見出し画像

絶滅動物の復活はできるのか、そしてやるべきなのか(前編)

 皆さん、こんにちは。JAAS広報・アウトリーチWGの中西です。

 私がバイオテクノロジーに興味を持つきっかけの一つとなったのが「ジュラシック・パーク」なのですが、その後継である「ジュラシック・ワールド」シリーズも昨年で終わってしまい、恐竜ファンとしては寂しい限りです。

 ところで皆さんは、シリーズの原点とも言える「ジュラシック・パーク」の映画において、パークの創設者であるジョン・ハモンドとパークに批判的な数学者のイアン・マルコムの間で以下のような論争が繰り広げられるシーンがあったのをご存知でしょうか?

ハモンド「コンドルはどうだ? 儂が復活させたのがコンドルだったとしても、君は同じように文句を言ったか?」

マルコム「コンドルが絶滅寸前なのは人間による乱獲や環境破壊のせいだ。だが恐竜達は違う。誰のせいでもなく、自然の摂理で絶滅したんだ」

 繰り返し見た映画とはいえ、最後に見たのは何年も前なので台詞を一字一句覚えているわけではないのですが、意味合いとしてはだいたいこんな感じで合っていたはずです。

 この問答で私が興味深いと感じたのは、シリーズを通してバイオテクノロジーによる恐竜の復活に否定的な立場を貫いているマルコムが、人間のせいで絶滅した動物については必ずしもバイオテクノロジーによる復活を否定してはいないという点です。

 例えばの話、マルコムは「今生き残っている個体を人工繁殖で増やすだけならともかく、バイオテクノロジーを使って復活させるなんて手段を使うのはコンドルだろうと何だろうと駄目だ」と主張することもできたと思うのですが、そうは言わなかったわけです。

 そして「ジュラシック・パーク」から約30年の時を経た現代、〝人間のせいで絶滅した動物※1)〟をバイオテクノロジーを使って復活させようという研究は実際に進められています。
 それだけでもまあまあインパクトのある話ですが、更に驚くべきことに、復活させた絶滅動物は単に動物園のようなところで展示するのではなく、最終的には野生化させる計画だというのです。

 復活計画の対象となっている動物には、リョコウバトやフクロオオカミ(別名タスマニアタイガー)、ドードー、ニューイングランドソウゲンライチョウなどがありますが、中でも特に話題性が高いのがハーバード大学のジョージ・チャーチのチームによるケナガマンモスの復活計画です。

 重要なのは、いったい何のためにケナガマンモスを復活させ、しかも野生にかえそうとしているのかという点ですが、まずはその前に、どのようにしてケナガマンモスを復活させようとしているのかについて解説したいと思います。


 必要なのは、ケナガマンモスのゲノムの情報、現在生きている生物の中では最もケナガマンモスに近い動物であるアジアゾウの生きている細胞、そしてゲノム編集技術です(この3つさえあればできるというわけではありませんが、話をシンプルにするためにここではこの3つに絞ります)。

 まずは、ケナガマンモスとアジアゾウのゲノムを比較します。
 近い種類の動物なので、ケナガマンモスとアジアゾウのゲノムには共通している部分も多いのですが、近いとはいっても違う種類の動物なのでやはり異なる部分があります。

 この異なる部分のうち、「ケナガマンモスらしさ(例えば、長い毛など)」を生み出すのに大きな影響力がある部分を選び出します。そして、アジアゾウの生きている細胞内にあるゲノムの対応する部分を、ゲノム編集技術によって書き換えます。

 図に表すと、下のような感じですね。

 そしてこのゲノム編集された細胞からゲノムが入っている核を取り出してアジアゾウの卵細胞に移植するか、もしくはゲノム編集された細胞自体を生殖細胞へと変化させると、そこからケナガマンモスらしい特徴(長い毛など)を持ったゾウを生み出せるというわけです。
 
 さて、上の図を見て、「おや、図中で水色で表されている部分はアジアゾウのままなのでは? これって本当にマンモスと言えるの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 はい、まさにその通りです。

 先ほど、「ケナガマンモスを生み出せる」ではなく「ケナガマンモスらしい特徴(長い毛など)を持ったゾウを生み出せる」と書きましたが、この方法で生み出せるのはあくまでも「ケナガマンモスっぽいゾウ」であって、ケナガマンモスそのものではないのです※2)。

 ちなみに、他の絶滅種の復活についても基本的には同じで、リョコウバトの場合はオビオバト、ドードーの場合はミノバトの細胞をそれぞれゲノム編集し、絶滅種っぽい特徴を持たせるという計画です。

 ここまでの話で、「いや、でも本物の絶滅種ですらない『絶滅種っぽい動物』をいったい何のために生み出すの?」と思われた方も多いのではないでしょうか。

 後編では、その点について書きたいと思います。お楽しみに!

(文責:中西秀之)


※1) ケナガマンモスは先史時代の人間による狩猟のせいで絶滅したという説は昔から唱えられていたのですが、最近はこの説を否定する研究も出ています。もっとも、いやそうはいってもやっぱり人間のせいで絶滅が早まったんだよという研究もそれより少し後に発表されていたりするのですが。

※2) 日本ではケナガマンモスの復活というと、2019年に近畿大学が発表した研究で使われている、氷漬けのケナガマンモスの細胞から取り出した核を生きた卵細胞に入れるという手法の方が有名かもしれません。もしこの方法がうまくいけば、その場合はゲノムの全てがちゃんとケナガマンモスと同じになっている動物が生まれることになります(核の外にあるミトコンドリアのDNAについては話が別ですが)。ただ、氷漬けのケナガマンモスの死骸から得られるゲノムのDNAはあちこちで切れてしまっているため、実際にはこの方法でのマンモス復活は難しいと考えられているようです。
 


いいなと思ったら応援しよう!