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虹のかけら ~短編小説~ 青色と黄色5

わたしがこの絵本を好きだった理由。それが大人になった今なら分かる気がした。ネコたちと宇宙ネコは完璧に分かり合えたわけではない。最後までこの宇宙ネコはよく分からない謎の存在として描かれている。そしてもしかしたら、また再び出会うことはないのかもしれない。それでも宇宙ネコは、宇宙ネコのまま、自然にネコたちに良いものを提供したし、ネコたちは宇宙ネコの存在を受け入れて、良い時間をいっしょに過ごしたのだった。それは突然始まり、突然終わった。ネコたちは思い出すだろうか、夜空にきらめく星の花火を。宇宙ネコは思い出すだろうか、いっしょに宇宙船に葉っぱを貼ったことを。

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 「あ、お弁当箱!」

 見ると、絵本の横にそのネコたちがプリントされた弁当箱が売られていた。大、中、小と三つの箱の入れ子になっていて、一番小さな箱には桜色の水玉模様の宇宙ネコがプリントされていた。

 「ぼくはこれと、絵本を買います」

 やっと箱が見つかったのだった。彼はこの弁当箱に一体何を入れるのだろうか。宇宙人が宇宙ネコの弁当箱を手に持っている。わたしが幼い頃に好きだったものの記憶に触れている。

 わたしたちの最後の晩餐は、高級なレストランでも豪奢な料亭でもなかった。予約がなくても気軽に入れるようなフレンチレストランで、それも彼が歩いていて、思いつきで入った場所だった。すでにその前に二軒のレストランで食事をしていた。一軒目のラーメン店では担々麺、二軒目の居酒屋ではビールと焼き鳥、それを彼は完食していた。自分の胃袋を美味しい思い出で満たすように、彼は食べ続けた。さすがにわたしは同じように食べることはできなかったので、飲み物だけを頼みながら大食漢である彼に付き添っていた。一体この細身の体のどこに、食べ物は消えていくのだろうと思いながら、この食べっぷりがもう見られなくなることに少し寂しさを感じていた。

 そのフレンチレストランは四条通りを南に下ったところにあった。中に入ると、ちょうど空いていた階段の下のテーブル席に案内された。パンと赤ワインと京都丹波産の地鶏を使った赤ワイン煮を頼んで、料理を待った。

 「この二ヶ月間、ミファさんとたくさんおいしいものを食べました」

 お通しに出された緑色と黒色のオリーブの実を齧りながら、彼はいった。

 「そうね、おいしい時間だった。おいしいし楽しい時間だった」

 そう言いながら、心はそわそわと落ち着かなかった。明日彼が行ってしまうということが、頭では分かっていても、心と体が納得していないようだった。それほどまでにこの二ヶ月間は、不思議で濃密な時間だった。あるいは隔離されて浮き上がった時間。この先いつまで生きるかは分からないけれど、その最期に向かって直線的に流れていく時間の中で、この時間は包まれて、ふわりと浮かび上がり乱反射しながら、その直線の上をくるくると旋回しているような、そんな時間だった。

 「きみといっしょにいるのが好きだよ」

 きみのことが好きだよ、とはいえなかった。パンをちぎってワインを口にふくむと、仄かに黒胡椒のような香りがして、舌の奥で血のような苦味を感じた。

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