占い師が観た膝枕2〜レインボー膝枕編〜
※こちらは、脚本家 今井雅子先生が書いた【膝枕】
のストーリーから生まれた二次創作ストーリーです。
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【私が創作した膝枕外伝や、ゲーム小説を楽しく読んでくださっていたノアさんに捧げる作品です】
今井雅子先生のnote「虹を描くお仕事─ノアさんのおくりもの」を参照
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サトウ純子 作 「占い師が観た膝枕〜マメな膝枕編〜」
サトウ純子 作 「占い師が観た膝枕2〜最強のアイドル膝枕編〜」
サトウ純子 作 「占い師が観た膝枕〜熱量7割の男編〜」
に出てくる登場人物がチラッと出てきます。
他シリーズを読んでからお読みいただくと、更にお楽しみいただけます✨
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登場人物がどう表現されるのかも興味がありますので、気軽に朗読にお使いください☺️
できれば、Twitterなどに読む(読んだ)事をお知らせいただけると嬉しいです❗️(タイミングが合えば聴きたいので💓)
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サトウ純子作「占い師が観た膝枕2〜レインボー膝枕編〜」
まだ3月末だというのに、暑い日だった。
占い師は受付にある自分の札を「休憩中」の場所に移しながら、扉越しに外を覗き見た。
外を歩く人々は、着ていた上着を小脇に抱え、眩しそうに空を仰いでいる。
車から反射する太陽の光と、雑然とした環境音が、外の暑さを更に引き立てているように感じ、占い師は眉間にシワを寄せながら、押しかけたドアノブからそっと手を離した。
「せんせー。すみませーん。休憩中にぃ」
奥のブースから聞き慣れた声が響いてくる。ヒサコだ。
胸元が大きく開いた白のカットソーに、ペパーミントグリーンの巻きスカート姿で、組んだ足をぶらぶらさせて座っている。
横に座っている、男の腰から下しかないオモチャのようなモノ。占い師は、それが膝枕の『マメちゃん』であることを知っていた。占い師の姿を見つけ、右の膝頭をグイッとあげている。
反対側の席には、電子レンジくらいの大きさのダンボール箱。その箱には、船のデザインが施されていた。
そして、テーブルの上には「kneeこまち ファンミーティング」のポスター。
「ポスター掲示の許可を貰えて、ほんっとに嬉しいですぅ!」
マメちゃんも横で膝頭をぱちぱち合わせている。
どうやら喜んでくれているらしい。
しかし、占い師の目線は、船の絵が書いてあるダンボール箱に釘付けだ。
「ああ、これですか?」
ヒサコは、船の絵が書いてあるダンボール箱に手をかけた。
「この子は、頭を預けると虹の夢を見せてくれるレインボー膝枕なんです」
「虹の夢…ですか?」
占い師は腰を浮かして覗きこむ。
「…の、はずだったのですがぁ」
ヒサコがダンボールの蓋をそっとあけると、その中からゆっくりと、女の腰から下が正座した形で座っているおもちゃのようなものを取り出した。確かに膝枕だ。
雲をモチーフとしたスカートから、虹色のタイツを履いた膝頭がふたつ、ちょこんと顔を出している。そして、占い師を見ると、興味深げに、慎重に膝をにじり寄せて来た。
「それがですねー。この子に頭を預けると、虹をバックにワニがダンスをしたり、膝枕がへんてこなナビゲートをするイメージが伝わってきてぇ。かと思えば、アニメが流れはじめたり、野球中継になったりするらしいんですー」
突然、外から小銭をばら撒く音が聞こえ、同時に、若い女の子たちの笑い声が『笑い袋』のように響き渡る。
その、笑い声のリズムに合わせて、占い師のスマートフォンが振動をし始めた。
『つまり、虹より余分な情報が多すぎて落ち着かない!って、クレーム回収されてきたところを、ヒサコさんが奪い取ってきたのです』
前に座っているマメちゃんが、右の膝頭をグイと上げている。マメちゃんからのメッセージだ。
マメちゃんはいつも、いきなり占い師のスマートフォンにメッセージを送ってくる。
クレーム回収と聞いた占い師の脳裏に、やたらに熱く語る男の姿が浮かび、思わず「あー」と声が漏れた。
小銭を拾い終えたのか、女の子たちの笑い声が話し声に変わり、足音と共に遠ざかっていく。
「でぇ、『ホントかぁ?』って、試してみたんですよぉ。ワタシがぁ!そしたら…」
ヒサコは組んでいた足を解き、興奮気味に身を乗り出した。
「マンボー!リンボー!レインボー!って!」
しばらく、沈黙があった。
今度は外で大鍋でも落としたのか、銅鑼のような大きな音が響き渡る。
占い師はハッとしたように顔をあげると、「マンボー、リンボー、レインボー…ですか?」と、話を続けた。
前でレインボー膝枕が「そうそう!」というように、左右の膝頭を交互にテーブルに打ちつけている。
「そうなんですぅ!それと一緒に、虹をバックに膝枕やワニが皆んなで踊る姿が浮かんできて」
「…浮かんできて?」
占い師のスマートフォンが鳴った。
『つまり、それが切っ掛けとなって、この企画が出来上がった、ということです』
マメちゃんが右の膝頭をグイと上げている。
占い師の顔が『はぁ?』となっていたが、ヒサコは気にせずに、そのまま顔を赤くして、レインボー膝枕を抱え上げた。
「やっぱり、アイドルって、応援してくれるファンとの関係って大事じゃないですか。ファンとの架け橋になるイベント。ファンにとっては夢のような話しですし、グッズも売れる!」
『ただいま、ペンライトを製作中です』
マメちゃんが右の膝頭を上げる。
「この子、天才じゃないですかぁ!」
『それほどでも』というように、レインボー膝枕は膝を擦り合わせてモジモジしている。
外から、突然。タタン、タタンと、雨の音が聞こえてきた。
「でぇ、その話を聞いたゆきPDが『欲しい!』というので、これからこの子を届けに行くんです」
お天気雨なのだろうか。雨の音は聞こえるのに、窓からは陽がさしている。
ヒサコは、店の壁にポスターを貼り終えると、勢いよくマメちゃんを背中に背負いはじめた。
「ところで、どうしてこのダンボール箱には、船の絵が書いてあるのですか?」
占い師はヒサコに聞いた。
「ああ、これは『ノアの方舟』をイメージした箱なんですよー」
雨はもう、やんでいた。
「じゃあ、失礼しまぁーす!」
マメちゃんを背中に背負い、船の絵が書いてあるダンボール箱を抱えて店を出たヒサコが、空を見上げてさけんだ。
「あーっ!虹っ!きれーっ!」
飛び跳ねるヒサコの背中を見ながら、
「そういえば、ノアは世界ではじめて虹を見た人と言われていたな」
と、占い師は目を細めた。
占い師には、ポスターに描かれている虹と、空の虹が繋がっているように見えていた。
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