いまやまさんのおはなし後編
歩きながら急に言われた瞬間、すぐにわかった。
楽しいことは長くは続かない
ポンコツはいつもそう思って生きてきた。
と言ったが、いまやまさんは言った。
ポンコツはこういう時、本当にショックだと取り繕って笑ってしまったりするが、この時だけは
今山さんはずっと困った顔をしてポンコツに色々説明をしていたが、分かれ道ではやはり
と笑って言った。
今山さんから、花鳥風月の話をしてもらった事がある。
歳を重ねるうちに、
花が綺麗
鳥が可愛い
風が気持ちいい
月が綺麗
って感じられるようになります。ポンコツさんにも少しずつわかると思います。
ポンコツは
犬が可愛い
いまやまさんがだいすき
くらいしか習得していなかった。
今山さんは、大好きな京都でこれからは花鳥風月を感じたい、と言った。
まだ綺麗なあのマンションを売りに出すと言う。だけどなかなか買い手が見つからなかった。
「まあ、なんとかなります!京都でも働きます!」
と言って、驚くほど前向きだった。
何をするにも臆病で、人間不信で、ポンコツなポンコツには、今山さんが眩しかった。
ポンコツもこんな風に歳を重ねたい。
そう思った。
職場に、引越しの話をするとみんな本当に悲しんだ。そして今山さんが
「最後に皆さんと公園に行きたいです。」
職場から少しあるが、大きな公園で
「あの滑り台を一度滑ってみたかったんです。」
と言った。皆んなは冗談なのか本気なのかわからないまま、とにかく笑った。
そして仕事終わりに
夕暮れにおばさん達が、ぎゃーぎゃー言いながら子ども達に紛れ、滑り台をした。
尻が火傷しそうだった。
ダンボール敷くんだよ、とそこにいた子に教わった。
今山さんはとても楽しそうだった。
そしてお引越しの1週間前くらいにマンションの買い手が見つかった。
最後の一緒の勤務日。
いつもポンコツは歩きだが、今山さんに合わせて自転車で出勤した。
雨の日も風の日も長年自転車通勤の今山さんは、この日だけ歩きだった。
「今山さんと自転車で帰りたくて!」
「ポンコツさんと歩いて帰りたくて!」
とお互いに言って笑った。
その日、今山さんはいつも通り保育をした。
そして結局、ポンコツは自転車を押し、歩きながら2人で帰った。
一緒に見上げた桜が満開だった。
今山さんは京都でまた保育をしている。
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