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2024年ここまでのクライミングの振り返り

2024年の外岩クライミング始めは3月中旬の兜山(山梨県)だった。

2023年は、11月に小川山でのトライ中に負傷し強制シーズンアウトという、何とも不甲斐ない幕引きだった(しかもこの2日後の立山スキーもこの怪我のせいで行けなかった)。

クライミングをほとんどやらないまま春になり、迎えた兜山での初登りは、なんと5.10aがRPできないという有様。「ああ、今年もまたここからスタートか…」と思った。

唯一登れたルート。5.9くらいだった気がする。

そこから約8か月。そろそろ外岩リードのシーズンも終盤というところで、ぼんやりと今年の目標にしていた「5.12a完登」を、瑞牆山・カサメリ沢の「ギャラクシアン」RPという形で達成した。11月初旬のことである。

2017年頃にボルダリングからクライミングに入り約7年、外岩リードは始めて約2年、これまでで最もクライミングに集中して取り組んだシーズンだった。まだシーズンアウトではないのだが、頭の中をダンプするには丁度いいタイミングだと思うので、振り返りを兼ねて記録しようと思う。


「どこへ」ではなく「誰と」

まず、いつも一緒に岩場に行ってくれる仲間への感謝を。

山を求めて長野県に移住してきて2年半。山に近い生活の中で気付いたことは、自分の報酬系の主なツボは「どこへ」ではなく「誰と」にあるということである。

自分はクライミング自体も好きだが、それ以上に一緒に遊んでくれる人たちのことが好きだ。仲間の完登を喜びたいし、自分の完登を喜んでほしい。

様々な縁に恵まれた今の環境でクライミングが出来ていることが本当にありがたいと感じるし、そういう環境だからこそ続けられていると思う。もし仲間が全員クライミングを辞めてしまったら、自分もクライミングを辞めてしまうかもしれない。7年間という期間の割にほとんど成長していなかった過去を踏まえると、1人でストイックに継続できるほど、自分は多分クライミングそのものが高純度に好きな訳ではないようだ。

ちなみに、そんな自分でも「このラインを登りたい」という気持ちが沸くことは勿論あって、そういう時は意地になって通ったりもした。そういう時にも付き合ってくれる人がいるのは、本当にありがたい。

瑞牆山・百獣の王(5.11c)。内容とスケールに惚れて、かなりムキになってトライした

変えたこと

グレードを一つの結果として見ると、結果が変わったということは、プロセスも変わったということだ。シーズン中の何らかのタイミングで、意識的に変えたものとそうでないものが混在しているが、棚卸しようと思う。

モチベーションコントロール

クライミングに取り組む上でモチベーションを整理した。

自分には、「継続すること」の障害になり得る思考のクセがある。

一時的には「頑張らなければ」と思っても、続けることが難しい。クライミングの場合、「継続しなければ、すぐに退化する」という現実が先に見えてしまい、「積み上げても容易に"失われる"のなら、そもそもやる意味ないのでは?」という思考が浮かぶ。何か成果(クライミングでいえばグレード)を残しても、自分の中でのその価値が色褪せやすく、燃え尽きがち。「アクティビティそのものに対する"好き"」の純度が高くなることがあまりない。

よって、このままシーズンを過ごしても同じ結果になるのではと思い、これまでもぼんやりと認識していた「健康な身体」と「人との繋がり」という2つの動機に改めてフォーカスすることにした。

仮に登る頻度が月1-2回になっても、グレードが落ちていっても、この2つはきっと残る。同時にこれらは、少なくとも自分にとっては生きていくために欠かせないものである。

クライミングに取り組んでいれば、健康体になっていくし、人との繋がりも広がっていく。もしクライミング自体が後退することがあっても、これらは同じように失われる訳ではなく、自分の資産としてそれなりに長い時間残るはず。こうやって「続ける理由」が明確になれば、あとは技術やグレード、目標は自ずとついてきて、クライミングそのものに対するモチベーションも上がっていく、そういういいサイクルが回り始めるという推測があった。

カサメリ沢

やらないこと

「やらないこと」を決めてみた。

自分は移住して以降、沢登りやアイスクライミングなどを一通り経験する機会に恵まれたが、結果として自分のコアアクティビティを、

・クライミング(ここでは、フリー+無雪期アルパイン)
・バックカントリースキー

の2つだけに絞った。

そして、「沢登り」「トレイルランニング」「アイスクライミング」「冬季アルパイン」は、改めて「やらないこと」に分類した(理由はいろいろあるが割愛する)。

時間を効率よく配分し、いろんなことを同時並行で上手くやるのが苦手な自分にとって、この整理は「脳のメモリーを解放し、やることに集中する」という点で良かったと思う。わざわざ決めつける・宣言する必要は無いという考えもあるかもしれないが、自分にはこれが合っていた。「やらないこと」を決めると「やること」が決まる。

何事にもオープンな姿勢が必要な時もあるが、今の自分はガイドを目指すわけでも、オールラウンダーになりたいわけでもない。よって、今年のグリーンシーズンは歩き登山を何日かやった以外、ほとんどの時間をフリークライミングに割いた。

トレーニングメニュー

夏の間は週1日、室内リードジムでのトレーニング日を設定していたが、9月頃から週2日室内ボルダリングジムでのトレーニングに変更した。

自分の場合、通っていたリードジムへは往復で2時間、ジムでの活動4時間程度で、合計6時間ほどを週1回。とてもいいジムだし、いいトレーニングになる反面、料金と往復のガソリン代を加味すると相当コスパが悪かった。

そこで、いろいろ調べる中で見つけた以下の事例情報を参考に、平日のトレーニングはボルダリングジムでのインターバルに変更することにした。

科学的な手法を用いて短期間で著しくリードの能力を改善できたスポーツクライマーのトレーニング事例

資料内から抜粋

ありがたいことに、よく行くジムには垂壁に30手ほどの子供用の低強度の長物と、まぶしの薄被り壁に11台~12台の40-50手の高強度の長物が設定されているので、これを使うことにした。その結果、ジムでの過ごし方は以下のようになった。

30分 アップ→
20分 ラインセット・まぶしの課題→
30分 インターバルトレーニング→
クールダウンして終わり

課題に打ち込むと自分は(経験上)故障率が上がるので、設定課題はフレッシュな状態で4-5本触って終わりにする。インターバルはキツイ長物と優しい長物を休まず交互に3~4往復(途中で落ちてもやめない)。ジム滞在時間は1時間半~2時間ほどになる。

いつも取り付いているまぶし面

足置きとスタティックムーブ

ボルダリングジムでの10級のウォーミングアップからインターバルトレーニングでの追い込みに至るまで、神経質すぎるほどに足置きにこだわり、ミシン踏みは一応禁忌とした。

また、ボルダリングでもリードでも、ムーブはなるべくスタティックに組み立て、ゆっくりと時間をかけて登るようにした。

本質的には完登できればなんでもいいのだけど、パワーに乏しい自分は「強い人はほぼ例外なく足の使い方・ポジションの取り方が美しい」という個人的観測を追い、これらの意識によってセキュアなトライができるようになることを目指した。

ルートへの取り組み方や意識

ルートへの取り組み方や意識を変えた。具体的には以下のように。

  1. オンサイトトライに失敗した場合のムーブのバラシは「セキュアであること」にこだわる

  2. 後からムーブに違和感を感じたら躊躇わずにムーブを変える

  3. 「登れなかったらどうしよう」という不安の原因になり得るものは可能な限り排除するよう努める。例えば、フィジカル面の不安や、グレード更新へのこだわり、など。

  4. あらかじめ設定した時間内(40-50分)にトップアウトできないルートはその時点で撤退する

1-3は、瑞牆山のプラチナム(5.11c)で得た教訓である。

4については、「トライを通じて登れる自分になる」よりも「登れる自分になってトライする」方が自分の好みであるという考えからやり始めたことである。実際に個人的な感覚として、これくらいの時間内でトップアウトできるならRP圏内、大幅に超過するようであれば何かしら足りてないので出直し。

(勿論、どちらがいいというものではないし、パートナーや状況が許容するなら時間をかけたっていいと思う)

プラチナム。最後までムーブを見直していた

ウォーミングアップ

自分は身体が起きるのが遅い方なので、ウォーミングアップは岩場でもなるべく丁寧にやるようにした。

具体的には、ラジオ体操+股関節と体幹を起こす運動+ウォーミングアップツールでの懸垂で、合計で15分から20分ほどはウォーミングアップに使う。

ラジオ体操をウォーミングアップに取り入れる習慣は、ホームジムで教わったもの。とても調子がいいので、みんなに薦めたい(いつも岩場でやっているが、あんまり一緒にやってくれる人がいない…)。

相棒(i-VOU)

食事

一応、毎月-1kgくらいの緩めのペースで減量できるように食事を調整した。軽いはやはり正義。登れる。

ただ、飲むときは飲むし、食べる時は食べている。全くストイックではないが、これくらいが丁度いい。

麺珍

変わったこと

モチベーションの安定

取り組む上での感情の起伏が少なくなった。ジムトレーニングも淡々とこなせるようになった(以前はかなり気分次第だった)し、登りたいルートに対して自分に足りていないものを以前よりは客観的かつ冷静に見れるようになった。

朝一本目のパフォーマンス

ウォーミングアップに時間をかけるようになったことで、朝1本目の登りのパフォーマンスが良くなった。股関節がよく動くようになり、下半身と上半身がうまく連動するようになった。加えて、ツールを使ってある程度パンプさせることで、上手く筋肉が温まるようになった(エリアによってはツールのアップはそこそこに、登りながら温めることもある)。

グレード

8月に瑞牆山のプラチナム(5.11c)をRPするまで、自分の限界グレードは5.11bだった。2022年に小川山のスラブの逆襲(5.11b)をMOSして以来、グレード上では丸2年停滞していたことになる。そこから11月上旬にギャラクシアン(5.12a)をRP。春から見ると5.11b→5.12aの進捗となった。まだ、佐久志賀のイエローキャット(5.11c)のオンサイトによって、オンサイトグレードも2年ぶりに更新した。5.11c近辺であれば、1日でRPを目指せるくらいになったイメージである。

パンプ耐性

前述のジムトレーニングを9月に始めて以降、持久力、壁の中でのレスト時の回復力、パンプしてからの一押し、連登耐性の向上など、全体的にパフォーマンスが上がった(自分の場合はボルダーのグレードも上がった)。

高グレード帯で突破力が必要になってくれば、課題に打ち込む時間を増やして調整することもできるし、時間効率等を総合するとトレーニングはボルダリングジムでやるのが良いというのが現時点の結論である。

もちろん、クリップやレスト戦略などのルート特有のトレーニングはリードジムでしかできないものもあるので、たまには行くようにしたい。

ちなみに、自分が以前住んでいた大阪にはBUMというリード壁(オートビレイ機付き)とラインセット主体のボルダー壁が両方あってしかも駅近という神ジムがあって、トレーニングにちょくちょく使っていた。家の近くに来てほしい。

痛める箇所の変化

https://www.lostarrow.co.jp/blackdiamond/stories/EX2021_BD_esther_smith_nagging_finger_injuries.html

これまでは、特にボルダリングで高負荷をかけると、中指・薬指のA2腱鞘が痛くなることが本当に多かった(ボルダリングを継続的にできなかった理由の大半はこれだった)。

ジムでのインターバルトレーニングを始めてから、この箇所を痛めることが無くなった。代わりに、PIP関節が慢性的に痛むようになり、指の可動域が現在進行形で狭くなっている。

推測だが、大きい筋肉を有効に使えるようになったことでA2腱鞘への負担が減った一方で、外岩のボルダーや高グレードルートの核心でクリンプをする場面が増え、PIP関節への負担が増えたのではないかと思う。

スタイル

「自分はどう完登するか?」を気にするようになった。

これまではあまり気にしていなかった部分だが、集中的にやっているうちに自然と意識するようになった。

例えば、
なるべく少ないトライ数でRPするように意識する、とか。
TRリハーサルはしない、とか。
やりたいルートのOS・FLトライを温める、とか。

外岩ボルダー

外岩ボルダーに興味が向いた。

ルートの核心の突破力のために必要なトレーニングだと思い、最近クラッシュパッドを購入した。

トレーニング目的で始めたが、純粋に外岩ボルダリング自体とても面白い。休日が倍欲しい。

小川山

交友関係

知り合いが増えた。
本当にありがたい。

小川山

情報収集

YouTubeで海外のクライマーの動画を観るようになった。

集中的に取り組んでいると、ギアの使い方からトレーニングTipsに至るまで、気になることは沢山出てくるが、特にクライミングについては日本語の情報は(海外の情報量と比較すると)ほぼ無に近いので、英語媒体でインプットするようになった。

今後変えていきたい部分

突破力

高グレードで戦える突破力をつけたい。ボルダー大事。

高グレードアルパイン

来シーズンの無雪期は高グレードアルパインでも戦えるようになることを目標に、スキーはそこそこにして冬の間もクライミングは継続しようと思う。例えばアルパインでルートグレード5.11aのルートの完登を目指すのであれば、個人的には5.12aは安定して登れる(せめてワンデイできる)くらいにはなっておきたい。



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