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読書録/真珠湾攻撃総隊長の回想・淵田美津雄自叙伝

真珠湾攻撃総隊長の回想・淵田美津雄自叙伝
編/解説 中田整一 講談社

 真珠湾攻撃の総隊長だった淵田美津雄氏を回顧するNHKの番組をテレビで観たのは、今から9年前の夏だったと思う。番組名はよく覚えていないが、調べてみ ると「伝道者になった真珠湾攻撃隊長 ~淵田美津雄・心の軌跡~」という番組が、2005年8月15日に放送されていたことがわかった。私が見たのは多分 再放送かなにかだと思うが、これまで、あまり詳しく書かれたものがなかった戦後の淵田氏の伝道について、その軌跡を追って丁寧に取材されていたのが印象的だった。
 この番組の中で紹介されていたのが、淵田氏が晩年書き進めていたという未完の自叙伝である。アメリカ在住のご子息、淵田善彌氏のもとに原稿が残されていたのだ。本書は2007年、眠っていた淵田美津雄氏の遺稿を、解説を交えて編集したものである。

 海軍の航空隊総隊長として真珠湾攻撃を指揮した淵田美津雄中佐(当時)は、その後南雲機動部隊の南方作戦に従事したのち、ミッドウェー海戦で重傷を負い、本土に戻って航空隊の教官となった(本書では、教官になったが教える学生が戦争に行ってしまって誰もいなかったと書き記している)。2年後、連合艦隊航空主 席参謀となり大佐に昇格、捷一号作戦(レイテ沖海戦)の作戦起案などに携わった。終戦後はキリスト教に回心し、伝道師として何度も渡米し、多くの人にキリ ストの福音を伝える働きをし、73歳でその生涯を閉じた。

 本書は「その一日のために」「トラトラトラ」「暗転」「帝国の落日」「占領の名 の下で」そして「回心」の全6部で構成されている。海軍大将を夢見ていた淵田少年が海軍兵学校に入校し、航空機と出会い、真珠湾攻撃の準備と開戦、旧態依 然とした大鑑巨砲主義との内なる戦いを経て敗戦、占領、そして公職追放を経て回心、渡米へと至る人生の歩みを描いたものである。
 編者である中田整一氏は「はじめに」で、本書を「戦後日本へ向けた遺書」と位置づけているが、淵田氏と同じ信仰を持つ私が感じたのは、淵田氏はこの自叙伝を、自分の人生の中に働き導きたもうた神を証しするために書いたのだ、ということである。前半は数々の戦場を渡り歩いた淵田氏の目を通して語られる戦記であり、そこには当事者しか知り得ない様々な証言がちりばめられていて非常に面白いのだが、私にとっては後半の、敗戦前後、神の摂理によって生かされている自分を見出し、やがてイエス・キリストに出会って今度はかつて銃口を向けあったかつての敵を訪ねてアメリカを渡り歩く淵田氏の姿に圧倒的な感動を覚えた。先見の明があり、 文才にめぐまれた氏の文章は明快で、ところどころに添えられたユーモアに、氏の明るい人間性と冷徹に事実を見つめる目が感じられた。

 淵田氏は自叙 伝に「夏は近い」という副題をつけていた。聖書にしるされた終末の預言から引用したもので、第三次世界大戦への警告が込められているのだという。氏が自叙 伝を書き進めていた冷戦時代のまっただ中であった。それが今、ようやく日の目を見て出版されたというところにもまた、神の摂理が働いているように思う。 キャプテン・フチダが「夏は近い」と認めたときよりさらに、時代は終末へと近づいているのである。

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