進化する日本のお茶と、モノの進化プロセスと
日本のお茶が従来の形式にとどまらない意外な進化を遂げているようです。
ITmediaには「食の流行をたどる」という連載があり、今回の特集は日本におけるお茶の変遷と今後の展望です。
日本で約1,200年以上前から飲まれるお茶、コモディティー化を経て再び市場が拡大中
日本では約1,200年以上前からお茶を飲む風習が伝わっていると言われますが、もともと日本でお茶といえば、茶葉(リーフ)を購入し急須を用いて自分自身で入れるスタイルが主流でした。
1970年代に入ると伊藤園を中心とした飲料メーカーが缶飲料として販売し、「お茶を購入する」という新たなマーケットが登場します。
90年代にはペットボトル需要が拡大し、「お金を出してまでお茶を買うの?」という日本人のお茶に対する価値観が覆されることとなったのでした。
ちなみに伊藤園は1966年に静岡県で創業され、1984年に他社に先駆け世界初となる緑茶飲料「缶入り煎茶」を発明し、緑茶飲料市場を開拓しました。「お〜いお茶」でおなじみです。
緑茶飲料の市場規模は国内だけで4,470億円にのぼり、伊藤園が35%ものシェアを握っているそう。2018年には「世界販売実績No.1の緑茶飲料」としてお〜いお茶ブランドがギネス世界記録に認定されました。
2005年をピークに縮小していた緑茶市場ですが、2010年以降は再び拡大基調へと転じています。
国内におけるお茶の進化5つの事例
日本のお茶市場にどのような変化があったのか、記事内では5つの事例に触れられています。
① 高級化
② 専門店化
③ 空間化(コンセプトホテル)
④ 目的地化
⑤ 料理のお供化
1つ目は「ボトルドリンク」の進化です。ペットボトルお茶の登場で普及したお茶は、「手に取りやすい範囲の高級感」と「ペットボトルの概念を覆すほどの高級化」の2方向に発展しています。
前者は例えば「トクホ」や「新茶葉」「限定」といった付加価値をつけた製品を指しています。最近では「特茶しか飲まない」みたいな話を聞いたりもします。
そして、注目したいのが後者の高級化です。
「Royal Blue Tea」社は、1本5,000円もする木箱に入った超プレミアム日本茶「玉露ほうじ茶 KAHO 香炉」を販売しています。ホテルの和食レストランでワインのように扱われており、手土産や贈答品としてのニーズにも対応できる高級品としての地位を獲得しています。
2つ目に挙げられているのが「専門店化」。日本茶を楽しめる「和カフェ」や、「茶割」という"アルコール×お茶"メニューを100種類以上も提供するお店の人気が高まっているそうです。
(茶割 目黒)
「お茶=ヘルシー」なイメージから女性客が大半を占めており、予約が取りづらいお店として知名度を上げているといいます。
続いて3つ目が、お茶をコンセプトとした「ホテル」です。新橋にある「CHAYA 1899 TOKYO」は老舗ホテル「龍名館」の系列で、2020年2月にオープンしました。
チェックイン時には、茶釜を用いた古来の手法で丁寧にお茶を煎じてくれます。もちろんレストランの料理もお茶を使用した食事が中心で、アメニティにもお茶を使用した徹底ぶり。ベットライトは茶筅(ちゃせん)をモチーフにしたデザインとなっており、海外からの旅行客にとっても嬉しい空間に仕上がっています。
4つ目がお茶の「ディスティネーション(目的地)化」です。佐賀県といったお茶の生産地が様々な体験型プログラムを開発しており、「ティーツーリズム」なるものが登場しているそうです。欧米でいう「ワイナリー見学」に近いものですね。
最後に、「お茶ペアリング」が5つ目としてピックアップされています。ワインのように、コース料理に合わせて複数のお茶を提供する形式も増えています。最近はお酒を飲まない人も増えているので、お店としては単価アップの一手としても注目を浴びています。
海外の日本食ブームとMATCHAの浸透
お茶は国内だけでなく、海外でも人気が高まっています。
(海外における日本食レストラン数の調査結果(令和元年)の公表について)
日本食は世界的なブームとなりつつあり、2013年には「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことでも話題に。海外における日本食レストランは約15.6万店も存在し、ここ7年で2.3倍に増加しました。
お茶も日本食ブームに乗っかって認知度が高まっており、特に好評なのが抹茶。カテキンなど多くの栄養を含むジャパニーズ・スーパーフードとも評されます。アメリカのスタバでは抹茶フラペチーノが不動のメニューとなり、ヨーロッパで「MATCHA」はチョコレートを始めとしたさまざまなスイーツに使用されています。
伝統的な大衆品のブランド化と、モノの進化プロセスに関する雑感
これまで見てきたように、お茶市場は国内外で拡大していることが分かります。いくつかの事例でも触れられていましたが、「お茶のワイン化」が起きているともいえます。古くから庶民に愛されていた飲料が技術革新で大衆化したのち、もともとのスタイルが伝統工芸的な立ち位置となり、差別化、高級化が進んでいった。そして、日本ブランドとして海外輸出も進んでいます。
これは寿司や日本酒、スイスのチーズといった多くのモノに共通して見られる進化プロセスだなと感じました。「伝統的な大衆品のブランド化」という進化は食に限ったことではなく、有田焼のような伝統工芸も同じようなプロセスを経ていると思われます。
『美の考古学』という本では、土器の三段階として、
① 素朴段階
② 複雑段階
③ 端正段階
という流れで整理されています。
もしかしたら生物やソフトウェアにも同じことが言えるのかなと。何かが生まれ、数が増えると、種類が増え、一定の閾値を超えたら、洗練された形で集約されていく。
コモディティー化から多品種化を経て高級化しているお茶は端正段階に入っており、ブランドとして確立されてきたのではないか、という印象を受けます。この見方は「生き残れるモノは何なのか」ということを考える上でいろいろと応用できそうだなと思った次第です。