マガジンのカバー画像

『金の鳥   銀の鳥』

28
現在非公開中のSF作品スピンオフ。 《公安特殊部隊》所属軍人カシム・ザイアッドの本編後日譚。単品でお楽しみいただけます。
運営しているクリエイター

記事一覧

『金の鳥 銀の鳥』

『金の鳥 銀の鳥』

【作品紹介】

 今作品は、未来を舞台にしたヒロイックSFアクション『セレスト・ブルー~風の吹く大地(ほし)~』のスピンオフとなります。

 現在、本編のほうは諸事情により公開しておりませんが、本作のみでもある程度お楽しみいただける内容に仕上がっているかと思います。

 noteデビューの記念として、ひとまず連載をスタートさせてみたいと思いますので、お付き合いいただけましたら幸いです。

~*~*

もっとみる
『金の鳥 銀の鳥』 目次

『金の鳥 銀の鳥』 目次

 【作品紹介】

   プロローグ

   第1章  (1) (2) (3)

   第2章  (1) (2) (3)

   第3章  (1) (2) (3)

   第4章  (1) (2) (3) (4)

   第5章  (1) (2) (3)

   第6章  (1) (2)

   第7章  (1) (2)

   第8章  (1) (2) (3)

   エピローグ

   あとがき

プロローグ

プロローグ

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

   金の小鳥が見る夢は 昨夜(ゆうべ)の空に光る星
   お月さま唄う銀の夜 やさしい眠りにつけるよに
   夜空の星をあげましょう

   銀の小鳥が見る夢は 明日の野に咲く紅い花
   お日さま微笑む金の朝 大空遙か舞えるよに
   野辺のお花をあげましょう

   金の鳥唄うよ 銀の鳥舞うよ
   明日に見る夢 宵の唄
   そっとゆりかご揺らしましょう

もっとみる
第1章(1)

第1章(1)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

 室内の空調設備は、設定数値と寸分の狂いもない完璧さで正常に作動している。にもかかわらず、眼前の人物は、先程からひっきりなしに噴き出す大量の汗を忙しない動きでしきりに拭っては、卑屈と阿諛(あゆ)を配合した無意味な愛想笑いを幅広の顔に張りつかせていた。ハンカチでこすりすぎた額や首筋は、すでにうっすらと赤くなっている。

 笑い疲れで顔の筋肉が痙攣しはじめたそのさまは

もっとみる
第1章(2)

第1章(2)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

 長官執務室をあとにし、おもてに出ると、隣室に控えていた秘書官をはじめ、廊下に居並ぶ軍幹部たちが次々に畏まった様子で最敬礼を寄越し、労いの言葉、あるいは退役(たいえき)を惜しむ声をかけてきた。六年軍に在籍して、ただの一度も親(ちか)しく言葉を交わしたこともなければ、おなじ組織に属す同朋とさえ見做されたおぼえのない、『お偉方』ばかりだった。

 司令長官は「出自に関

もっとみる
第1章(3)

第1章(3)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

「ったく、仕事はどうした? 今日は内勤のはずだろが。その場にいるだけで風紀が乱れるような人相の奴らが、雁首そろえてベソベソしてんじゃねえ。鬱陶しぃんだよ」
「軍曹ォ……」
「俺はもう、軍曹じゃねぇよ」
「中将ォ」
「隊長ォ」
「だから、そーゆーことじゃねぇんだよ! 俺はもう軍の人間じゃねぇんだから、おまえらの上官でもなけりゃ隊長でもねえ、っつってんだよ。大体いまの

もっとみる
第2章(1)

第2章(1)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

 七年前、嫡男でもない自分に家督相続の話が持ち上がったとき、俺はそんなのは道理に合わないと、父と祖父をまえに憤りも露わに反駁し、決定の撤回と再考を求めた。真っ正面から正攻法でぶつかっていった時点で、俺もまだ世間を知らない青二才だったわけで、老獪(ろうかい)極まる海千山千のふたりに到底かなうはずもなかったのだが、そのときは自分なりに必死だった。家名を継ぐに相応しい男

もっとみる
第2章(2)

第2章(2)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

「あなた、どなた?」

 唐突にかけられた誰何(すいか)の声には、見知らぬ相手に対する素朴な疑問と、素性をたしかめるための、ごく単純な問いが含まれていた。
 祖父さんの使いでグレンフォード家の本邸を訪ねた折のことである。
 応対に現れた家令とのやりとりのさなかに割り込まれ、なんの気なしに声が降ってきたほうへ目線をやると、玄関ホールの正面奥、二階へとつづく幅広の大理

もっとみる
第2章(3)

第2章(3)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

 グレンフォード財閥創立五〇周年記念式典が盛大に催されたのは、それから数ヶ月後のことである。

 家督継承の話が持ち上がった直後の正式招待であり、拒むことも、しらばっくれることもできずにイヤイヤ出席した式典会場で、俺はイザベラ・グレンフォードと二度目の再会を果たした。
 再会、といっても、最初にシルヴァースタイン家の人間として挨拶を交わした以外は、招待客に取り囲ま

もっとみる
第3章(1)

第3章(1)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

 ひさしぶりに戻った家は、かつて二〇年以上暮らしたはずの場所でありながら、まるで馴染みのない、見ず知らずの他人の邸宅のように、ひどくよそよそしく感じられた。

 ――俺は、本当にこの家で育ったのだったろうか。

 もう二度と戻ることはないと覚悟の末に飛び出した場所だからなのか、正面玄関前の車寄せスペースで車から降り立った瞬間、眼前に聳え立つ、荘重たる構えの屋敷が妙

もっとみる
第3章(2)

第3章(2)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

 わずか五歳で死に別れた実母に関する記憶や思い出は、正直なところ殆ど残っていない。
 ただ、狭く汚いアパートの薄暗い一室で、いつも腹を空かせながらベッドの片隅に布団をかぶって蹲り、いつ帰るともしれない母親の帰りを待っていたような気がする。

 母親の職業は自称女優。

 外見だけはその職業に見合った、恵まれたプロポーションとそれなりの美貌を備えていたようだが――幼

もっとみる
第3章(3)

第3章(3)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

『──伯母は、今日のこの式典には出席しておりません。免疫不全の病を患って、もう二年近くになります』

 前(さき)の戦闘中に偶然再会した従妹からこの事実を聞かされていなければ、俺はいまでも彼女が健やかで、幸せな日々を送っているものと思いこみ、こうして戻ることもなかっただろう。

 屋敷の一階にある南向きの部屋で、彼女はいま、一日の大半を眠って過ごしている。
 中庭

もっとみる
第4章(1)

第4章(1)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

 家を出た俺が軍に入隊したのは、殊更深い意味や尊い志があったからというわけではない。親父がひそかに手配するであろう捜索の手が伸びて足がつくまえに、一刻も早く自分の痕跡を消してしまいたかった、ただそれだけだった。

 司法省の管轄に属す組織でありながら、《公安特殊部隊》は、存在それ自体が国家機密に類する非公式の団体であり、その内情の悉(ことごと)くが闇に包まれていた

もっとみる
第4章(2)

第4章(2)

『金の鳥 銀の鳥』【作品紹介】

 軍に入隊してから日常生活に慣れるまでの日々は、とにかく苦労の連続だった。

 新隊員は規定により《特殊部隊》専用の隊員寮に放りこまれ、そこでいっせいに集団生活をスタートさせる。
 それなりの社会性は自分も身につけてきたつもりでいたが、広くもない部屋に、強制的に割り振られた同期生、三、四人ずつで詰めこまれ、風呂もトイレも共同、食事も寮内か軍の施設内の食堂という、絶

もっとみる