「ルワイビダ」の時代
イスラムの歴史に学ぶシリーズ(No.002)
預言者(かれの上に平安あれ)は言った。「人々はやがて裏切りの歳月を迎えるだろう。その時、嘘つきは信用され、信用されている者が嘘をつく。背任者は信用され、金庫番は背任する。その時代は『ルワイビダ』が治める。」『ルワイビダ』とは何かと問われ、預言者(彼の上に平安あれ)は、「公の事に疎い人のことである」と述べた。(真正集)
嘘つきが信用され、信頼されるべき人が嘘をつく時代
ここに引用したのは、サウジアラビアの政治の現状について調べていたときに出くわした、驚くべきハディース(預言者の言行録)です。ハディースとは、預言者ムハンマドが確かにそう言った、そのように行動した、という「史実」を後世の信徒が、膨大な言い伝えの中から、確かに信頼できる話だけを厳選して集大成したものです。ムハンマドは、時々憑かれたような状態になり、アッラーの言葉がそのまま口をついて出たと言われます。その言葉は「聖クルアーン」として纏められています。他方、こちらは人間ムハンマドの生の声です。イスラム法においては聖クルアーンに次ぐ重要性を持つ法源とされ、また、イスラム教徒の行動指針として日常的に引用されるものです。
この「ルワイビダ」のハディースを引用した記者は、現在のサウジアラビアのムハンマド皇太子をそれに準え、王国が、まさに先祖である預言者の予言したままに混乱の時代を迎えている、と主張しました。その一方で筆者はこの記事を読み、「ルワイビダ」について調べる中で、その描写があまりにも現在の我が国の首相と、政治社会状況に酷似していることに驚いたのです。
「ルワイビダ」の性格
預言者ムハンマドは、「ルワイビダ」とは「公の事に疎い人」だと言いました。ここで「疎い」と訳したتافه という形容動名詞の意味は、要するに、物事を知らないプリミティブな人といった意味ですが、預言者が「ルワイビダ」について語ったハディースは上記ひとつだけではなく、まとめると、「ルワイビダ」とはおよそ次のような人である、と信頼できるアラビア語情報サイトが次のように教えています。
1. ルワイビダは、自らの宗教(社会と読み替えて可)について無知であり、法的判断をすることもできない。
2.ルワイビダは、彼の国と宗教(社会と読み替えて可)を大切にすると強調し、真実と正義を希求していると主張するが、実際には、その反対である。
3.ルワイビダは、自分の欲しいもの、欲望を満たすことに熱心で、国民を顧みない。
4.ルワイビダは、知識と強い信仰心があると主張し、自らの腐敗と部下の腐敗から抜け出す道を必死に求めるが、真実に目をつぶり虚構を尊重する。
預言者ムハンマドは、西暦570年頃の生まれで、聖徳太子(574年生まれ)とはほぼ同時代の人です。人間のつくる社会の性質は、時代を経ても、国を違えても変わらないのか、それとも神の使徒としてアッラーに選ばれるような人の洞察力は元々鋭いのか、どういうことかはわかりませんが、今の日本の政治状況をピッタリと言い当てているように思えます。驚きを禁じ得ません。
出典:
https://mawdoo3.com/
写真は本文と関係ありません。(香川県さぬき市津田町。琴林公園の根上り松)
イスラムの歴史に学ぶシリーズ
エリコ通信社は、1994年に設立された発展途上の民間シンクタンクです。業務上、アラブ・イスラム世界の知識人の言説を読んでおりますと、しばしば、人間社会に潜む真実に対する深い洞察に触れ、感動します。このシリーズでは、そんなイスラムの叡智について、気づいたことを書き残していきたいと思います。
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