【SDGs映画紹介】遠い世界を身近に引き戻してくれる 『ラジオ・コバニ』
「10年後の未来をつくるノート」編集部が、さまざまな視点からおうち時間をSDGsに触れる時間にするためのアイデアをご提案をしていく「おうちでSDGs」。今回は、SDGsを目指す意味を問い直すような「映画」をご紹介します。
推薦者は、10年後の未来を作るトークでお話いただいた、映像クリエイターでWORLD FESTIVAL Inc.の近藤さん。エンターテイメントの専門家目線でSDGsを身近に感じられる映画をご紹介いただきます。
「ラジオ・コバニ」
作品情報
2016年製作/シリア/作品時間69分/12歳未満の年少者は保護者指導の元による鑑賞
監督・脚本:ラベー・ドスキー
出演:ディロバン・キコ
撮影:ニーナ・ボドゥー、レベー・ドスキー
音声:タコ・ドライフォウト
編集:クサンダー・ネイストン
音楽:ユホ・ヌルメラ
サウンドデザイン:タコ・ドライフォウト
製作:ジョス・デ・パター
内戦真っ只中から復興の兆しが見えるまでのコバ二で何が起こっていたのか、ひとりの女子大生がラジオを通して地域のみんな、そして未来のわが子へメッセージを届けます。
2017年イスマイリア国際ドキュメンタリー映画祭最優秀ドキュメンタリー賞受賞
2017年ティラナ国際映画祭ドキュメンタリー部門最優秀長闘ヨーロッパ作品賞受賞
2017年イスタンプール・ドキュメンタリー・デイズ際批評家連盟賞受賞
2017年ドホーク国際映画祭クルド・ドキュメンタリー部門最優秀作品賞受賞
2017年ルゲン国際映画祭チインョン作品シグ・カン
2017年オランダ映画祭長細ドキュメンタリー部門ノミネート
2017年フロントドック国際ドキュメンタリー映画祭観客賞受賞
2017年カメライメージ映画祭ドキュメンタリー部門最優秀作品賞受賞
遠い国の出来事ではない。日常を扱うからこその共感ができる映画
中東、戦争、テロリスト。こんな単語が並ぶと、私たち日本人は、遠い国の関係ない話と思い、偏見やレッテルを貼ってしまいますが、この映画を見ると、遠い世界ではなく、私たち日本人の日常にも共通するところがたくさんあると実感します。ぜひ多くの人に見てもらい、自分の暮らしとの共通点を探してほしいと思い、ご紹介します。
映画の舞台は、中東のシリア。イスラム国(IS)の占領下となり、内戦が続き瓦礫と化してしまった故郷「コバニ」に戻ってきた1人の女性が、同じように生き残り、戻ってきた人々に未来への希望を与えようと、故郷の復興を想って作ったラジオ番組を軸に構成されています。
シリア、内戦、空爆、テロリスト、、、私たち日本人としては、かつてニュースで聞いたことはあるものの、正直中々身近に感じにくい内容ばかり。できれば聞きたくない、見たくない悲惨な現実がその背景にはたくさんあります。遠い国の、一見怖い、知らない、関係ない、ある街の出来事と思ってしまっているのです。
ですが、本作は、20才の女子大学生の人生を通して描くことで、多くの人生や日常を捉えながらも、私たち日本人ともたくさん共通する現地の「幸せの形」を教えてくれます。また、ラジオ番組にゲスト出演する様々な立場の人々との出会いと会話を通して、現地での内戦やその後について、そして一人一人の個人としての本当の気持ちや想いを知ることができます。
この映画は、コバニが内戦から立ち上がり復興していく3年間の様子を追いかけたものですが、どの国も、宗教も、人も、みんな願うことは対して変わらないし、日常にある「当たり前」が何よりの幸せだと改めて教えてくれます。そんな「当たり前」を奪われてしまった彼女たちにとっては、尚更そんな日常の一つ一つが輝いて感じられるのです。
映画冒頭では少々目を覆いたくなるような、信じがたい、センセーショナルなシーンもありますが、現実をしっかり映しており、内戦の怖さや悲しさを覗くことができます。主人公の女性が「わが子へ」と、将来自分がもつであろう子供、そしてこの街にこれから生まれてくるであろう全ての子供達に向けたメッセージを綴りながら「戦争に勝者はいない」と、この国や人々への願いを伝えています。
内戦や政治的な話に偏りすぎず、あくまでそこにいる一人一人の気持ちや想いに寄り添う優しさがあるこの映画。見ると、現地の魅力や可能性と共に、その背景にある様々な複雑な問題を共感とともに感じます。SDGsの裏側にある複雑に絡み合った様々な問題や存在とはなにか、そこにいる一人一人の気持ちがどのような希望へと繋がるのか。そんな、どんな環境であっても、私たちの人生にとって大切なことを、ポジティブで素直な形で届けてくれているのです。
遠い国の話、自分とは関係ないと思ってしまったら、問題に取り組むことはなかなかできません。シリアの日常から自分たちとの共通点を見いだせたように、様々な人と共感して、同じ目線に立つことがSDGs達成の一歩かもしれません。