占い師が観た膝枕 〜イベント鑑定編〜
※こちらは、脚本家 今井雅子さんが書いた【膝枕】のストーリーから生まれたスピンオフ占い師が観た膝枕 〜ヒサコ編〜 の二次創作ストーリーです。
◆きぃくんママ作 あの夜からの『膝枕』外伝、藤崎まりさん作のアレンジバージョンに加え、下間都代子さん作「ナレーターが見た膝枕〜運ぶ男編〜」や、やまねたけしさん作「膝枕外伝 薫の受難」を連想させる部分も?
※こちらもどうぞ→占い師が観た膝枕〜熱量7割の男編〜
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出てくる登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️
できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)
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サトウ純子作 「占い師が観た膝枕 〜イベント鑑定編〜」
「私、そろそろ結婚しようかと思っているのですが、この人で本当に良いのか心配で」
あ、メモしてもいいですか?と、目の前の椅子に座っている女性は、中指で眼鏡を押し上げながら占い師に強めの視線を向けた。
今、占い師は、とある会社のイベント鑑定に呼ばれて来ている。
普段、イベント鑑定は、紹介や馴染みのところでないと受けないのだが、今回は違った。
なにしろ、オファーの時から担当者が直接鑑定所に足を運び、出演料やスケジュールなど、事細かく提示してきた。尚且つ、その内容や姿勢に細やかな気遣いを感じ、毎回持ってくる菓子折りも美味しく…。
あ、いや。つまり、熱意に負けたのだ。
「お相手と結婚の話しは出てますか?」
「いえ。まだです」
なぜなら、まだ、付き合っていないので。
女性は息で眼鏡を曇らせながらそう言った。
「私、高学歴で高収入ですし、なんでもできますから、相手にとってメリットでしかないのです」
だから、彼が私を選ばないわけが無い。
女性は当然のように小刻みに頷いた。
「すぐに結婚、で、いいかと」
リケジョ。そんなワードが占い師の頭をよぎる。
そんな彼女の鑑定結果は「流れに乗れば上手くいく」と出た。
「そうですね。ちょっと悩んでいたのですが、決心しました!」
最初から、彼女の中には「辞令が出た現場への異動」か、「会社を辞めて彼と結婚をするか」の、二択しかなかった。
彼女にとっての「流れに乗る」は、どちらだったのだろう。
部屋を出て行く時の、キチッとしたスラックスの膝裏が、心なしか更に真っ直ぐになったように見えた。
「先生。お疲れになっていませんか?少し休憩します?」
愛想の良い女性が声を弾ませながらお茶を運んできた。
「大丈夫です。皆さん、良い方ばかりで」
足元を絨毯用の自動掃除機がクルクル回りながら通り過ぎる。
このフロアは、全体が絨毯仕様になっていて、働いている人はみんな靴を脱いで仕事をしていた。それがまた、ちょっと不思議な光景で、とても興味深い。
「最近、新サービスの提供をはじめまして。それがまた、爆発的に売れているのですよ!」
女性は、お茶を入れながら自社自慢をはじめた。若葉の爽やかな香りが辺りにふんわりと広がっいく。
もらったチラシには「24時間緊急対応【膝枕保険】」と書いてあった。そこには、女の腰から下が正座の形で表現されている、おもちゃのような物が写っている。
その横にある、湯呑みの中では茶柱が立っていた。妙な組み合わせだな、と、占い師は心の中で笑う。
「コールセンターも充実させまして。提携病院もいくつかありますし、交代制で随時対応できるのです。凄いですよね!」
膝枕…か。
実は先ほど、洗面所に行った時に、窓際の方で「こっち!こっち!」と手を振っている女が視界に入った。
見覚えのある膝にハッとしたが、絨毯用の自動掃除機に気を取られたふりをして足早に通り過ぎていた。
占い師は、今度は軽くため息をつく。
「先生も良かったら。他にもいろいろなサービスもありますし…。あ、いえいえ!勧誘ではないですよ!やだぁ。ついつい癖で」
女性は慌てて被りを振り「次の人を呼んできますね!」と言いながら逃げるように部屋を出ていった。
ピンク色のスカートの裾から見える膝裏が、恥ずかしそうに見え隠れしていた。
「しつれいしまーす」
入れ替わりで、先程、窓際で手を振っていた女が、キツそうなシャツのボタンを見せつけながらやってきた。先程までの初々しい空気感が一気に変わる。
「せんせー。昼食はデパ地下の鰻弁当でいいですかー?白桃ゼリーもつけますから!」
タイトスカートから出ている膝の主張が相変わらず激しい。
「ヒサコさん。こちらにお勤めだったのですね!」
占い師は、少し驚いた表情をして、大袈裟にのけ反った。鰻も白桃ゼリーも大好物なので、これくらいのリアクションはつけてあげたい。
「そうなんですぅー。」
フフッと笑いながら、慣れた手つきでスマートフォンの画面に指を滑らす。
ヒサコは前に「膝枕と二股かけられていた」件で、何回か鑑定所に来ていたお客様だ。その後、どうなったのかは聞いていないが、今更こちらから掘り返す気もない。
「そうそう、さっき来てた子。私の後輩なんですけどー。今度異動するんですよ。現場研修期間に入るんですー」
メガネの女性ですか?と、一応反応はするが、そちらの話しも特に興味はない。占い師はお茶を啜りながら、ヒサコの肩越しに扉の方を見た。
「えっと、確か宅配便の人のところ。期間は不具合が起きるまで」
その瞬間。はじめてヒサコと目が合う。
ヒサコはフフッと笑うと『あったあった。特上鰻弁当。ついでに私の分も頼んじゃおー』と言いながら、曲がっていた椅子を奥に押し込み。
「じゃ、せんせー。まったねー!」と、膝頭を弾ませながらその場を去った。
その場に取り残された占い師の脳裏には
「白衣仕様のリケジョ膝枕」
という言葉が茶柱のように浮かんでいた。
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※6/30 徳田さんが「朗読練習場」で朗読してくださいました⭐️ いつもありがとうございます🙏
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