虹のかけら ~短編小説~ 青色と黄色6
店を出ると弦月が出ていて、一ヶ月ほど前までは人を見かけなかった四条通りも、少しずつ人が戻ってきているようだった。表示灯が四つ葉のマークのタクシーがふと通り過ぎていった。わたしたちは手を繋ぎながら歩いた。少し酔いが回っていたので、体がふわふわして温かかった。
(なんてきもちがいいのだろう)
彼の手を握りながら、ただそう感じていた。
彼は上手に口笛を吹きながら歩いている。わたしは口笛を上手く吹けない。昔から上手く吹けない。
家に戻ると、彼はスーツケースにお土産や私物を詰め直し始めた。これは置いていきます、これはもう捨ててもいいです、と選別しながら、ジャムの小瓶やキャンディの袋や穴の空いた靴下を並べていった。わたしもそれを手伝った。
「これ、ミファさんにあげます」
スーツケースをあらかた詰め終えると、彼は一つの小箱をわたしに手渡した。
「これは何?」
小箱の中には、緑色の円錐形の陶器が入っていた。先端にコルクで出来た蓋が付いていて、そのコルクには真鍮でできた細い円柱形の棒がストローのように刺さっている。花を飾るためのものです、と彼は説明した。
「宇宙船みたい」
花が一輪咲いた宇宙船を想像すると可笑しかった。
「ミファさんは、お花が好きですから」
わたしの好きなものは何でも知っている、という言い方だった。あなたが知らないものも、わたしは好きよ、と心の中で呟きながら、うん、好きだよ、ありがとう、と返した。
その夜、いつものように一緒に湯船に浸かり、いつものように音楽を聴き、いつものように床に就いた。いつものようにわたしは頚椎と背骨の数を数えて、いつものように彼の体に頭を埋めて太陽の匂いをかいだ。忘れないようにずっとかいでいた。わたしの体にこの人の匂いを染み込ませるように、ずっとかぎつづけた。