人で遺産分割協議をすることになります。未成年の子どもが複数いる場合には、その人数分の特別代理人が必要になります。
特別代理人というのは誰でもOKです。親戚の誰かに頼むことはよくあります。でも、ちょっとなんかイヤじゃありませんか?
また、こうした手続きには時間もかかるし、専門家に頼まないとむずかしいでしょうから、費用もそれなりにかかります。ホント、面倒だと思います。
なので、そんな事態に陥らないように、「『全ての財産は妻の○○に相続させる 年月日 氏名 印』と、保険証券の余白に書いておくようガイドしてあげてほしい…」と、彼女に言ったわけです。
ちなみに、自筆遺言って、何に書いてもOK牧場です。内容的にも、こんな簡単なものでOK! こんなメモ書き程度の遺言でも、あるのとないのとでは大違いです。これさえあれば、子どものために特別代理人を選ぶ手続きも必要なくなります。
自筆遺言の要件は4つだけです。
・全部自筆 ・氏名 ・日付 ・押印(認め印もOK)。
これさえ揃っていれば、紙は何に書いてもいいし、封筒に入れる必要も無いし、(お奨めはしませんが)鉛筆書きでもノープロです。やっぱ、ボールペンでお願いします(笑)。
だから、生命保険を契約して保険証券をお渡しする場面で、
「この保険は、ご主人が万一の時に、ご家族を守るための備えです。でもご主人に万一のことがあると、相続手続きが大変です。ですからこの証券の余白の部分に、『全ての財産は妻の○○に相続させる 年月日 氏名 印』と書いておくことで、ご遺族の面倒をなくしてあげませんか?」
そして、
「いざという場合に、簡単なメモ(遺言)がとっても役に立ちますよ」
こんなふうにアドバイスをしてもらいたいんです、生保レディーのみなさんには。
そうすれば、「そうなんだ。じゃあ、そうします」ってなる可能性が高いはずです。
あと、もうひとつ。彼女には、別のパターンについても言っておきました。
離婚した女性が生命保険に入ることも結構あるんじゃないでしょうか。子どもは未成年で、親権は当然、母親であるその女性です。不幸にも、子どもが未成年のうちにその女性(お母さん)が亡くなるとどうなるか?
こんなことは考えたくはないでしょうけれど、考えてもらわなきゃいけないのが生保レディーの仕事です。
「契約者:女性、被保険者:女性、受取人:子ども(未成年)」
おそらく、離婚した元夫には、おカネを渡したくないと思います。親権だって渡したくないでしょう。でも、生命保険が機能するということは、その女性が亡くなるということです。
ここで注意すべきことが2つあります。
まず、子どもが幼かったら、その保険金の受け取り手続きは誰がするのか?
次に、お母さん亡き後の、子どもに親権者をどうするのか?
亡くなったお母さんにしてみたら、元夫が親権者となって死亡保険金を受け取るなんてことになってしまったとしたら、地団太を踏む思いですよね。化けで出てやりたくなるはずです。
そんなことにならないようにするためにも、やっぱり遺言。遺言で親権者を決められるんです。
「私が死んだら、私の子○○の未成年後見人に、私の妹の○○を指定します。年月日 氏名 印」
こんな内容のメモを、保険証券の余白に書いておくだけでOK牧場です。
ちなみに、未成年後見人とは、「親権者がいなくなったときに親権者の代わりをする人」のことです。実質的には『親権者』です。
このメモ書きさえあれば、元夫の親権復活は叶いません。元夫が子の親権者として保険金請求することも叶いません。
こういった話を、彼女は何度もうなずきながら、途中からノートを取り出してメモしながら、それこそ夢中でモノにしようとしていました。その姿に、私はちょっと感動すら覚えました。
要するに私としては、生保レディーの仕事をする中で、遺族が死亡保険金本来の役割を手にできるように、生命保険と一緒に(超簡単なメモ書き程度のものでいいから)遺言があると便利というか、無用なリスクを回避できるケースがある………ということを伝えたかったわけです。
すると彼女、明治アーモンドチョコレートのようなつぶらな瞳で、こう言ってくれました。
「今日おしえてもらったこと、研修では習っていません。これから、子育て世代のお父さんやシングルマザーに加入してもらう時には、必ず提案するようにしなきゃいけないなって思いました。次回もまた、いろんなこと、教えてくださいね」
なんと健気な女性なのかと思いましたね。
桜木町の駅での別れ際、彼女は携帯の待ち受けを私に見せながら言いました。
「私の娘です。実は私もシングルで…」
何事もなかったように、私は返しました。
「キミそっくりの素敵なお嬢ちゃんだよねぇ~」
台風が過ぎ去った、どんより雲の空に向かって大きくため息をひとつ。
そうして私は、ひとり地下鉄に潜りました…。
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