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占い師が観た膝枕2 〜未来を観る膝枕編〜

※こちらは、脚本家 今井雅子先生が書いた【膝枕】

のストーリーから生まれた二次創作ストーリーです。

こちらは、
占い師が観た膝枕 〜ヒサコ編〜
占い師が観た膝枕 〜カレーうどんの男編〜
占い師が観た膝枕 〜春の嵐編〜 
今井雅子作「イジラとクルカ」

を読んでからお読みいただくと、更にお楽しみいただけます✨

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登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️

できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)

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サトウ純子 作 占い師が観た膝枕2〜未来を観る膝枕編〜


絶対今、チゲを食べてきた。

部屋に入ってきた途端に漂ってくる、この、キムチとニンニクが混ざった匂い。

「受付表は自分で書きますよ。誕生日は西暦と和暦、どっちですか?あ、相談内容も細かく書いた方が良いですよね?メールアドレスとかは大丈夫ですか?」

その声が受付に入ってから、随分と時間が過ぎている。

そして、カタカタという音と共に聞こえてくる『裏の石は 左に2回曲がったところにあります』という声。

ブースの入り口手前で「先に先生に聞いてみた方が…」という、少し困ったような声が響いてきたが、遠くから、いつもの受付の子の声が「あ、大丈夫、大丈夫!」と、軽く打ち消した。

雨が降り出したのか、天井の窓枠に反射している風景に、ポツリ、ポツリと傘らしきものが映り出す。

「先生。あの…」

心配そうに覗き込んできた、ふわっとした髪を束ねた女の子。新しく入ったバイトの子だ。

「先生ご指名のお客様なのですが、三名さま…というか、男の方1名と、その…」

バイトの子は、両手で何かを表現しようと試みたが、すぐに諦め、今度は唐突に「膝の方が2名です」と言い放った。

同時に奥から「裏の医師は南に210メートルです」という声。

占い師は天井を見上げて「あー」と声を出すと「ええ。構いませんよ。どうぞ」と微笑んだ。

雨というのはいろいろなものを運んでくる。
おまけに突然降り始める雨というのは、招かざるものを連れてくることがあるので特に注意が必要だ。

「先生。お久しぶりです。へぇー。簡単な個室になってるんですか!これはいい!」

男が「よっこらしょ」と、体を横にして、テーブルの横をすり抜ける。その後からついてきたいつもの受付の子が、手慣れた感じで二つの膝を男の両脇に並べた。

その、女の腰から下しかない、おもちゃのようなモノ。それを膝枕ということを占い師は知っている。

そして、受付表に書いてある名前。
この4文字の漢字のトメ、ハネ、ハライをきっちり守り、書き上げるのに113秒かかった事を占い師は知っていた。この、カレーうどんの男はそれだけ有名な男なのだ。

そして、口の右端に付いている小さなオレンジ色の点。

『今日はチゲか』占い師は目を細めながら、その残り香を思いっきり鼻から吸い込んだ。

「さきほど、そこの韓国料理店の前でワニさんとバッタリ会いまして」

男は突然顎を突き出すと、口を思いっきり横長に引いた。

「わすれもの室の受付に大事なモノを忘れたワニ。急いで取りに行きたいワニが、雨も降り出したし、この子がいると走れないワニよ…と」

男の説明は丁寧に、モノマネ付きだ。

「ナビ子です。ヴァージンスノー膝が自慢のナビ子です」

その横で、膝枕がカタカタと動いている。
もうひとつの膝枕は逆側で男に寄りかかってジッとしている。いつもこの男と一緒にいる箱入り娘膝枕だ。

「ですから私がその間、お預かりした訳ですが、この子にナビゲートされて来たのがこちらで…」

男は突然、キョロキョロと辺りを見渡すと、眉間にシワをよせながら囁いた。

「ヒサコさんが結婚できるか占って欲しいと」

なぜ、ヒサコさん?
占い師は一瞬戸惑ったが、時間も無いので、取り急ぎ「一枚引きで観てみますね」と、カードを混ぜはじめた。

思えば占い師も、ヒサコとは長い付き合いになる。そういえば、もう良い歳なのに、浮いた話は一度も聞いた事がない。

本当に最初の、あの時期だけ。

占い師は小さくため息をつくと、選んだ一枚のカードを表に返し。

そして一瞬、息を呑んだ。

「なんと出ましたか?」

「相手が現れる、です!」

心無しか、占い師の声が上擦っている。

「ナビコの未来もナビゲート。ナビコです」

突然、横の膝枕がカタカタ動きだした。

「ナビコの未来のナビ主さんは、フジコです」

「フジコさん、とは?」
男がメガネを押し上げながら膝枕の方に顔を向ける。

「フジコは、ヒサコの娘です。ヒサコ、フジコ、マサコと続きます。ナビコです」

「ヒサコさん、結婚できるんですね!」

占い師は、力が抜けたように、椅子の背もたれにもたれかかった。

「え?じゃ、僕の未来は?ナビコちゃん!」

「……お答えします。僕さんの来世は『クルカ』と出ました。ナビコです」

「え?僕の来世は来ないってこと?」

「違います。『クルカ』という生き物です。ナビコです」

「ってことは、人間じゃ無い…のか?」

カレーうどんの男は、スマートフォンを取り出すと、その画面に指を滑らせた。

「クレカは使いすぎに注意です。ナビコです」

「え?載ってないけど。強いて言えば、イジラとクルカの物語はあるけど…これ?」

男はスマートフォンの画面を膝枕に向ける。

「『コレカ』ではなく、『クルカ』です。ナビコです」

「この話からすると、僕は小さいクジラって事になるのかな」

「ちなみに、未来の話なので、クルカはアルカ?と言われてもわかりません。ナビコです」

「ヒサコさんにお相手ができる!」と、胸に手を当てて喜びを噛み締めている占い師の前で、静かだったもう一つの膝枕が、笑うように膝頭を震わせている。

「まだ、僕さんは生きているので、来世は来るか?と言われても、対応できません。『知るか!』です。ナビコです」

「あっ!もう約束の時間だ!ありがとうございました!」

カレーうどんの男は、突然立ち上がると、腰を90度に曲げて頭を下げた。

引いたカードに一緒について来たカード。
それは「時間がかかる」という意味。

「時間がかかっても良い。将来、孤独でないことがわかれば…」

一枚のカードを胸元に押しつけたまま、天を仰いでいる占い師の横を、

「なので、クルカを摂るか、煮るか、言われてもわかりません。『知るか!』です。ナビコです」

という、軽快な声が通り過ぎた。

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