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占い師が観た膝枕 〜雨とヒサコと卒業編〜

※こちらは、脚本家 今井雅子さんが書いた【膝枕】のストーリーから生まれた二次創作ストーリーです。

◆5/31の膝枕リレー、一周年記念の為に書き上げたものです◆

そして、私が膝枕iterデビューした記念日(6/6)も近いので(笑)、それも兼ねての作品に仕上げました。

その時のデビュー作、占い師が観た膝枕〜ヒサコ編〜を思わせる内容になっております。
今まで出てきた人や膝枕も数名出てきます。
いろいろと妄想を膨らめながらお楽しみいただけたらと思います。

思い起こせば、2021年の6月からスタートしたこのシリーズも今回で12作目。間隔はバラバラではありましたが、ちょうど月イチでUPしていた事になります。よく続いたものです(笑)

今回、ちょうど舞台となっていた鑑定所が6月末をもちまして移転することになりましたので、これを機会にこのシリーズも締めようと思いつきました。長い間楽しんでいただき、本当にありがとうございました!

◆最終回です!◆



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登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️

できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)

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サトウ純子 作 「占い師が観た膝枕 〜雨とヒサコと卒業編〜」


急に雨が降り出した。

雨というのはいろいろなものを運んでくる。
おまけに突然降り始める雨というのは、招かざるものを連れてくることがあるので特に注意が必要だ。

「家を出る時は陽が射していたのに」

占い師は、傘立てと一緒に清め塩を持って鑑定所の扉を開けた。

「あ、せーんせ!」

目の前に一人の女性がたたずんでいた。
その姿が雨の中の景色の一つとして馴染みすぎていて、そのまま扉をぶつけてしまうところだった。

ヒサコだ。

「急に降り出しちゃって」

この突然の雨のせいか、少し身体が濡れている。おまけに、背中に背負っているスーパーの袋がガサガサと音を立てて暴れている。

「よろしければ、中で雨宿りしていかれますか?」

占い師が問いかけると、ヒサコは「でも、オープン前だし…」と、腕時計に目を落とし、雨の様子を伺うように空を見上げた。

「取材を受けていて、今、ちょうど終わったところなのですよ。その方たちも雨宿り中ですので…」

と言いかけて、占い師は首を傾げる。

「ラッキー!じゃ、遠慮なく」と、ヒサコは背負い紐をゆるめながら、背中にかけてあるスーパーの袋を取り外した。

嫌な予感は当たった。

ヒサコが中に入ると共に、一気に場の空気が凍りついた。

「あれ。ヒサコさんじゃないですか!お久しぶりです!」

椅子から立ち上がり、腰を45度に直角に曲げて挨拶をする男。カレーうどんの男だ。横で、女の腰から下しかない、おもちゃのようなモノが膝頭をチョイと上げている。

占い師は、それが「膝枕」であることを知っていた。

そして、ヒサコが抱えている男バージョンの膝枕「マメちゃん」も片方の膝頭をグイと上げる。

「ヒ、ヒサコさん!」

その向かい側に座っていたのは、しょぼくれた男…いや、今はしょぼくれていない男。ヒサコを見るなり、弾かれたように立ち上がった。

雨は更に激しさを増し、前を通りががった自動車やバイクの音が、水音を立てながら通り過ぎていく。

「あ…あら、お元気?」

場を取り繕うようにヒサコが口を開いた。
しょぼくれていない男に言ったようだったが、カレーうどんの男がいそいそと椅子を二つ運び入れながら「はい!元気です!」と答えた。

『なるほど。これが男バージョンの膝枕ですか。スマートフォンにデータを送信する。とても興味深い!』
二人の気不味い空気感をよそに、カレーうどんの男の目は全力でマメちゃんに釘付けだ。

「…な、なによ。急にいなくなった事、怒っているの?」

『へぇー!この子、賢いですね!』
ヒサコの言葉に被せるように、カレーうどんの男の声が響き渡る。マメちゃんがカタカタ動いている横で、箱入り娘膝枕は静かに様子を伺っている。

「い、いや、違うんだ。僕が悪かったんだ」

『うわぁ。早いなぁ。どんなプログラミングがされているんだ?』
カレーうどんの男の興奮は止まらない。
調子に乗ったマメちゃんの『カタカタ』も、より一層激しくなる。

「しーちゃんのことを忘れられなかった僕が悪かった。知らず知らずのうちに君を傷付けていた」

『えっ?僕のSNS、毎日チェックしてる?勉強になるって?嬉しいこと言ってくれるじゃないですか!』
喜びに打ち震えたカレーうどんの男の叫び声が、しょぼくれていない男の言葉を再度かき消す。

「ちょっと黙ってて!」
「少し静かにしてください!」

二人は勢いよくテーブルの方に顔を向ける。そして、キョトンとしたカレーうどんの男と、片方の膝頭を上げたまま止まっているマメちゃんの姿を見て、同時に吹き出した。

店の前を通りがかった奥様方の甲高い話し声が穏やかに店内に響き渡る。

「で。もしかして、今も?」

ヒサコは椅子に腰掛けながら、ゆったりと足を組んだ。

「今は『みんなのしーちゃん』を応援してるんだ」

しょぼくれていない男は、目を輝かせながらペンライトやうちわ、タオルなどをテーブルの上に広げはじめる。

「相変わらずね。そういう馬鹿なところは全然変わってないわねー」

『ま、そこが良かったんだけど』
占い師には、呆れた顔をしているヒサコの目が、そう言っているように見えた。

窓から薄陽が差し込んできた。
どうやら通り雨だったようだ。
雨が止んだ商店街は、閉ざされていたカーテンが開き、人の流れが店を繋ぎはじめる。

「じゃ、そろそろ行きますね!」

ヒサコはカレーうどんの男からマメちゃんを引き離し、背負い紐に乗せた。

「あ、そういえばこのお店、もうすぐ無くなるのでしたよね?」

「はい。この商店街から移転することになりました。イベントなどは引き続きお声がけいただければ伺いますので」

占い師が扉を開けると、雨粒を反射してキラキラと輝いている『鮮やかなピンク色』が目に飛び込んできた。

「そっかぁ。そういえば、初めてここに来た時も、ツツジがたくさん咲いていたなぁ」

「そうですね。ちょうど一年になるかと」

占い師の脳裏に、親指の爪をカチカチと噛みながら瞳を小刻みに左右に動かしていたヒサコの姿が浮かぶ。

「じゃあ、私も卒業ね。いろいろな意味で」

空を見上げて眩しそうに顔をしかめたヒサコの顔を見て、占い師は『もう、大丈夫』そう感じた。

「じゃあ、せんせー。まったねー!」

背負ったマメちゃんを左右に揺らしながら遠ざかる背中に、いつの間にかアゲハチョウがとまっていた。

アゲハチョウはゆったりと飛び上がると、ヒサコの前をフワフワと通り過ぎ…。

そのまま駅の方向に消えて行った。

  — END —


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一年間、拙い私の文章にお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。

こうして、最後まで書き続ける事ができたのも、一緒に盛り上げてくださった原作者の今井先生をはじめ、朗読してくださった皆さまのおかげです。心から感謝しております。

本当に、本当にありがとうございました。




という事で。
無事、最終回を終えたわけですが。





次回から
移転先を舞台にしたシーズン2
がはじまる予定です😎

引き続き、よろしくお願いします(笑)

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