かもめのねごと編集局取材体験記Part.1~子ども食堂とアート体験
ジャパンSDGsアクション推進協議会による高校生記者第一弾
神奈川県立総合高校新聞部が株式会社ファンケルと認定NPO法人あっちこっちを取材した。
-子ども食堂とアート体験-
親子でプロのアーティストとアート体験を楽しみ、食事を楽しむことが出来るイベント
認定NPO法人あっちこっちは2020年から横浜市中区寿町で毎月「子ども食堂とアート体験」を開催している。
そして、今回のイベントでは株式会社ファンケルと認定NPO法人あっちこっち(以下、ファンケル、あっちこっち)がコラボし、ミニコンサートと栄養講座を開催。
私達はそのイベントに参加し、ファンケルとあっちこっちを取材した。
まず株式会社ファンケルに話を伺った。
ファンケルは、「美」と「健康」事業を中心に化粧品や健康食品などを製造しており、サステナビリティ重点テーマの一つに「健やかな暮らし」を掲げている。
その一貫として2023年5月から子ども食堂での食育活動をスタートしたという。ファンケルが、「子ども食堂とアート体験」に参加したのはどのようなきっかけだったのか。
ファンケル「昨年、神奈川県主催の『かながわSDGsパートナーミーティング』に参加させていただきました。その回は子ども食堂が集まる会で、そこであっちこっち様の活動を知りました。神奈川県庁にも、『ファンケルの発芽米や青汁を活用して、子どもたちの栄養課題を解決したい』と相談したところ、あっちこっち様を紹介していただき、講座を共催することになりました。」
ファンケルの“栄養課題を解決したい”という強い思いから始めた活動。
このイベントに参加することによって具体的に何を目指していくのか。
ファンケル「子ども食堂=貧困や、困っている子が行く場所と思われがちですが、地域の交流の場としても活用されていると聞いています。そこにいる子=かわいそうと思われてしまうと、すごく行きづらいと思います。でも、たくさんの子ども達や、いろんな企業も参加することによって、なにか楽しそうな事しているな、とみんなが行きやすい場所になったらいいな、そのためのお手伝いができたらいいなと思っています。」
栄養講座で紹介した発芽米は、ファンケルが「毎日食べる主食から、日本の健康を支えたい。」「生涯にわたる健康づくりを応援したい。」という想いで販売している。
収穫してすぐのお米から籾殻を取り除いたものである玄米を、わずかに発芽させたものが発芽米だそうだ。発芽米にはどんな魅力があるのだろうか。
ファンケル「20年以上前から発芽米事業をしており、通販のお客様はおよそ30万人、通販以外のお客様はおよそ45万人愛用してくださっています。社内では、発芽米は“スーパー米”とも言われており、玄米より栄養価が高いのに、白米に近くすごく食べやすい。そして美味しいということで、『最強だ』みたいなコメントもあります(笑)。」
ここで記者はひとつの疑問を抱いた。
発芽米は玄米より栄養価が高く、白米のように食べやすい、という他の米の欠点を補ったような特性を持っている。
しかし、私の感覚では発芽米より白米の方がより普及しているように感じた。それは何故なのか。
ファンケル「白米が日本の文化だと思っている方や、ごはん=白いお米というイメージもあり、白米が普及しているのかなと思います。
玄米は、稲からもみ殻だけを取り除き、ぬかや胚芽はそのまま残っているので、栄養が豊富に含まれています。
ファンケルの発芽米は、栄養豊富な玄米を、少しだけ発芽させています。発芽することで栄養価がグンと増し、しかも食べやすくなるのです。
プチプチとした触感があるため、普通の白米よりもしっかりと噛むことになり、脳の発達に良いという観点で、保育園や小学校で取り入れていただいています。 」
魅力がたくさんある発芽米。
話を聞けば聞くほど発芽米の可能性を感じた。
最後に、なぜファンケルは子ども食堂で食育事業に力を入れることが大切だと考えるのか、語ってもらった。
ファンケル「子どもの頃からの食育がすごく大切だと思っています。例えば甘いものが好きだから菓子パンばかり食べる、ではなく、体の栄養を考えて、タンパク質は大切だから摂ろうとか、ビタミン・ミネラルのために野菜を摂ろうとか、食を選択できるようになってほしいと思っています。そういう習慣を身につける時期は子どもの時からが良いので、それを子ども食堂で実施していきたいです。」
今回、記者の印象に残ったのは、イベント内での発芽米に関するクイズ大会で、子ども達が積極的に手を挙げる姿。
クイズの内容は大人も知らないような知識が問われていたが、子ども達でも理解できるよう説明に工夫が加えられていた。
他にも子ども達を飽きさせないような工夫が沢山されていた。楽しみながら、知識をつける事ができる。まさにファンケルが目指している、子どもの”正しい食育に基づく習慣作り”を体現していると思った。これからもファンケルの活動に注目していきたい。
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次は、寿町で子ども食堂を主催する、認定NPO法人「あっちこっち」。同代表の理事を務める厚地美香子さんとメンバーの青木佑馬さんに話を伺った。
活動を始めるきっかけは、東日本大震災だった。「アートでまちとひとを元気に」を理念に掲げ、横浜で発足。初めは復興支援が主だった活動も、今はアート体験を軸に幅広い事業を行っている。活動の内容は多岐に渡るが、「アートを通して、心を動かされるような体験をしてほしい」という思いは変わらない。
厚地「私たち『あっちこっち』の歴史の始まりは、東日本大震災でカフェコンサートをしたことでした。2017年から2019年まで被災地で300回ほど開催し、そこでのテーマも食とアートでした。見た目でも楽しめる手作りのお菓子を作りました。心を動かすのにはアートだけでなく食もあると思います。その両方を子供達に、それも親子で体験してほしい、家族で『楽しかったね』『おいしかったね』という思い出をたくさん作ってほしいと思ったのが、子ども食堂を始めるきっかけです。」
厚地「子ども食堂とアート体験を組み合わせた一番の目的は、子供達にいろんな体験をして子供達にいろんな体験をしてもらうことです。体験をしないと、自分に合っているか、合ってないかの判断もできないので、音楽、ダンス、アートなど、たくさんの芸術体験を子供達にしてもらいたいっていう想いがすごくあります。プロが演奏を聴いたり一緒にワークショップをすることで、心が動く機会も多くなると思うのです。ただそれがもし残念な内容の演奏やワークショップだと、その出会いだけで不幸な体験になることもある。だから、印象に残る良い体験が一番初めであってほしいです。」
東北での復興支援から横浜での活動を展開していく過程には、気づきもあったという。
厚地「支援していくうちに、活動していた東日本の地域の人たちの交流も活発になってきました。ふと東北では町ぐるみのコンサートを色々していたけれど、横浜では何もしてないことに気が付きました。それで、2012年から横浜でも活動するようになりました。」
あっちこっちが横浜で手がけている事業は、国際交流事業や学校への出張アート体験など多岐に渡る。実際、学校教育にアートを取り入れた授業プログラムを実施する横浜市の『芸術文化教育プラットフォーム¹』のコーディネーターに選ばれている。金沢区の「こどもホスピス²」で芸術学校も運営している。取材の前にも、オーストラリアからのアーティストと2週間ほど特別支援学校や小学校などを巡ってきたという。
そんなあっちこっちが、子ども食堂を開催する場所として寿町を選んだ理由は何だったのだろうか。
厚地「寿町って、ドヤ街³なんですね。私たちの事務所は同じ中区ですが、寿町はなかなか踏み込めない地域でもありました。2019年に寿町福祉交流センターがリニューアルされた時、オープニングの演奏を頼まれ、このセンターのことを知りました。施設を運営しているNPO理事の方から、『あっちこっちの色んなワークショップの経験でこの施設で何か活動をしてほしい』と言われ、スタートしました。ですが、ここで活動することは難しくて、色んな方に繋いでもらったりしました。準備するのに2年ぐらいかかり、やっとオープンできたのが、コロナ禍の2020年の9月です。」
そんな歴史を経て今の団体の形ができたそうだが、活動の中でのやりがいを感じる経験もたくさんお話しいただいた。
厚地「つい最近のことですが、小学校に行くと子供達がとても目をキラキラさせて、また来てねとか、すっごい楽しかったとか話にきてくれるんです。特にコロナ禍になってから反応が大きいです。やっぱりいろんな体験が少なくなって、誰かとの触れ合いをとても心持ちにしているのかもしれません。この間も小学校から感想を絵に描いたアルバムをいただきました。アンケートでもらうコメントも嬉しいですね。」
取材した日にアーティストとしても子供達の前で演奏されていた青木さんは、演奏者並びに主催者としての異なるやりがいを感じるという。
青木「一番嬉しい瞬間は弾き終わった後の拍手です。この瞬間にピアノ弾けて良かったって思うんですよね。色々考えてこういう曲弾いたら喜ばれるかな?と考えながらプログラムを準備しています。」
それまでリクエストの多かったヴァイオリン奏者を招いての演奏も、取材の日にようやく実現したそう。こうしたアーティストへのオファーも、青木さんの仕事のひとつだ。
青木「色んなアーティストのワークショップを見ながら、自分がオファーしたアーティストのワークショップをみんなが喜んでくれて、『このアーティストにお願いしてよかった』『今度はこういう楽器と組み合わせてみよう』と考えるのがすごく楽しいですね。
ずっと芸術家として生きている中でだけでは味わうことのない、「ごちそうさま」の言葉や、自分がオファーした演奏家のみんなの満足度が本当にうれしく思います。」
この取り組みの課題は労力と時間と費用がかなりかかることだそう。だが、そう話す厚地さんからは、活動への熱い思いが感じられた。
厚地「このプロジェクトはアート体験もあるので費用がかさみます。プロのアーティストもリハーサルをしたり、プログラムをくみたてる準備もあったりするからです。食堂は生きづらさを感じる若者支援をしてる農園団体から買ったり、さらにそこの若者達に食事を作ってもらったりしています。色んな背景がありながらも一緒に良いものを作ろうとしている。そこをうまく調整するのが、私たちのプロデュースする役割だと思っています。」
厚地「ここに来てる子供達の将来が楽しみです。『色んな体験をした子供達が将来どんな風になるんだろう』『この経験が将来どんな肥やしになっていくんだろう』と楽しみにしています。『子供があと何日か数えながら来ました』とこの会を楽しみにしてくれている。そういう内容を提供し続けることが大切ですね。」
記者は子ども食堂というと、「栄養のある食事を提供する場」だと思っていた。だが同時に、人にとって最も必要な、受け入れてもらえるという安心感や人との繋がり、芸術体験など、心の栄養を提供する場だと分かった。イベント開始前の自由時間、早めに来た親子がヴァイオリンを触りながら楽しむ様子があった。ひょんなことがきっかけで、ヴァイオリンを習い始めたり音楽の道に進んだりするのかな、と考え、改めてあっちこっちの活動に感銘を受けた。この記事が、読者にとってあっちこっちの活動の魅力を知るきっかけになることを願う。
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1.横浜市芸術文化教育プラットフォームは、横浜市の子供達にアートを取り入れた授業プログラムを提供する取り組み。NPO法人や横浜市教育委員会が運営している。
2.金沢区の子どもホスピスは、病院に併設していないホスピスとしては、全国で2ヵ所目となる。難病の子どもやその家族の居場所づくりを目的としている。
3.ドヤ街とは、日雇い労働者が宿泊する簡易宿舎の集中している街区のこと。