透明な醤油
透明な醤油がどこでも使えるようになったのは割と最近だ。
酸化防止の鮮度キープボトルが発明されて、それを使えば劣化が抑えられてほぼほぼ常に新鮮な醤油が楽しめるようになった。そこから出てくる透明な醤油を見る度に思い出すことがある。
自分は昔、某牛丼チェーンでバイトをしていた。
午前に勤務開始して、ランチの激混み時間帯を走り抜け、その後14時過ぎくらいのひと息つける時間帯に毎日の定常業務があった。
醤油差しの瓶の清掃である。
自分は店長にこの作業の廃止を訴えた。
この作業の目的は、容器の瓶に醤油がこびりつくのを防ぐためとのこと。しかし、1日2日で醤油が瓶にこびりつくとは思えない。もちろん、掃除する意味はなくはないけど毎日毎日やる必要はない。必要ないどころか、この作業はかなりのデメリットがある。
以下に工程を示す。その後追って説明する。
醤油瓶を清掃するために全ての座席から回収する
醤油瓶の中身を全部ボールに移す
空になった瓶とパッキンを食洗機にかける
洗浄済みの容器にボールから醤油を戻す
これが工程なのだけど、醤油を一度ボールに移して戻すという作業をするため、醤油が空気に触れてしまい、酸化してしまう。1回の作業でそこまで変質しないかもしれないが、毎日行われているので無視できないと思う。
この時に醤油が減っていれば注ぎ足して補充するのだけど常に劣化した状態と混ぜられているわけで、この醤油が完全に鮮度が高い状態はないと考えられる。
また、食洗機にかけた瓶に醤油を戻す際に瓶がまだ暖かい状態で醤油を戻すことになるので醤油が加熱されてしまう。これも劣化を引き起こすんじゃないかと思う。すすいだ水も混入する。
また、醤油差しがかなり小さいタイプのもの(七味唐辛子の円柱の容器くらい)で、ボールから醤油差しに醤油を戻すのにじょうごをつかうのだが、瓶の数も多くこの作業が非常にストレスフルだった。
以上の観点から、毎日醤油差しを洗うことは従業員だけでなくお客さんにとってもデメリットが大きく廃止(頻度の減少)した方が良い旨を店長に伝えた。
彼は少しきょとんとしたような驚いた表情を見せた後、まあまあこれはやるもんだから、と言って苦笑しながら自分の提案をスルーした。
この牛丼屋のバイトは自分の初めてのバイトだったので当時は分からなかったのだけど、店長がこの作業行程を作ったわけでもないし、その作業の妥当性を判断しているわけでもなかったのだ。本社から定期的にスーパーバイザーが来て監査が入っていたのも思い出す。彼はこの作業の廃止を決定する立場になかったのだ。
本社的には従業員が暇な時間というのは作りたくないし、醤油差しの清掃を曜日でやったりやらなかったりすると混乱を招きそうなので毎日の定常作業化したかったのだろう。それでも、お客さんが実際に食べる醤油が劣化してまでそうするのはどうなんだろうと今でも思う。透明ではなかった。
自分は、やらない方が皆が幸せになる作業というのは存在することを知った。知った上でそういう作業をすることで自分の人間性が破壊されていくと感じたのを思い出す。
鮮度キープボトルから出る透明な醤油を見ると、誰かの発明が、不幸を生み出す不毛を解消してくれたんだと感じて感謝の気持ちが湧く。そして世の中は少しずつ良くなっていると感じさせてくれる。
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