見出し画像

占い師が観た膝枕 2 〜踊る膝枕編〜

※こちらは、脚本家 今井雅子さんが書いた【膝枕】のストーリーから生まれた二次創作ストーリーです。

◆占い師が観た膝枕season1はこちら💁‍♀️◆

season2に突入してから間が空いてしまいましたが(汗)clubhouseで読んでくださる皆さまの朗読を聴きながら、また、閃いてしまいました!

河崎卓也さん作の「当直医が見た膝枕」に通ずる話しとなっております。許可してくださった河崎さん。本当にありがとうございます!

その他、占い師が観た膝枕〜熱量7割の男〜に出てくる登場人物が出てきます。
ぜひ!一緒にお楽しみください。

…いや、なんやかんや、私が一番楽しんでます。はい(笑)

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️

できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

サトウ純子 作 「占い師が観た膝枕 2 〜踊る膝枕編〜」


秋だというのに、通路が熱と湿気を帯び、歩きながら空気で溺れそうになる午後2時。普段、仕事関係の靴音が多いこの道も、週末は聞こえてくる足音が全然違う。

占い師は、通り過ぎる観光客らしい、弾む声に耳を傾けながら、頭上にぶら下がっている丸い照明を見上げた。

(この照明、ネットで見かけた、サツマイモを使ったケーキに似ているな)

気温は高くても、あらゆるところで芋、栗、カボチャの商品を目にする。占い師の気持ちは観光客と同じくらい弾んでいた。

「あ、あのぉ。先生」

ブースの入り口に一人の女性がたたずんでいた。受付の女の子だ。

「先生に占い希望のお客さまがいらしているのですが…」

鑑定表に目を落とし、少し困ったように入り口の方を振り返る。

「大丈夫ですよ?どうぞ」

占い師は首と肩をクルッと回すと、背筋を伸ばして椅子に座り直した。

「それが…そのぉ…お二人?で、お見えになっていて。はい。お一人は男の方なのですが、相談したいのはお連れ様のようでして」

下の階のタップダンス教室のレッスンがはじまったようだ。
窓を開けたままにしているのか、軽快な音楽と共にリズムを刻む音が微かに響いてきた。

「それが…腰から下しかないんです」

「はい?」

「といっても、見た目も質感も生身の膝そっくりで。おまけに…」

受付の女の子は、受付票で口元を隠すと、占い師に向かって小さく囁いた。

「動いているんです」

受付の方から『へぇ!この、黒猫のドアストッパー、可愛いですね!』という、聞きなれた声が響いてきた。

占い師は天井を見上げて「あー」と声を漏らすと「ええ。構いませんよ。どうぞ」と微笑んだ。

「先生!聞いてくださいよー」

向かって右側に座っている男。熱量7割の男だ。

その横で正座の形でスッと座っている、腰から下しかない、オモチャのようなもの。
占い師は、それが「膝枕」だということを知っていた。

ただ、それは見慣れた白い膝の子ではないことは、鍛えられた膝頭を見てわかった。
どっしり構えた膝がなんだか頼もしい。

「この子は、ダンシング膝枕ちゃんです」

男が自慢気に手のひらを左側に流すと、横で膝枕が器用に膝で立ち上がり、カーテシーをするように右の膝頭を後ろに重ねた。

「いやぁ、実は先日。提携している病院に、リサイクルする膝枕を引き取りに行ったのですが、なぜかそこに企画マネージャーが仁王立ちしていまして。いきなり『この子は、あなたがなんとかしてあげなさい!』って」

その、ちょっとした声真似と、ジェスチャーと、聞いた事がある肩書きに、占い師の脳裏には、大きく開いたシャツの胸元が鮮明に浮かんできた。

「なんでも、飲み屋で意気投合したお医者さんに、この子の事を聞いたらしいのです」

……いや、いいんですよ?この子、本当に努力家ですし、実際ダンスも上手いし。と、男は慌ててご機嫌を取るように言葉を繋げた。

横で膝枕が膝を組んで男の方を覗き込んでいる…ように見える。

「ただ、どうしても人前で踊るのは嫌だと言い張りまして」

本当に女心ってわかりません。
男は小さくため息を吐くと、横目でチラッと膝枕の方を見た。膝枕は、下から聞こえて来るタップダンスのリズムに合わせて膝頭をトントン椅子に打ち付けている。

「誰が、そう言ったのですか?」

占い師が首を傾げながらそう聞くと

「この子ですけど?」

と、男はキョトンとした顔で答えた。

「無理矢理話を進めようとすると、ホイコーローのところに連れて行ってくれ!とか言うし。でも、暇さえあれば踊っているし。もおーっ
!いったいどうすればいいんだ!」

男は両手で髪を掻きむしりながら、大袈裟に首を左右に振る。

ホイコーロー?と、占い師は口を開こうとしたが、一瞬天井を仰いで、何もなかったかのようにカードをシャッフルし始めた。

カードが重なる音が、場の空気を一瞬で変える。余計な音が消え、男が唾を飲み込む音が響き渡るほどの静寂が訪れた。

「ここから一枚カードを選んでいただけますか?」

男に言ったつもりだったが、膝枕がピョンと舞うように跳ね上がり、器用にテーブルの上に着地すると、一枚のカードを手前に引き寄せた。

その、流れるような動作の美しさに、思わず占い師は「ブラボー!」と拍手をしたい衝動にかられたが、ぐっと我慢して、そのカードを表に返した。

「育てる、と出ています。例えば…ですが、表に出るのではなく、裏方でダンスを教えたり、演出を手伝ったりするのはいかがでしょう?」

テーブルの上で、膝枕が大きく弾んだ。
同意してくれているらしい。
そのまま片方の膝頭でスッと立ち上がると、踊るようにくるくる回り出した。

「なるほど!指導する側になるって事ですね!それはいい!」

男は慣れた手付きで手帳を取り出すと、開いたページの真ん中に『ミュージカル』と大きく描き、それをペンでグルグルと囲う。

「この子の表現力なら、膝枕ミュージカルもできるかもしれない。声は声優に生でアテレコしてもらって…箱入り娘白雪姫とか。当直医が見た膝枕とか。最高じゃないか!」

ヤバい。部門賞とれるかもしれないぞ!
熱量が突然10オーバーに跳ね上がった男は、「ありがとうございました!」と言いながら膝枕を抱き抱えると、スキップでもしそうな軽い足取りで受付の方に消えて行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?