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2024年ベストトラック30
滑り込め、2024年。
サニーデイ・サービス「Pure Green」
上半期選出。スカッとする爽快感のあるバンドサウンド!『DOKIDOKI』から、クリエイトと瑞々しさのギアが全く下がってなくて最高!ラブソングでありながら「花束が似合うような人生でありたい」という人生観も忍ばせるのも素晴らしい。これは「ぼく」のためでもあるし、「きみ」のためでもあると思う。ラストサビで転調するのはベタ過ぎるかもだけど、最初にここの歌詞が出てきた時よりも気持ちが高まっているのを表しているようでとっても機能している。
NewJeans「Bubble Gum」
上半期選出。今年リリースされた4曲とも素晴らしいのだけど、俺の中ではこの曲が頭二つくらい抜けている。浮遊感のあるバックトラック、左右にパンされたギターのカッティング、「the hustle??」とも思わなくもないフルートの旋律、隙間なく敷き詰められた4人の歌声、夢や幻を眺めていたんじゃないかと思うほど浸ってしまう。泡のようにこんな時間は弾けて消えることは知ってるのに。
岡村和義「サメと人魚」
上半期選出。イントロのストリングスから一瞬で名曲の風格が漂っている。岡村靖幸のビバナミダ以降の新曲に、こういった大らかで情感たっぷりのバラードがなかったのだけど、ここまでのが出てきたのなら、と思う。ハッキリ言って「イケナイコトカイ」や「カルアミルク」にも引けを取らない楽曲に仕上がっている。斉藤和義が弾くギターソロがどこかプリンスめいてるのもイイっすね。
清春「sis」
上半期選出。彼のディスコグラフィでいうと「NITE & DAY」や「slow」につながるようなスイートなミドルチューン。近年、彼のポップセンスはドラマティックなメロディーや、原田真二などを参考にした歌謡のエッセンスが強い楽曲であった。これまでにもない、しかしながらこれまでに磨いてきた武器が遺憾なく発揮されたロックスターによる素晴らしいポップソング。
LEX「この寒い夜だけ」
上半期選出。LEXがラッパーだということは知ってるのだけど、エレキギターの弾き語りを基調とした楽曲。声の加工や、フックでのコーラスなど、従来の弾き語りの楽曲では違和感になるアレンジが非常に現代的に感じる。デジタルな声の加工、揺れの隙間に人間味があふれ出ている。
MONO NO AWARE「同釜」
上半期選出。最初聴いた印象が「Mr.Children『CENTER OF UNIVERSE』だ」だった。マーチを刻むドラムロールと叙情的な歌唱からバンドの姿が見え、ラップパートに移行し、また肉体性を帯びたバンドサウンドに着地するというアクロバティックながら必然を持ったサウンド。歌詞については森達也「いのちの食べかた」的というか、食事を介した人とのつながりもいいが、「こんがりトーストに塗るジャムにも流れる血」「そしていつかシェフが俺たちの腹わたを捌く」といったラインをよくぞ書いた!とシビれた。
YUKI「流星slits」
上半期選出。収録アルバムのタイトルワードが冠されたこの曲は、いわゆる「joy」以降のダンスチューンのイメージに沿った曲。しかし、1:30程に位置されているラップパートが新たな魅力を放つ。元々語感重視したような歌詞も少なくないが、完全にラップ的フロウで歌うとは。新機軸をどんどん試すことで、風穴を自身のキャリアに空けてきたのだな。
cali≠gari「月に吼えるまでもなく(17 vr.)」
上半期選出。彼らのビートロックを基調とした、こういう歌モノに弱すぎる。。近年はこの界隈で星になった偉人が多くいた・・・。それを踏まえられたかのような内容の歌詞もこの2024年に出されるべきもの。しかしそのタイトルが「月に吼えるまでもなく」なんだから、過剰な泣きに溺れないドライさも感じられて、このバランスこそと思うばかり。
Laura day romance「渚で会いましょう」
毎年「この夏の一曲」がある気がするのだが、今年はこの曲がそれにあたる。どこか不穏で人懐こくない歪みを帯びたギターと、ダルそげなボーカルが「たまには外の空気も入れないと」と思わせる十分冷房で冷え切った真夏の正午を思わせる。良い風が吹いても吹かなくてもいい。焼け付いたアスファルトを屋内で思う。
Number_i「INZM(Hyper Band ver.)」
Number_iは年明けの「GOAT」からべらぼうにカッコよかったが、何でもありですなホンマに。この曲まで聞いたらどんな「わからずや」でもわからせられるだろ。さながらイナズマのごとく駆け抜けていくラスト40秒は圧巻。個人的にはPECORIの歌詞の才能がNumber_iを通してバクハツしてるのがたまらん。
THE SPELLBOUND「世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて」
2024年曲名大賞受賞作品其の1。言葉数が以上に多い曲だが、その言葉たちはいわゆるヒップホップ的なライミングではなく早口でメロディに乗せて届けられる。一瞬浮かんではすぐに消えていく情報の羅列、それは一曲を聴き通すと、リスナーの中で「ひとつになっていく」。
Galileo Galilei「SPIN!」
四つ打ちのキックが強調されたダンスチューン。「明らかにクレイジーな世界になる」こんな世の中で君は回り続けられるか。回り続けるための強さを。回転を止めるな。燃えんばかりに回り続けるしかない。いくら苦しくとも「泣きながら回り続けて」いくしかない。
ばってん少女隊「トライじん」
水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミが作るトラックは不思議。最初はスパニッシュギターを基調とした細かなビートで進んでいくが、サビではEDMぽいドロップが用意されてるという。色んなプロデューサーに楽曲提供してもらって、これからまだまだ全国区に活動を広げようとするばってん少女隊の姿こそまさにトライじんていうところだろうか。
トリプルファイヤー「相席屋に行きたい」
トリプルファイヤーのこれまでの楽曲の中でも随一と言っていいキラーチューンではないか。リズムの研究が行き着いて、cero『POLY LIFE MULTI SOUL』に負けない肉体性を獲得している。あらゆることは「相席屋に行きたい」という言葉で矮小化される。全ては大したことではない。
羊文学「Burning」
正直、再生されて5秒で決着はつく。焦げ付くようなジリジリとしたギターサウンド、オーバーグラウンドで鳴らされてるのメチャメチャ面白い。個人的に羊文学はピンとくる曲とこない曲の差が激しいのだけど、このギターサウンドは病みつきになった。
material club「水のロック」
マテリアルクラブがバンド編成になったが、やはりベボベとは一味二味違う聞き心地を提供してくれている。抑揚を抑えたメロディラインではあるものの、カウベルの音やキーボード、ツインギターによる装飾的なフレーズなどが折り重なり、耳をそばだてて聞きたい気持ちにさせられる。
GLAY「Romance Rose」
2024年に出たとは思えない曲。1995年『SPEED POP』に収録の曲だと言われた方が納得するような、「初期ビジュアル系のビートロック」に仕上がっている。サビの「ロマンスローズ」の「マ」で一瞬出てくるファルセット!!このメロディラインなのよ!こういう曲を聴くと、「GLAYも『ビジュアル系』なんだよな」と思い出される。
Beyonce「RIIVERDANCE」
アコースティックギターのリフレインが気持ちいいダンスチューン。「Bounce on that shit, dance(そのリズムに乗って踊って)」というアジテーションの言葉の影に見えるリリック内の二人の関係は非常に複雑。複雑ゆえにシンプルな肉体の呼応が求められるということか。
サザンオールスターズ「ジャンヌ・ダルクによろしく」
なんか元も子もないようなことを言ってしまうと、桑田佳祐のガナリ声が聞けたら、もう拍手してしまうみたいなね、そういう所があるんですけども。リフを主体とした、シンプルなロックンロールナンバーで、サビに出てくる「ここは女神が舞うところ」の「舞(マ゛)」!!!!!この一文字一発の声が持つ記名性よ。
XG「IYKYK」
2024年もK-POPを代表に様々なガールズグループの楽曲がリリースされた。m-floの楽曲をサンプリングして制作されたというだからか、時折フロウがVERBALぽく感じられるところもあって面白い。XGはゴリゴリのヒップホップチューンよりも、こういうスムースなノリの楽曲の方が好きだな。
Dos Monos「HI NO TORI」
超ド級の火力で圧倒してくる名盤『Dos Atomos』の楽曲群の中でも一際熱量の高い一曲ではなかろうか。三人のラップの後にレニー・ハートの生のアナウンスとボカロ音声が続くという、謎の詰め込み具合よ。しかしながら、そこに世代感含め、一種の必然性を感じるのだからたまんねえよな。
RYUTist「春風烈歌」
春という季節は出会いと別れを始めとして、刺々しい激しさを内包した季節である。この12月にRYUTistはその活動を休止した。リスナーが想う「あなたのいる場所」とはメンバーの本拠地である新潟の柳都に他ならない。切ないメロディや、ラスト数秒のギターの残響が引きずる思いをどうしようもなく表している。
UVERworld「Eye's Sentry」
この曲に限らず2024年のUVERworldのリリース作品は非常に充実していた。その嚆矢となったこの曲は、一聴して分かるUVERworld印はそのままに、2022年ごろからこんがらがっていたメロディやサウンドメイクが少しスッキリとしたものになっており、フックとなるフレーズをキャッチーに届けることを達成している。俺がまさにUVERworldで聞きたかったポップソングが鳴らされていた。
Official髭男dism「Same Blue」
藤原聡のボーカルの凄まじさにどうしても耳が向いてしまう。前々からそうではあったけど、彼のボーカルのアクロバティックな側面に面食らうばかり。一方で急ぐようなリズムの食い方はまさに「よそ見する暇もない忙しい世界を走るように恋をしている」その様であって、言葉を音でも十二分に表現している雄弁なバンドだと改めて思わされた。
Mr.Children「in the pocket」
ドラムが基本的に同じパターン(頭打ちというのか?)(ミスチルだと「ラヴ・コネクション」と同じだと思う)のリズムを刻み続けてて「ストイックゥー!」と独り言ちてしまった。バスドラムもそんなに打ってないような?「自由でいる方法なんていくつだってあるって」のボーカルとベースだけにして、ベースにボーカルのメロディをなぞるような弾き方をさせているのにはヤラれたなあと思った。「昨夜掻き鳴らした」でギター歪ませるのは「Brand new planet」の借りをやっと返した感じがした苦笑
Creepy Nuts「オトノケ - Otonoke」
「Bling-Bang-Bang-Born」から2曲続けてジャージークラブ的なリズムパターンの楽曲をリリースしたが、こちらの方が好み。全体の脚韻は「ア(ダンダダン)」で統一され、先述の曲のような分かりやすいフックを設けていないのに、細やかなアルペジオなど微に入り細を穿つ工夫で胸の奥に居着かれてしまった
AIR-CON BOOM BOOM ONESAN「ソー」
2024年の戸川純とかラベリングしたらいけない?このキュートかつ(ふざけた)シアトリカルな歌い回しは唯一無二でしょ。意味がありそで無いナンセンスな歌詞がパンキッシュな音像と噛み合っていて、こんねきワールドと言うしか無い世界を作り出している。
BUCK-TICK「冥王星で死ね」
2024年楽曲名大賞受賞作品其の弐。アフロビートが支配する呪術的なサウンドの中で、歌われるは突き抜けたいというその一点のみ。センチメンタルな要素は完全に排され、ビートに飲まれ踊り、上り詰めることを強く要求してくる新体制の怪曲。
Base Ball Bear「tobu_tori_」
『天使だったじゃないか』収録楽曲のような円熟味も出てきた「渋フレッシュ」な側面も良いが、アップテンポのシャープなギターロックバンドとしての側面も彼らの大きな魅力の一つで。プロレスのテーマソングとして作成された本作は鋭いギターカッティングを中心として、強い肉体性を感じる楽曲に仕上がっている。3人体制になってコーラスワークも巧みになってきており、それまで追っかけでしか出てきてなかったコーラスをラストサビではユニゾンで重ねることでもうひと盛り上がりを作ることに成功している。「いつかきっとくる自分の順番も」のラストのフレーズは異世界に感じるリングの上と、それを見る私たちとを上手く繋げ、その「順番」まで自分を鍛えなければと思わせてくれる至高のフレーズ。
サンボマスター「自分自身」
俺はサンボマスターの熱心なリスナーではないけど、彼らの楽曲にヒップホップのフロウを感じる歌い回しが出てくる印象がなかったのでそういうパートがあるだけで特別感を感じるし、ビビッとキた一曲。そういや「Future Is Yours」辺りから録音が生々しく感じられるのだけど、今作もなるべく最小限のバンドサウンドで構築されている。歌詞に表されていない語りのパートの「膝を抱えるような過去の自分自身、過去ではなくその自分自身にアイラブユーと言えるのは強く、美しい」という言葉こそ、本当に美しいし、この美しさを長く保ち続けるのスゴイよなあ。