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ビレイについて思うこと

クライミングのビレイについての雑記です。


ビレイヤー、本当にありがたい

一緒に同じジムやエリアに行って、ビレイしてくれる仲間がいるというのは、本当にありがたい。時々忘れてしまうけど、忘れないようにしたい。これは当たり前ではないと。

ビレイが好き

自分はビレイが好きだと思う。

クライミングに限らず、普段の生活や仕事でも、主役よりアシストの方が好きだし、性格的にも合っていると思う。クライマーの命を預かっている、クライマーのパフォーマンスに貢献できる、完登を一緒に喜べる、そういう決して軽くない責任を伴う立場にやりがいを感じる(もちろん、自分が登るのも好きだけど)。

ビレイはコスパがいい

調子のいいクライミングパートナーと出会い、関係を継続するための要素はいくつかあると思います。

運、
実力、
フィーリング、
モチベーション

「実力はすぐにはつかない。性格、今更変えようがない。モチベーションは、あるようでないような。運?良く分からない・・。でも、ビレイのスキルだけは割とすぐに何とかできる気がする」というのが、外岩を始めたころの自分の思考でした。

”グレードは多分離れてる。でも、以前やってもらったビレイは快適だった”
”よくジムで見かけるけど、よくあのグループにいるのは見るけど、話したことはない。でも、ビレイはちゃんとしてた”

こんなちょっとした印象を持ってもらえたことがきっかけに繋がる縁がもしあるのだとしたら、ビレイの印象で損をするのはとても勿体無いことだと思います(ちなみに、自分は挨拶も同じように捉えています。挨拶ごときで損をするのは本当に勿体ない)。

もちろん、ビレイがちゃんとしていても繋がらない縁だってあるし、一方でそういうことを気にしなくてもパートナーに恵まれてる人も多分いる。

でも、自分がそうだったように、持たざる者が「ビレイを学ぶ」という戦略を取るのは、結構いい線なのではと。
ビレイは確かに難しいけれど、13クライマーになったり、陽キャに転生するよりは、ずっと簡単かもしれない。

ビレイはシンプルで、でも奥が深い

自分が思う「ビレイヤーの行動指針」は以下の3つです。

  1. グラウンドフォールのリスクの最小化

  2. フォール時のプロテクションやクライマーへのダメージの最小化

  3. クライマーのパフォーマンスの最大化

こうして整理すると、たった3つなので一見シンプルですが、1つ1つは奥深い…。

グラウンドフォールのリスクの最小化

クリップのしやすさを優先しているのか、1ピン目クリップ後~3ピン目でも結構ロープを出していたり、離陸時から離れた場所でロープを出すようなビレイをたまに見ます(ジムでも外でも)。

クライマーとビレイヤーの関係性、下地の問題、クリップの高さなどなど色々あると思うので、一概にこういうビレイが良いとか悪いとか偉そうなことを言うのは控えますが、自分はこういうビレイはなるべくしません。低めのピンは下地が許せば可能な限りピン直下に立って、ロープはいつも張り気味です。

理由は2つ。1つ目は自分が実際に1ピン目をクリップした直後に足を滑らせてグラウンドフォールをしたことがあるから。当たり前ですが、地面に落ちるのは痛いのです。2つ目は、クライマーが撮った動画に自分のそういうビレイが映るのが嫌だから()。

大抵のジムのビレイ講習では、「クライマーが数ピンクリップするまでは、ビレイヤーは1ピン目から半径1m以内が望ましい」といったことを教わると思います。
クライマーがフォールした際にビレイヤーが壁に引き込まれることで、クライマーの墜落距離が延びる、クライマーとビレイヤーが接触する、ビレイヤーが壁にぶつかって怪我をする、といった理由からです。自分も同意です(ジムで1ピン目のクリップを省略するべきでない理由の1つとして、1ピン目はビレイヤーの立ち位置を制限する役割もある、と最近なんかの動画で見ました)。

ビレイもスタイルがあるのかもしれませんし、結局落ちなければまぁいい訳ですし、山の遊びは無数の「100点では無いけど」という割り切り・状況判断で前に進んでいくものなので、そういう意思決定自体はあってもいいと思います。

ただ、自分は「それは今そこですることに合理性がある意思決定・行動なのか?」をなるべく考えるようにしています。

それをしないことによる思考や行動の癖の積み重ねが(例えば自分は冬はバックカントリースキーをしますが)、フリーのゲレンデよりもずっと厳しい環境にいる時に悪い形で出てしまい、それが取返しのつかない結果を招く。自分は結構不注意なことが多いので、そういうことになってしまう不安があります。

あと、とにかくそういうビレイが動画に残るのが自分は嫌です(これもまたスタイル)。

フォール時のプロテクションやクライマーへのダメージの最小化

過去の自分を振り返ると、ダイナミックビレイについて触れる・学ぶ・実践する機会はあまりなかったように思います。ダイナミックビレイをするようになったのは、ありがたくもドカ落ちしてくれるパートナーが増えてきたここ1年くらい。

ある程度の安全性があるジムでも、多くのクライマーは「思い切って手出してドカ落ち」よりも「ムリだと思った時点でテンション」をおそらく選ぶでしょうし、ビレイヤーだってクライマーの最終クリップが足元くらいで「テンション」と言われたら、ガッツンビレイで止めるでしょう。生き物として、フォールは怖いです。

でも、ジムならともかく、外岩でビレイをするなら、ガッツンビレイは基本的にNG、ダイナミックビレイの習得はパートナーによりますがほぼ必須と言っていいのではと。

プロテクションへのダメージの最小化の観点でいうと、よく聞くのは「リムーバブルプロテクションのルートでは、グリグリなどのブレーキアシストデバイスの制動だとプロテクションに優しくないので、チューブ型などの流しやすいデバイスを使いましょう」という話。
外岩は特にボルトでもジムと違って状態いろいろなので、可能な限りプロテクションへの衝撃荷重は小さい方がいい。

クライマーへのダメージの最小化の観点、多分これが一番重要で、

  • フォール時にクライマーにとって大きな問題になるのは、落下した際の縦方向の衝撃荷重ではなく、クライマーが振り子として壁に激突するその激しさ(速度)である

  • ダイナミックビレイによって、その速度は遅くすることができる

という話です。

参考に動画を1本引用します。全部英語なのが残念ですが、字幕が読めるクライマーには他の動画も含めてとてもオススメのチャンネルです。

外岩の壁はまさに岩なので、ジムのようなガッツンビレイで衝突することを想像すると・・・。でも、最近「怖いから流さないでほしい。できるだけ落ちたくない」と言われたこともありました。なので、まずはそういう会話をクライマーとビレイヤーでしておくことが大事なのかなと。

体重差が「クライマー>ビレイヤー」の場合は、それほど流さなくても(ビレイヤーが浮き上がる分で)十分な"流し"になるケースが多いようです(これも上の動画で解説されています)。

ただし、流したことによってテラスに落ちたり木にぶつかったりするリスクもルートによってはあるので、そういう危険がありそうなルートは事前にクライマーとビレイヤーで十分なコミュニケーションを取っておくことも重要です。「あそこで落ちたら流さない」、とか。

とにかく、ガッツンビレイはよくない。

クライマーのパフォーマンスの最大化

クリップ時のロープの繰り出しの量。クリップは忙しいので、なるべく時間をかけずに済ませたいし、そういう時にロープが出てこないのは多かれ少なかれストレスになる。

これは、過去の自分を振り返ってみても「本気トライをするクライマーをビレイすることに慣れる」的な、ビレイヤー側のメンタル面の要素が8割くらいな気がします。

「自分がロープを出しすぎたせいでクライマーが手繰り落ちした時の落下距離が伸びたらどうしよう…」と怖がって十分な量のロープを出すのを躊躇ってしまう経験は自分もありますが、

「結局それでクライマーがクリップにかける時間を引き延ばして手繰り落ちのリスクを高めているのは、ビレイヤー自身じゃないか?」

と思って以降、際どそうなクリップでもクライマーを信じてロープを出すようにしています。

そもそも、特に下部は確実にクリップしてもらわなければクライマーもビレイヤーも危険なのです。もう一蓮托生です。保身を捨て、腹を括ってロープを出すしかないのです(言い過ぎ?)。

限界グレードの完登というのは、クライマー自身の鍛錬も然ることながら、ビレイヤーのそういう営みの積み重ねの先に成るものでもあると、最近思うのです。

そういう点も考慮してきわどいグレードのルートにトライする際のビレイヤーを選ぶのは、クライマーの責任とも言えます。

ブレーキアシストデバイスについて

自分はグリグリとメガジュル・ギガジュルしか使ったことがありませんが、最近「ブレーキアシストデバイスはいいな」って思います。

他人の命を預かるビレイヤーという役割を、自分自身も登りながら一日に何回もこなす、そんな中で「制動手を離したらアウト」という緊張感の中でずっとチューブ型を使い続けるのは、自分は怖いです。ハングドッグだって当然グリグリの方が楽。

もちろん、ブレーキアシストデバイスでも制動手を離すのはNGですが、消耗する体力・精神力の量は間違いなく少なく済むでしょう。この点においては、ブレーキアシストデバイスを選択することの方が合理的に感じます。

それと最近知ったのは、「ATCなどのチューブ型と比較してグリグリのようなブレーキアシストデバイスを使う利点」は、ブレーキアシストそのもの以上に、「1回の動作で出せるロープの長さが長い」という点が大きい、ということです。

(例としてグリグリで話をしますが)グリグリはハーネスの高さで制動手でカムを押さえてロープを出しますが、腰~めいっぱい上げた手の高さまでの長さのロープを1回の動作で出せます

対して(例として)ATCの場合、「制動手でデバイスまで送ったロープを非制動手でクライマーに送る」という性質上「1回の動作では制動手でデバイスまで送った長さしか出せない」のです。

制動手をラオウのごとく天高くかざしデバイスに送り込めば1回の動作で出せるロープの長さは長くなりますが、それでも手数はグリグリより多いです。そもそもATCのビレイでラオウやってるビレイヤーを見たこと、自分はありません。多分あんまりいないでしょう。

クリップは高グレードになればなるほど忙しいので、グリグリを始めとするブレーキアシストデバイスのように1回の動作で多くのロープを出せる方が、クライマー・ビレイヤーともに嬉しいのではないでしょうか(体感、グリグリは多くても2回出せば足りますが、ATCは3~4回必要です)。この点においても、自分の考えは「ブレーキアシストデバイスの方が合理的な選択」です。

一方、「(ブレーキアシストデバイスはロープが出しにくい場合があるので)本気トライはチューブ型でやってほしい」という考えもあると思います。

チューブ型であっても、多少多めにたるみを作っておくことでクリップ時の送り出し回数を減らすこともできるでしょう(ブレーキアシストデバイスであっても、待機ロープの状態に気を使えばひっかかりリスクは低減できると思いますが)。

ヨーロッパではボルトルートは基本的にブレーキアシストデバイスが主流のようですが、「ここは日本やぞ」という考え方もあると思いますし、要は「このあたりも加味してデバイスを選んでいるか?」をビレイヤーとして考えることが大事なのでは、と。

ちなみに、自分はボルトルートは基本グリグリ、リムーバブルプロテクションルートはチューブ型でビレイするようにしてます。

ビレイヤー冥利

最近、仲間がエクセレントパワー(13a)を登りました。

光栄にも、RPトライのビレイをさせてもらえたのは自分でした。完登の瞬間は、自分も本当に嬉しかった。ビレイヤー冥利に尽きます。

一緒に岩に行くようになって1年半くらい経ちますが、「この1本と、これまで任せてもらった数多くのビレイは全部繋がっていた」と思いました。

自分が登れなくても、そのトライに貢献することはできる。ビレイは難しいけど、素晴らしいポジションだと思いませんか。

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