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腓骨筋腱脱臼~受傷編~

長野県に移住してきて以来、毎年欠かさず秋~冬にかけて重めの怪我をしている。しかもだんだん重症になってきている。

2023年2月、八方尾根・無名沢で滑走中に転倒し左足のふくらはぎの肉離れ。
2023年11月、小川山でクライミング中にフォールし空中で肋軟骨を損傷。
そして今回、ボルダリングジムでのトライ中に腓骨筋腱脱臼。

受傷した時から予感はあったが、案の定、入院~手術~リハビリまででスポーツ復帰には2か月以上かかりそうな重症であった。せっかくの機会なので、記録してみます(今回は受傷編だが、入院編とリハビリ編も書きたい)。

受傷まで

12月上旬、恒例の東京出張。この日は一人でB-PUMP秋葉原店に。いつも通り30分ほどウォーミングアップをした後、2階で3級を数本触るも、どれも登れそうにないので、4級をサーキットすることに。

3階にも行きつつ3時間ほど登る。疲れてきたしそろそろ上がろうかなという頃に、冒頭に触っていた3級の横の4級を触っていないことをふと思い出し、この課題をトライする。2階の右側のルーフの奥、薄被りのエリアの課題だった。

受傷

受傷した課題

赤丸ホールドで右手を固め、青丸ホールドにハイステップで左足を乗せる。壁が前傾しており、かつ右足を切っていたので、腰が剥がされないように左足の親指あたりでホールドを掻き込むように踏みながら黄色丸ホールドを取りに行く。

その時、左足首から「バンッ」という音が鳴り、剥がされないように掻き込んでいた左足首から力が抜けてフォール。

何が起こったのか分からなかったが、とりあえずマットから降りる。たいそう痛かったので、とにかく「今日はもう終わりにしよう」と思って階段を使って一階に降りた(痛かったが、一応引きずりながら歩けはした)。

一階に降りたあたりで血の気がサーッと引いて、少し吐き気。秋葉原店は氷とバケツが借りられるので、とりあえずアイシングする。左右で足首の外側の形がどう見ても違うので、この時点で「あー、なんか切れちゃったかな・・?」と想像。

左足首の外側が何かおかしい

なんとか足を引きずって歩くことはできたので、御茶ノ水駅まで歩き、宿がある新宿まで移動して宿泊。

翌朝起きてみると、相変わらず足の形はおかしいが痛みはだいぶ引き、割と歩けるようにもなっていた。どうしても出社しなければいけない用事があったので、この日は会社に行って仕事をし、夜のあずさで松本に帰った。

診断

松本に帰った翌日、近所のスポーツクリニックで診察してもらう。MRIを撮る前の触診で「これは多分腓骨筋腱脱臼だね。手術しないとだね」と先生。

腓骨筋腱脱臼とは、普段はくるぶしの後ろを通っている腓骨筋腱を押さえている支帯が損傷し、腱がくるぶしの上に乗り上げてしまう怪我らしい。この時初めて聞いた(ここにとても分かりやすくまとまっているので読んでみてください)。

https://www.jssf.jp/general/download/pamphlet_hkt.pdf

立ちこんだ時に左足から鳴り響いた「バンッ」という音は、この上腓骨筋支帯がやぶれ、腓骨筋腱が脱臼した時の音だった模様。

これは左足首の断面を足底側から見たMRI画像。赤い丸の部分がもともと腱があった場所で、青い丸が脱臼した腱。

腓骨筋腱は、座った状態でかかとを床につけて、(多分多くのクライマーがなっている気がする?)内反小趾を外側から押さえつつ、それを押し返すように足首に力を入れるとくるぶしの後ろ側に浮き上がってきます。気になる方はお試しください。

処置

脱臼した腱を先生が手で元の位置に戻した状態でギプス固定された。

日本足の外科学会の資料によれば、保存療法の場合はこのまま4~6週間固定するらしいが、半数は脱臼がクセになってしまうらしく、確実な治癒を図る場合は手術するのがいいらしい。

手術は市内の病院で実施するため、紹介状を書いてもらってこの日は終わり。松葉杖を貰って帰ったが、一応歩けはするので。家の中では使わなかった。

この後、入院~手術~リハビリと続く。続編に乞う期待。

受傷原因について

・「不意落ちの着地時の受傷」ではなかった。
・受傷時に起こしたムーブも不自然ではなかった(よくある肘固め足切りムーブ)

ので、想像するしかないが、大きく以下の2つが複合的に重なった結果と想像。

慢性的な捻挫とケア不足

自分は中学~高校で6年間バレーボールをやっていたが、この頃から捻挫は慢性的に受傷していた(うち1回は、今回受傷していない右足だったが、松葉杖が必要なくらいの重症だった)。

また、登山を始めた5年前から、主に下りの下山中に足首を頻繁に捻っていた。ほとんどは少し経てば痛みも引いて普通にあるけるようになるレベルのものだったので「癖になっている」くらいの認識でしかなかったが、蓄積の結果が今回の怪我の原因の一つになった可能性は大いにある。

特に今年は、夏の常念岳の下山中にやった捻挫の影響で左足首の可動域が少し狭くなっていたので、もう少し丁寧にケアしておけば良かったかも。

もしこれを呼んでいるクライマーの方で足首の捻挫が常態化している方がいれば、ケアは入念に行ってくださいませ。

直前にやっていた課題のトゥーフック疲労

受傷前に打っていた3級(下記画像)に左足のトゥーフックを耐えつつデッドで左手を取るムーブがあった。このムーブを5-6回トライしたが、これで左足首にダメージが溜まって、受傷した4級で爆発した説。普段この強度のトゥーフックはやらないので身体がついていかなかった可能性あり。

受傷前にやっていた別の課題トライ中の画像

再発防止に向けて

などと書くとポストモーテムチックで何だかアレだ。

ケアは勿論以前以上に入念にするのは前提として、トレーニングの仕方も意識的に変えないといけないかも。

この記事を書きながら、少し前に、制約理論(Theory of Constraints)に関する記事を読んでいた時に出てきた「コストワールド」と「スループットワールド」の概念を思い出した。

強度を鎖の価値と考える世界では、一番弱い輪の負担を一部肩代わりしたり軽減するものでない限り、制約以外を改善してもシステム全体の改善・強化には寄与しません。つまり、どこにフォーカスして改善するかが重要なのです。そういう世界観を「スループットワールド」と呼びます

https://japan-toc-association.org/basic_concept/

最近は登りこんでいたこともあって、腕に関しては保持力も上がって怪我もしなくなった一方で、そうしてパフォーマンスが上がったモジュールを基準に運動量や強度を決めると、どこか別の弱いモジュールが負荷に耐えられず故障する、というのが今回自分の足に起こったことなのかもしれない。

課題が要求する「保持力」に指が耐えられることと、要求する「ムーブ強度」に腰や足が耐えられることは、分けて考えなければいけない。クライミング(というかスポーツ全般)はこの例におけるスループットワールドの話である。

とすれば、「怪我をしないためのトレーニング」という点では、保持力にフォーカスして指トレをする、とかではなく、「体全体を鎖に見立てた時に、鎖全体の強度に影響する最も弱い部分を強化・ケアしながら全体を底上げしていく」というやり方の方がよさそうである。そして、ボルダリングのような強度の高いアクティビティをする場合は特に、弱い部分にかかる負荷が限界強度を超えないように、常に気を配る必要がある。今後のトレーニングの指針としたい。

また、自分は外岩リードがメインであることもあって、ボルダリングジム特有のムーブをこなすフィジカルが足りてないことが多く、それがトレーニングになると思ってジムでついつい追い込んでしまうこともあるのだが、今回はそれが仇になってしまった。自分の身体の強度に対しては十分にバッファを取って、今後は腹六分目くらいで終わるようにしたい。

いろいろ調べると、クライマーの登攀中の腓骨筋腱脱臼受傷は珍しい訳ではないらしく、記録もいくつか出てくるので、(特に捻挫持ちの)クライマーの皆さんはお気をつけください・・・。


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