ショートショート「悪魔」その2
ノックの音が。
「おっ、お客さんかな?」
ここはビジネス街のとあるレンタルオフィス。
起業を志して、株式会社を名乗ったものの
事務所にお金をかける余裕も無く、
1人用のレンタルオフィスを借りている。
まあ「株式会社」といっても役員は親戚ばかりで
形だけなのだが。
「いらっしゃいませ、どういったご用件で?」
「実はわたくし悪魔なんですが、
あなたの3つのお願いを叶えようと寄せて頂きました」
うちの会社は「なんでも屋」なので、仕事の内容はさまざま。
「引越しの手伝い」「いなくなった猫さがし」、
最近は「代理の親戚」とか「代理の恋人」まで、
臨時で役割を演じることもある。
なので、こちらが「願い事を叶える」立場なのだが、
「3つの願い事を叶える」というとは。
これはひょっとして同業者のいやがらせ?
まあいい、とりあえず話を聞いてみて
それで決めればいいか。
「なるほどなるほど、あなたが悪魔さんですか
うわさどうりの方のようで」
この場合、悪いうわさにしたものかいいうわさにしたものか
判断に迷うので、そのへんはぼかしている。
悪魔なら「悪いうわさ」のほうがよろこびそうだけど、
ひょっとして逆の場合もある。
「とりあえず、お座りください」
部屋にまねき、話を聞き始める。
「報酬は死亡後、魂をいただくということで
願い事を3つまで叶えさせていただきます」
わたしは宗教とは縁が無く、
実は「神」も「仏」も信じてはいない。
ましてや「悪魔」や「天国」や「地獄」などは
論外である。
死亡したらそれまでで、「魂」の存在も信じてはいない。
信じていないものを、報酬にするのは気が引けるが
損はなさそうだ。
「わかりました。では1つ目のお願いを叶えてください」
「おっと、決断が早いですね、さすが社長さん」
「うちの社員になってください」
「了解しました。」
5年後、悪魔はうちの社員になって
なんでも願い事を叶えている
ただし、万一ということがあるので
2つまでということで。
このうわさが、いい広告になって
いまでは大企業になっていた。
友人に「1つ目のお願いを大企業にしてくれ」といえばいいのに
といわれることもあるが、
うちの会社の業務は「なんでも屋」
悪魔をそのまま返して、ほかで営業されると
商売あがったりではないか。
私の経営者としての判断はまちがってはいないという自信がある。
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