見出し画像

けものフレンズ3のドールという子の生き様の話をしたい

※この記事はけものフレンズ3のメインストーリー8章までの読了・ネタバレを前提としています。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~







1.前置

まず生き様とは「生まれて、生きて、死ぬ」までの流れと定義する。
具体的には、チュートリアルまでセルリアンと戦ったことも無かった子が8章で決死の一騎打ちの末、舞台から(事実上)退場するまでの流れに、ドールという子が何を思い、何をしたのか、という話がしたい。

私が生き様という言葉を使うのは、このけものフレンズ3というゲームがこれまでのIP作品で示唆されていた「世代交代」と「アニマルガールとしての誕生から消滅」までを初めて明確に全て描写しきったからだ。

※プレイヤーは正確にはドールの誕生に立ち会ってはいないが、オープニングアニメの一場面(タイトル画像)を便宜上それとする。

さながら歴史物の如く、登場人物の誕生から舞台の退場までを描いたその過程を「生き様」として、ドールという子についての話がしたい。


上述の通り、彼女はアニマルガールとして生まれて間もないという境遇で、ゲーム開始時点ではセルリアンとも戦ったことはなく、チュートリアルを通じてプレイヤーは彼女の初戦を見届けることになる。

画像2

その後はメインストーリーの旅によって出会った人物や戦いを通じて輝きとは何か、輝きを奪われる/取り返すという戦う意義、旅の先にある自身の夢を、章を追うごとに自身の中で確立していく。

だからこそ、8章終盤で決死の選択をしたことはその場の短絡的な自己犠牲精神ではなく、8章までに培った意思の上に成り立った行動だということ。これは生まれて間もない1章から8章までの成長を見てきたプレイヤーとしては、事実上一人のアニマルガールの一生を見届けてきたということに等しい。故に、生き様

その一生の中で見てきた物、感じてきた物に従って、自分の夢のために、信念のために、その身が灰塵となろうとも、後悔の無い決断をした8章最期の行動までに何があったのか、1章から追っていこうと思う。

2.信念

1章前半は漠然と「色んな場所を探検したい」というスタンスでいたのを、最初のターニングポイントとして、1章後半にセルリアンが襲ってくる理由として「輝きを奪う事」そして「輝きを奪われた子はどうなるか」についてミーアキャットとハクトウワシが具体的に説明し、ドールは初めて自分が立ち向かっている事の重大さを理解し、ここで最初の信念が芽生える

画像1

これこそが今後メインストーリーにおいて一番の柱として機能する信念であり、彼女が精神的に「ヒーロー」としても覚醒した瞬間でもある。

彼女が今後この信念に基づいて調査隊として行動している事は、2章でアフリカゾウが何気なく「巨大セルリアンを倒して輝きを取り戻せないか」という提案をした時、周りが現実的な状況認識でやんわりと否定していたのを、ただ一人強い口調で同意していた事からも窺え知れる。

画像3

※もちろん他メンバーも現実的な段階を踏まえての否定で、その信念には同意している

同じ2章ではアフリカゾウに夢は何かを問われ、ドールは「サーバルの様な立派な副隊長になる」と答えたところ、それは既に叶っていると告げられ、改めて自分の夢と目標について自問し「大きな群れを作りたい」という結論をプレイヤーへ伝える。

画像38

また、その結論を出す前の2章中盤、地図を失い、ナビゲーターのアフリカゾウも連れ去られ、手詰まりになってしまった時とそれを突破した時の出来事を、6章の回想としてドールは以下のように語っている。

画像4
画像5
画像6
画像7

この体験からドールは次の目標を「大きな群れを作る」こと、それに加えて話した数々の夢を「絶対に諦めない」という意思と、それが叶うその時まで一緒に居てほしい事をプレイヤーへと告げる。

画像8

また「絶対に諦めない」という意思は2章終盤で、ドールの未来を一部視たダチョウが伝えた「避けようのない困難な戦いに直面する」ことに対してと、ドール自身が「未来が視えるとはどういう感じなのか」また「もし叶わない未来が視えてしまったら諦めてしまうのではないか」という自問に対する二重の回答として、2章の締めくくりにダチョウへと伝えられた。

画像9
画像10

この「絶対に諦めない」というもう一つの信念には、言い換えれば「たとえ叶わぬ未来に対するアプローチだったとしても、自分のした行動は無意味にはならない」という自信の裏付けと、行動原理にも今後繋がっていく。

また、実際に「大きな群れ」を獲得していく4章の過程でも「絶対に諦めない」という意思はドールの行動と指揮を通じて仲間達へと徐々に受け継がれていくこととなる。

画像11

3.試練

続く5章前半ではPIPを取り巻くより凄惨な「輝きを奪われる」という事象を次々と目の当たりにし、その後巨大セルリアンとの邂逅から、撤退を余儀なくされるという、自分の手で輝きを取り戻せなかった事実と向き合うことになる。

画像39

結果、1章で確立した「輝きを奪わせない」と「奪われた輝きは取り戻す」という信念をより強固に、そしてそれこそが調査隊の使命という確固たる思いへと繋がっていく。

「絶対に諦めない」そして「奪われた輝きは取り戻す」という根幹の信念は5章、続く6章の集団戦を通じて仲間達へと意思だけでなく、信頼として行動にも表れていく

6章でツチノコが巨大セルリアンの眼前に落としてしまった歴史書を、ドールの一声から咄嗟にチームの連携で取り戻した際、リカオンから「何故あんな無茶を」と問われた事に、ドールは以下のように答える。

画像14

忘れもしない5章の屈辱から、取り戻せるチャンスが少しでもあるなら、あるいは未然に防げるのならば、そこに大きな意義がある事をリカオンへ伝えている。

ライオンは4章でドールへ「大きな強い群れでも心まで全て同じではない」と群れである強さは完璧にはならない事に釘を刺していたが、群像劇となった6章の集団戦で戦術が機能していたのは、指揮系統を執っていたドールの信念をチームが理解、それに同調して動いていた事が大きいだろう。

画像13
画像15

「人は勲章や一日半ペンスの給金のために命を捨てたりしない。魂を揺さぶる言葉が無くては 」― ナポレオン・ボナパルト

4.現実

7章、内容自体は8章の回想で語られるものに、パークの外ではセルリアンに加えて「アニマルガールの存在も信じられていない」という、アニマルガール達にとって自分達が今生きている事実を否定されているのに等しい現実が突き付けられる。

画像16
画像17

7章終盤はこの理由から、現在秘匿されているセルリウムをグランドオープン達成まで秘匿し続けるのか、それとも手遅れになってしまう前に対策を立てられるようパークの外へ証拠を持ち出すべきか、の2択で調査隊とブラックバック&ボスの対立が続いていく。

ヒトが好きだからこそ、危機を未然に防ぐ為にブラックバックはセルリウムを公表するボスの考えに同意して行動し、同じくヒトが好きだからこそドールはセルリアンに対抗できる自分達の存在が信じられていない状況でセルリウムが持ち出されればグランドオープンという自由と未来が閉ざされる事を危惧し、対立する。

画像18
画像41

当然、これに対してブラックバックは現実的な視点で反論する。

画像40
画像41

セルリアンの根絶という非現実的な理想を戒める意見を、ドールは自身の信念と、調査隊が持つ使命、そして7章までに自分達の大きな群れが成した経験を根拠に、ブラックバックへと反論・・・というより、決意を示す。

画像20

5.理想

ドールが調査隊に抱いていた使命は「輝きを奪わせない」と「奪われた輝きは取り戻す」の2つだ。ここに最終目標として「セルリアンの根絶によるグランドオープンの達成」という自由と、自分達が今この瞬間も生きている存在なのを信じてもらうという、生きる意思を持つ者の意地にも等しい理想を確立させる。

画像21

このドールの理想は、何よりも彼女がヒトを好きであり、プレイヤーである隊長からミライさん、そしてカレンダとも友達になれたからという信頼に基づいて成り立っており、8章ではカレンダとボスがヒトの身勝手さと業をどれだけ説いても、ドールは「ジャパリパークと自分達(アニマルガール)を信じてほしい」という信念を曲げず、最後にボスへ「お友達(けものフレンズ)になりませんか」というメッセージを贈る。

画像22
画像23
画像24


画像40

そのやり取りの直後、ハンターセルの襲撃に遭い、とうとう2章でダチョウが忠告した「避けようのない困難な戦い」へと直面していく。

ハンターセルとの死闘は仲間が次々に輝きを奪われ、ヘリが島の外へ出つつあるサンドスター濃度の薄い状況での撃破は不可能と、コノハ博士はドールへ生きるために撤退を進言するが、ドールは1つの質問を投げかける。

画像25

この確認後、ドールは生ききるために最後まで戦う意思を変えなかった。
ただ彼女は死に場所を探していたわけでも、生き残ることを考えていたわけでもなく、この数々の輝きを奪ったハンターセルを見逃し、島の外へ出してしまうのは、ドールの理想と信念の全てを捨て去る後悔となる事だけを理解していた。

それだけは、絶対にダメだった。

画像29

コノハ博士の言葉から、ドールはこのまま戦いを続ければどういう事になるかを理解した上で、たとえその身が灰塵になろうとも、後悔の無い選択をしたいという信念を貫き、奇しくもそれは7章で迷うハクトウワシへナナが語った「後悔しない事」を体現することとなった。

画像26

6.輪廻

ドールは、ハンターセルとの決戦前夜に6章の回想として、群れの強さを実感すると同時に「自分一人で何かを成し遂げたことがない」不安を抱いていたことをプレイヤーへ語っている。

画像31
画像30

そして今まさに、自分一人だけで為すべき時が来た瞬間、ドールはこれまでに刻まれた数々の記憶を想起させる。

1章で得た輝きを奪わせない、奪われたら取り返す信念
2章で得たどんな未来でも絶対に諦めないという意思
3章で得たジャパリパークという世界を守りたいという所懐
4章で得た大きな群れの強さという自信
5章で得た自分の手で輝きを取り戻せなかった屈辱
6章で得たチームワークと自分単体の未熟さの自覚
7章で得た調査隊と自分が目指す未来の理想
8章で得た友達

これまでの生き様全てが、一つの因果へと収束していく。

画像32

やがて一つの因果は、その意志を始まりの1章での想いへと回帰させ、
彼女に起源の信念を思い起こさせる

画像32

故に・・・


画像32




画像33




画像34




画像35




画像36













画像37


この因果と、幾度となく繰り返されたセリフから想起させる、
ドールという子の生き様を感じずには、いられない。

私達は、彼女が描いた理想と自由を見られるだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?