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DAICHI MIURA ARENA LIVE2024 OVER(2024.04.03 大阪)|超主観的長文ライブレポ

4月3日、三浦大知さんのアリーナ公演を見るために大阪に行った。以前福岡でのファンクラブイベントには行ったけれど、ファン歴も浅い上にガッツリとしたライブのセットリストでパフォーマンスを見るのは初めて…ということを前提にして、あくまで好みがガンガンに反映されまくった主観によるライブレポを書き綴っていこうと思う。

ちなみにちゃんとしたライブレポについては、公式で早川加奈子さんによるとても素晴らしい記事が出ているので、こちらを是非。スタンド席から把握しかねたステージのディテールや、小道具の固有名詞は早川さんの記事を多少参考にさせてもらった(だいちゃーの皆さんは当然、もう既に読んでいると思うけれど)。

(目次も長ぇ〜)

開場前〜会場入り

グッズも購入したかったのでやや早めに会場に到着すると、既に身に纏った人たちが多数いて、否応なくじわじわとテンションがアガる。多少の行列が出来ていたものの、そこまで待つことなくグッズを無事購入(あまり荷物にならないような小物ばかり笑)。
開場まで1時間近く余裕があったので、会場のすぐそこにあったローカルな中華料理店に入ってちょっとビールと餃子でもキメようかと思ったけれど、何とか思いとどまって、周辺を散策してスナップ写真などを撮って時間をツブした。

開場時間から少し経って、場内に入る。席はステージに向かってやや左側のスタンド部分の真ん中あたり。アリーナは割とコンパクトな印象で、思ったよりも舞台を近く感じた。ライブ前の客席の、抑えきれない興奮をちょっと我慢して冷静になろうとしてる独特の空気感が騒めきとともに開場を満たしている。否応なくアガらざるをえない(2回目)。
開演時間を数分過ぎて、間もなくスタートという趣旨の場内アナウンスがされると、ほんの少しだけ控えめの拍手が起こる。ビート感のある会場BGMの音量が上がると、それに合わせて手拍子が鳴り始めた。

束の間、暗転。

歓声が解き放たれると、暗闇の中でエレクトリックな音とバンドサウンドのアンサンブルが響く。どことなく和風な妖しさを感じさせる空間系のギターのメロディは、すぐさまにオカルティックな面を着用して踊るダンサーたちが跋扈しているあのMVを思い起こさせる。そりゃ当然幕開けはこの曲だよな…と思った矢先、声が全てを貫いた。

能動

「動け 動け ただ能動/人生は一度の大勝負」

パフォーマンスそのもののエネルギーと観客の興奮の熱量とが合わさって堰を切ったように放出され、ドカンとブチ上がる。その刹那に比喩でなくマジに気温が2度くらい上がったんじゃねえか、という体感を覚えた。
「能動」『OVER』のジャケをそのまま注ぎ込んで染め上げたような真紅の衣装と赤いライティングは、もともとの音源にも滾っていた熱情を更に数段階ブーストさせて、歌い出しの歌詞2行分17文字だけで『呪術廻戦』の“領域展開”の如く、会場の空間を瞬時に異次元レベルまで押し上げる

テレビやYouTubeで画面越しに何度も観たダンスは、実際に目の前にするとやはりとんでもないエネルギーを放っていて、スタジアム席にも関わらずその振動みたいなものを肌にビリビリをちゃんと感じられる。思わず「おいおい、1曲目で…」と独り言を口にしてしまった(そして、この後何度も独り言を言うことになる)。
余計な音を削ぎ落とした低音とビートが鼓動する、リニアに展開し続けるトラックの上で縦横無尽に跳ね回る大知さんと大知さんの歌声、そしてダンサーたちによる緩急効きまくりでバッキバキの舞踏。からの、「全てを懸けて」の絶唱。

「能動」の3分足らずの時間は、「これから物凄いことが起きます」という開会宣言だった。もうこの時点で既に物凄いことは起こっていたのだけれど。

Backwards

続け様に突入したのは「Backwards」

キャッチーながらも実は複雑かつ大胆な展開を持つこの楽曲は、お馴染みのNao’ymtさんによる作詞作曲だ。パフォーマンスを観て、紛れもなく大知さんのためのオーダーメイドで仕上げられたものなのだなと改めて感じ入った。
Nao’さんのやや抽象的でスケール感のある歌詞は、躍動する大知さんの肉体があってこそ“完成する”のだと。特に「I can’t take it anymore /この場所にはもう未来はない」から始まるサビの一連の詞は、確実に「Pixelated World」に直結している。それに加えて情熱の温度が上がっているし、さらに言えば時の経過に応じて、言葉遣いににじむ焦燥感やこの世界への見限りと反抗に近い感覚は強まっているようにも思える。

この曲ではステージの段差上をセットを大きく使った振り付けを展開していた。実際に見たことはないのだけれど、照明が組み込まれた宝塚の舞台的なイメージの段差だ。
あの中に身を置いて踊るって、とんでもなく技量も要るし、身体感覚も研ぎ澄まされていなければならない(こんなこと言わずもがなだけれど)。それをダンサーたちと事もなげにやった上で、なおかつひたすらに全く声はブレずに歌い続けているのだけれど、これ本当にめちゃくちゃに凄いことなのに簡単そうにやるもんだからマジで参る…。

I’m on Fire

3曲目「I’m on Fire」では、タイトル通りにガンガンにパイロが火を吹き、火柱が会場全体をまばゆく照らした。「右往左往/自由自在/どちらも動きはスムーズに/ああ無我夢中にトランス/どうにも止まらない」

歌詞のアグレッシブさをもう1段階も2段階も割り増しして体現するように、そして何よりエキサイトしてステージを駆け巡り跳ね踊る大知さんとダンサーたちが発光してるんじゃないかというくらい眩しい。
曲中で何度か発される「あーーーーーーーーっっ!」という声が、場内の隅々まで全方位的に放射されて、その振動がまとう情熱の炎で観客全員の心を震わせていた。

冒頭から立て続けに息つく間もなくアガる曲を繰り出し、あったまりきった会場。不意に、超独特で丸く跳ねるようなベースラインが紡がれる。
客席からは「きたぁぁああーーーー」とばかりにバカデカい歓声が沸き上がった。ステージ上部に設置されたモニタには、少しダークな色合いのイメージを背景にして歌詞が映る。

好きなだけ

三浦大知屈指の“危険曲”である。

この曲から大知さんとダンサーたちがせり出した花道に進出しだした。艶やかさと妖しさを兼ね備えた低音の歌唱で会場を包み込み、歌詞のないサビのような、ポップなのに影がある、印象的なメインリフに差し掛かる。
するとフォーメーションを組んで下半身だけ、膝下からの動きメインで作り上げられた、見たことのないとんでもないダンスで花道に踊り出した(スタジアムの上からの角度でしか見られなかったのが惜しまれた…)

その「好きなだけステップ」がメインリフで踊られるたびに大きな歓声が起こっていた。ともすればコミカルにも見えそうなその動きは、この楽曲が鳴り響く中で三浦大知がやるからこそ成立する独自性と創造性を打ち立てている。
官能的、エロい、と散々言われまくっている「好きなだけ」は、強度の高い個性曲が並ぶ『OVER』の中でもとりわけ異質と言ってもいい存在だと思う(俺も初めて聴いた時に紛れもなくエロいと思ったし、そうツイートした笑)。

その妖艶さはもちろんあるのだけれど、一聴して低体温でダークな印象を抱く音像のこの曲は、その実「能動」や「全開」に勝るとも劣らないくらいの熱量が込められていて、聴いていると低温やけどするような感覚に陥る
そこにあるギャップと中毒性にある種のポジティブな“危険性”があり、それゆえに三浦大知ディスコグラフィにおいて新機軸として打ち出された。そしてそのライブ・パフォーマンスでも大知さんは“未知の領域”を存分に味わわせてくれたのだった。

Flavor

楽曲の妖しさと衝撃的なダンスの長い余韻、あのベースラインがまだ脳内で鳴り続けている中で、熱狂状態を中和するように『OVER』と同じ流れで「Flavor」のアーバンな響きが優しく空気を揺らす。

曲の序盤は大知さんが1人でしっとりと歌っていたところにダンサーが合流していき、少し抑えめのミッドなテンポ感でパフォーマンス。一息つくように会場の空気も良い具合に緩む。客席は晴れた日の湖面のように、ゆったりと身体を揺らして音に身を任せている。
とはいえ、曲が進むにつれて歌とダンスの熱は不可抗力的に高まっていき、終盤2ビートに展開する箇所では、やはりガンガンに盛り上がらざるを得ない。

羽衣 〜 綴化

と、水滴のしたたりを思わせるようなイントロの「羽衣」へ。

前曲よりもさらにスローなビートにのせられてゆくファンタジックな言葉が、ステージの佇まいをフィクショナルな次元に誘ってゆく。大知さんは歌い始め、階段セット中央のスタンドマイクで歌唱。ライティングが少し控えめになって足元の照明がメインになり、アッパーな雰囲気の序盤から段々とフェーズが変わっていくのが、楽曲でもビジュアルでも五感で感じられるような演出になっていた。

レイドバックした感じのバンドアレンジが施されていたのも、ライブ感が増幅されていて気持ち良い。楽曲最後の「Hey, is there time left for us to sing until the last chorus?」というリフレインで惜しむように締めて暗転すると、聴き覚えのある、というか聴き覚えしかないアンビエントなSEが鳴った。

「綴化」だ。

暗転したステージに一筋の短い光が走って、灯ったまま浮かぶ。マイクスタンドに照明がついているのかと思いきや、大知さん以外のダンサーたちも点灯した棒を手にして(ライトバーというらしい)、流麗な動きで階段セットを踊り始める。
衣装は真っ白い無垢なものに変わっており、耽美的な語彙が紡がれる歌詞と静謐な和を思わせる旋律、そしてステージに戯れるライトバーの光も相まって、「羽衣」からの流れを受け止めたこの瞬間がこの日で最も幻想的な光景だったように感じて、超シビれた。

この繋ぎは前出のNao’ymtさんの世界観で、『OVER』〜『球体』を橋渡ししたものだ。
こんなにもスムーズに違和感無く、しかもめちゃくちゃにカッコ良く接続するものなのかと瞠目しきりだった。丁寧かつ緻密に構築された演出を目にすると、三浦大知ディスコグラフィで『球体』がいかに特異点となったか、そしてその世界観を大知さんがどれだけ大切にしているのかということが、独演ライブを定期的に配信していることも含めて、肌で分かったような気がした(いや、もちろん全ての楽曲を大事にしてるだろうけれど)。

個人的な話になるけれど、一昨年「飛行船」のパフォーマンスを目撃してブッ飛ばされて、『球体』を最初に聴いてさらにブッ飛ばされて激ハマりした身としては、このアルバムは本当に特別な1枚なので、この流れはちょっと涙目になった。

切なげで儚げなメロディを繊細に歌い上げると、ラスト45秒のパートでやおらダンサーたちのライトバーが大知さんを囲んで多角形に光るスポットを形成する。曲が転調してパワフルでアグレッシブなビートが刻まれると、その光に囲われた中で、大知さんがソロで躍動し、舞踏した。
楽曲も歌唱もダンスも光の演出も、その全てが合わさって会場を丸ごと支配していて、インスタレーション・アートをくらった時のように、表現に飲み込まれるような心地になり、ちょっと放心した。そして、腕時計に目をやって独り言を口にした。「まだ割と前半だよな?」と。

いつしか

拍手が静寂を破って会場を満たしてひと呼吸置くと、メロウでエモーショナルなピアノの旋律が流れる。

直前のパフォーマンスのアーティスティックな“強さ”からのコントラストで、これ以上ないくらいに優しく歌い出したのは「いつしか」

暖色のライトがステージを照らした反射光は、その歌声と同じくらいに優しく客席にじんわりと届き、Bメロからサビにかけて徐々に芯が太くなってゆく大知さんの声に呼応するように輝度が増す。しかし、眩しいわけではなくて優しさと温もりは全く失わない。
「忘れないで/今日のことを/期待どおりの 未来じゃなくても」。サビの部分を、客席に背中を向けて歌っていたのが何だか印象的で、その意味をずっと考えている。

曲を終えて「ありがとうございます」と2度、この日ほぼ初のMCをして、客席からの拍手を噛み締めるように浴びて深々と礼をする大知さん。「いつしか」の余韻を延ばすような穏やかなピアノがBGM的に鳴っている。
アリーナツアーのラストということも踏まえつつ、「ようこそ!」と声を上げると、大きな拍手が湧き起こる。「全てをブツけていければと思いますので、皆さんと一緒に楽しめればと思います」

伝えたいことは全部パフォーマンスにブチ込んでいる、と言わんばかりに余計な情報を削ぎ落としたシンプルな言葉をいくつか話すと、「ド頭からずっと歌って踊ってて、もうそろそろいいかなっていう(笑)。ここからはスローな曲をいくつか」と前置きした。

燦々 〜 Sheep

そして「燦々」へ。

モニタにはMVを思わせる海面のゆらぎや沖縄の植生を思わせる緑色のイメージが浮かび上がっている。初めて大知さんのライブを観た時、沖縄の会場でも歌ったこの曲の導入で「沖縄への思いをたくさん込めました」ということを言っていたことをふと思い出した。

その時から、この曲がちゃんと成長して馴染んで、アリーナ公演のセットリストにガッチリと組み込まれてることをその場で体感として感じたこともあって、良い意味で違った響き方をしていたように思えた(この曲が主題歌として使われた朝ドラの、沖縄を題材にした“先輩”にあたる『ちゅらさん』のkiroro「Best Friend」のピアノフレーズのニュアンスやテイストが、少しばかり「燦々」にも感じられるのか気のせいかな…?)

伸びやかな声で「燦々」を締めると、暗闇の中浮遊感のあるサウンドがゆっくりと会場を満たしていき、少しミステリアスなピアノの単音の旋律。再びのライトバー演出に加えて、花道に突如ベッドが出現した。

ぶぅわんっ、と吸い込まれるようなエフェクト音からすぐに「Sheep」が始まる。

あのファルセットでハイトーンの歌唱は、リリース音源を再現するどころかライブ感が上乗せされまくってこれまたとんでもない表現の新次元に達している。ライトバーを使用していたことが共通していることもあるが、先の「綴化」のパフォーマンスにも通ずるコンテンポラリーな要素がかなり前面に出ている。こちらはよりアンビエントでミニマルなつくりの楽曲なので、その分さらにインスタレーションっぽさが増しているようにも感じた。

この曲も「能動」に続いて、そして「能動」とは全く別のベクトルで、『球体』以降の三浦大知ディスコグラフィの新たなステージを確実に築いたものの1つなのだと、パフォーマンスを目の前にして改めて思った。
ゆったりと進行していくビートにのる小刻みでリズミカルな符割りの歌詞、そこに機敏さとしなやかさを併せ持つ振り付けを踊りながら難なくファルセットで歌っている大知さんが多少発光しているように見えたのは、ライトバー演出だけのせじゃないかもしれない

アウトロは備えるように少し尺を伸ばして、最後の歌詞のフレーズをとても大切に大切に歌い上げた。「眠れなくても、歌えなくても、いつもここにいるから。眠れない夜も、歌えない朝も、いつでもここにいるから。」
(この最後のフレーズ、本当に心の底から好きだわ…)

拍手が止むと、会場は1万人近くの人間がいるとは思えないくらい、水を打ったように静まり返る
大知さんはベッド上に腰掛けたと思うと、涅槃像のようなリラックスしたポーズで少々笑いをとる。ちょっとしたセッティングを終えると、手元の器材を操って電子音でコードが鳴る。

Lullaby

「Lullaby」の弾き語り。

会場ごと、空間ごと、この夜ごと全て包み込むような穏やかさがそのまま音になったような一瞬だった

たっぷりと間をとりながら、子守唄のように、讃美歌のように歌うパフォーマンスは、会場から一切の雑音が消えているからこそ成り立っていた。そこには決して窮屈ではないけれど、でも厳粛さすら感じるような、三浦大知とそのファンでしか作り上げることができない唯一無二の「場」が現出していた

色々なライブを見てきたけれど、あの空間は今思い返しても初めて体感する感覚だったと断言できる。客席からだと大知さんの手元が見えなくて、ベッドを弾いているようにも見えたのが少しコミカルで可愛かった。

曲が終わって、鼻を啜る音が聞こえてしまったので抗えず目をやると、隣の席の女性が号泣していた。照明を反射するその涙もその光景もとても美しくて、なんか俺もちょっと涙ぐんでしまった。

ERROR

メロウな余韻漂う暗闇に響いたのは、鳥の囀りがトラックに織り込まれた「ERROR」

柔らかにビートを取り戻しながら徐々に気持ちをアゲていく繋ぎはめちゃくちゃ最高で、会場での感触が印象付けられてライブ以降はこの曲を口ずさむことが非常に増えた。
音像とMVのイメージそのままに、モニタには木々や水面、緑色を基調にしたイメージが映し出され、大知さんは相も変わらず軽やかに歌い、軽やかに踊り、そして軽やかにステージを駆け巡っている。その無尽蔵さは何なんだマジで…とこの時点でもう感動を超えて呆けていた。

Light Speed 〜 胞子

間髪入れずにギターのヘヴィなリフがザクザクと刻まれて「Light Speed」に突入。

この入りの音を耳にした刹那、「めちゃくちゃロックだなおいっ!!」と、もう何度目になるか分からない歓喜の独り言を口走る。音源で聴いた時にも、この曲は「だいぶロックだなあ」という印象を受けたのだけれど、ライブでこんなにもバンドサウンドを強調してオルタナ・ロック感をブーストしてくるとは思わず、存外にテンションが上がってしまった。

ステージの段状セットに光が流れ、さらに歌詞の「Lightspeed,speed,speed」の部分に合わせて、客席向けのピンライトが上、左、右、と閃光のように走るライティングが、アップテンポでアグレッシブな楽曲を盛り立てて、客席を煽る。

そして会場のだいちゃーたちを文字通りに“射抜く”極め付けのパフォーマンスがここで展開される
大知さんが花道に出てきて、ステージの一部が迫り上がると、やおら手持ちのライトを点灯して客席全てを照らす。照らしまくる。ちゃんと隅々まで皆んなを見てるよ、と言わんばかりに。アリーナ席はもちろん、スタンド席の端から端までの1万人近い観客を全てきっちりと照らしていた。何ならたぶん3回くらい大知ライトビームくらった。声とダンスによるエナジーの発散だけでなく、光で物理的にコミュニケーションするこの演出には、ヤラレざるを得ないのが現状である。

大盛り上がりで曲を終えて拍手が起きると、俄かに唸るような歪んだ音色のギターソロ。

聴いたことあるな、このメロディと思ったら「胞子」だった。

キメの合間合間にドラムの派手なフレーズを挟み込みつつ、バンドサウンドを前面に出したアレンジで曲が展開していく。

Pixelated World 〜 Cry & Fight

激情を体現したような怒涛の音の洪水が引くと「Pixelated World」のイントロが空気を切り裂いた。

このNao’さん繋ぎにはめちゃくちゃ鳥肌が立った上に、思わず「ふぉおお……」というよく分からん感歎の声が漏れまくった。死ぬ程カッコ良いではないか。衣装は白(グレー?)を基調にシルバーの継ぎ接ぎ(=Pixelated)があしらわれたジャケットに変わっている。要所要所で差し込まれる赤と青のライティングが焦燥感や緊張感を増幅して楽曲の世界観を作り上げ、前曲で会場の空気を変えたシリアスさに拍車をかけていた。

ゆっくりと地面を踏み締めて彷徨いながらも進んでいくような四つ打ちのバスドラの存在感もとても印象的だ。その確かな歩調のようなビートの上で、不確かな世界に懸命に抗うような大知さんの歌唱が、真に迫っている。
スピーカーで増幅された音が止むと、ラストはMVと同じように大知さんとダンサーたちがステージを踏み鳴らし、観客が身じろぎひとつせず静まり返った会場に足だけで刻む律動が響き渡った。1つのライブでこの表現を多用するのはあんまり良くないが、こんな光景も観たこと無え。

さらに衝撃的な感動はまだ続いた。拍手が落ち着くと、俄かに無音ダンスが始まり、ステップの音が響き渡る。客席は息づかいの気配はあるものの、静寂を保ったまま。ステージ上の皆の動きがビタッと止まると、大知さんが握りしめていたマイクを置いた。

「全てがぁーー」と歌い出す。アカペラで。踊りながら。アリーナで。

この「Cry & Fight」の導入の会場の緊張感と大知さんの気迫は本当に凄まじくて、一瞬記憶が飛びそうになるくらいのインパクトだった

「なっ、なんじゃこりゃあ…」と声に出して、あまりのカッコ良さに涙ぐんでしまったのだった。そのシビれの余韻に支配されてしまって、気がついたらもう次の曲に差し掛かる。

Everything I Am(feat. Furui Riho) 〜 青信号(Furui Riho)

間髪入れずに大知さんの歌唱で「Everything I Am」へ。

ミドルテンポなビート、シリアスなトーンでワンコーラスを歌い終えると、「Furui Riho!」と名前を勢い良くコールしてFurui Rihoさんが登場。ここから“コラボ・ゾーン”に突入である。

「わたしを委ね」の歌い出し1行の声でパワフルさと巧さが十分に伝わり、思わず「歌うまぁああー」というバカみたいな感想を漏らしてしまった。終盤に向かってゆく「不条理な世界 嘆き笑い」で声を重ねる部分から、それぞれのパートの応酬でパフォーマンスの熱量も客席のボルテージも上昇、そして後に静かにしかし切迫な「大切なものは何?」という問いかけでも声を重ねて、キレッキレな鋭い余韻を残して終える。

と、すぐに跳ねるように鳴るメロディをバックに、大知さんが「あらためて紹介しましょう!Furui Rihoぉー!!」で大拍手。
「さあ!せっかく来ていただきましたので、もう1曲!」と紹介すると、一瞬のブレイクがあって「Yeah, it’s so true」とFurui Rihoさんの力強い歌い出しが炸裂し、大知さんも「大好き」だという「青信号」へ。

キメが重ねられるトラックも相まって迫力が凄い。言葉数も多く速いパッセージが繰り出され、大知さんの歌声も合流。パワフルさとキュートさを兼ね備えるFurui Rihoさんのパフォーマンスに、大知さんの歌声とダンスで華やかさ増し増し。終始楽しそうに飛び跳ねているように見える大知さんが微笑ましかった。
「Furui Rihoに大きな拍手をぉーー!!」と最後に感謝とリスペクトを大きく示し、拍手の中でFurui Rihoさんがステージを後にするや否や、束の間の暗転。

全開(feat. KREVA)

そして2人目のコラボのあの人とのあの曲のビートが爆音で鳴り響く。ステージにDr.K a.k.a KREVAさんが姿を現すと、鼓膜の許容量をちょい超えるくらいの歓声が沸く。冒頭の「Uh!」という鬨の声の如き一声で一旦イントロがストップすると、無音のまま微動だにせず客席に対峙するKREVAさん。

火花とともに飛び出し、1分間声援を十全に浴び続けて沈黙したマイケル・ジャクソンの「Jam」のあのライブ映像を彷彿とさせるなあ、と思ってたら大知さんが駆け寄ってハグをする。KREVAさんがサングラスを取る仕草でまた少し客席が沸いて、それもマイケルとほぼ同じじゃねえかこれは完全にやってるな、と思った刹那「全開」に超フルスロットル全開で突入。

先に鼓膜のキャパがオーバーしたかと思ったけれど、それをも超える歓声とパフォーマンスの迸る熱量。またきてしまった、カッコ良過ぎて涙出てくるヤツ(「Cry & Fight」以来、2度目)。リリース音源でも激烈に迸っていたけれども、やはりライブで文字通り対峙しながらバッチバチにやり合ってるのは、放出されるエネルギー量がマジで段違いだった。「ただ 今を生きるだけ/常に最高到達点」をまさにステージで体現していた。しかも2人で。とんでもねえ。

どこまでボルテージが上がるんだよ、と心配になるほど最後の最後のスリリングな2人の掛け合いまで天井破りにガンガンにブチ上がりまくって、間違いなくこの曲の時が盛り上がりの最高潮であり最高到達点に達していた。当然俺も興奮状態であてられまくり、正直に言うとこの曲以降の記憶が割と飛び気味になっている…(いや、もちろん最後まで全力で楽しんだけれども)。

そのようにして脳の機能に障害が出てるんじゃねえかと思うほどにカッコ良過ぎた「全開」がバシッとドライに終わった後の拍手と歓声は鳴り止む気配がなかったけれど、そこに少々メロウでスロウなビートが割って入った。
大知さんが「KREVAぁーーー!」と紹介雄叫びをあげる。そしてたくさんのウェルカム拍手を笑顔で受け止めるKREVAさん。「もちろん、もう1曲」と大知さん。

Your Love feat. KREVA

「大知、Let’s Go」とKREVAさんが応じて、「Your Love」へ。

先の「全開」とは高低差で耳キーーンなるわ、くらいに全く違ったトーンで息の合った掛け合いを繰り広げる。ゆるやかで心地よいビートに身を任せるように身体を揺らしている人が多く、スタジアム席から見るアリーナ席は夕暮れのさざなみのようだった。大知さんが優しく紡ぎ出す裏声のフェイクで、軟着陸するように楽曲は終わりを迎え、最後にもう1度KREVAさんの紹介雄叫びを上げた。

楽曲の穏やかさもあってか、2人ともかなりリラックスした様子で楽しげにパフォーマンスしているように見えた。途中、何だかイチャイチャしてるような可愛らしいジェスチャーのやりとりもあったりして。
そんな雰囲気もあって、『OVER』のコンセプトを貫いて体現した本編は先の「全開」をやり切った時点である意味では終えていたのかなと思った。この曲からは良い意味で気が抜けて、のびのびと舞台の空気を吸って歌声にしているように感じた……と言いつつ、アンコールまでひたすら歌って踊ってるのはやっぱりどうかしているのだけれど。

Right Now 〜 EXCITE 〜 Blizzard

「さぁ!!ラストスパートぉ!!皆さんついてこれますかーーー!!」

大知さんが煽ると、「Right Now」のイントロが流れ出した。

ファルセットでたどるメロディを追いかけるようにギターのフレーズが絡みつく。ライブでのブチ上げフレーズ「熱いフロアーのまん中で!!!」を力強く発しながら、ついさっき始まったばかりですと言わんばかりにステージを駆け、踊りまくっている大知さん。本当に信じがたい。そし舞台をともにするダンサーの皆さんもガンガンにソロをこなすシーンも挟み込まれて、ダンスという表現の多彩さが煌めく。
この時にちゃんとそれぞれのダンサーを立てる大知さんの振る舞いから、表現そのものやその表現者への心からのリスペクトを感じられて非常に気持ちが良かった。

しかもこの後さらに「EXCITE」「Blizzard」という並びで畳み掛けてくるのである。

「タオルを持っている人はタオルを!!」と客席を誘って始まった「EXCITE」では、これまで映像作品でしか観たことなかった、あのタオルぶん回しの海原が広がっていた。続く「Blizzard」はバンド隊もダンサーたちと同じくらい前に出てきて演奏、ほかのメンバーも花道を目一杯に使いって大きく展開して、会場のテンションを上げ切る。

先の「Right Now」もそうだけど、この辺りの楽曲になるとこれまでの歌い込みの蓄積が新曲たちとは違った次元で、何というか呼吸するように当然に歌いこなしている感がハンパなかった
もちろんただこなしているというわけではなくて、ちゃんと今の、現時点の大知さんを詰め込んでアップデートしているということも表現されているはずだ。過去の映像作品を観比べてみても多少は感じるのだろうけれど、こうした要素が最も分かるのはやはりライブなのだ。

客席も含めた会場の空間を掌握する力は、セットや照明などの世界観を構築する演出が担うところもあるけれど、しかし結局はアーティストの表現力の強度に拠るところが最もデカい
おそらく今回もステージのデザインや舞台演出には大知さんもガッツリ関わって構築しているだろうし、実際に『OVER』のコンセプトを基底にして作り込まれた演出はお客さんを巻き込んでライブ全体の興奮をめちゃくちゃブーストしていた。

その一方で、もし仮に何かのトラブルであのセットが組めなくなるトラブルが発生して、真っ新なステージだけになったとしても、音さえあればきっと三浦大知のステージは全然成り立つ。それくらい確立しているし、揺るがない地力がある。
などと、「全開」以降は興奮の向こう側的な境地に到達してもはやちょっと冷静になった頭でぐるぐると考えていると、「物語は続いていく」と歌い締めて本編終了。

そして、すぐにアンコールのクラップがなり出す。

アンコール:(RE)PLAY 〜 music 〜 ALOS

「アンコールありがとうございまぁぁあす!」と、大知さんが再登場すると、少しゆるりとした雰囲気のMCでちょいちょい笑いを取りつつ、柔らかで爽やかな笑顔でトーク。これまでのバッキバキのパフォーマンスからのギャップが凄いのよ、マジで。
一通り感謝とこれまでのちょっとした感想みたいなことをポツポツと喋ってから「まだまだ盛り上がれますかぁああーーーっ!!」と、俄かにスイッチONしてツアーグッズのTシャツやシャツに着替えたメンバーたちとともに「(RE)PLAY」へ突入。え?ライブ今始まったっけ…?って思うくらいに動きまくり声も出まくってる大知さん、そしてダンサーの皆さんにはもう頭が上がらないくらいに謎の感謝めいた感情すら覚えていたのだけれど、頭上げないとライブ観られないので一応頭は上げた。

立て続けに突入した「music」はハネる曲調とニッコニコにパフォーマンスする大知さんとダンサーの皆さんの様子(花道を行進してた)が本当にポップでハッピーで多幸感に溢れていて、観てるこちらも完全にニッコニコ。迫り上がったステージから客席に語りかけるように、丁寧に届けるように歌い、時折「リーーズーーム!!」と、手拍子を誘発するシーンもあった。
このライブの後、1番脳内で繰り返し鳴り響いていたのがこの曲で、あの気持ち良さがもしかしたら無意識のレベルにも刻まれて影響してたのかもしれない。

「今日は集まってくれた皆さんと、本当にこの瞬間にしかない凄く良いライブを作ることができたと思います。本当にありがとうございました!」と、これまでも繰り返し述べてきた来場者への感謝をあらためて話し、本当にラストの「ALOS」へ。

「これは/旅立ち 彼方 未来への始まり」と、序盤の歌詞からしてもう、終わりじゃなくてまた始まり感に溢れていて、また次のステージ向かう空気に満たされる。白く眩しい照明は空に向かって飛んでいくロケットを見上げた時に突き刺さる逆光のようでもあり、モニタに映し出されたスケールの大きな映像も相まって、最後の最後に会場が思いっきり“開かれた空間”になった。青空を幻視するくらいに。

そして高らかに歌い上げる「一度きり 最初の一枚を」というフレーズは、1つ1つのライブのことを表しているようにも思えた。
ステージ演出やセットリストは同じでも、その時々の一曲、一瞬は全部違った「一度きりの最初の一枚」なのだと。

「この場所から始める物語」をこれまでたくさん重ねてきたからこそ、『OVER』という今の“この場所”にたどり着いたのだし、そしてこれからもそのまま“これ以上ないほど速度上げて”突き進んでいくのだろうと

ダンサー、バンド、そしてコラボメンバーも合流すると、手を繋ぎ長い長い一列になって一礼して終幕した。

退場していくほかのお客さんたちの表情からは、満足感と次の未来への期待で胸がいっぱいになっていることがうかがえたし、俺も同じ気持ちになっていた(それを勝手に重ねていた可能性も拭えないけれど)。ライブそのものも客席の雰囲気も合わせた上で、本当にとても気持ちの良い余韻に包まれて会場を後にした。

そして外に出ると福岡のファンクラブイベントと同様の大雨で、ちょっと笑ってしまった。まあこれもまた思い出深いなと思いつつ、水たまりを避けながら歩き出して帰路についたのであった。

帰路(a.k.a. 蛇足的私記)

(以下は大知さん関係ない、私的備忘録エッセイみたいなものです)

会場から出ると、当たり前だけど人人人…となっていて、最寄駅で電車に乗るにはかなり時間がかかりそうだったので、ほかの多くの人たちもそうしているようにひと駅分歩くことに。たぶん30分近く歩いたと思うのだけれど、時間が経つにつれて雨足がけっこう強くなっていって、膝下はびしょ濡れで途中からはもう水たまりを避けなくなった。

無事電車に乗って宿がある梅田まで戻ると、友人から「ここが美味い!」と教えてもらっていたお好み焼き屋さんは残念ながら閉店していた。ので、宿からほど近いアーケード街で空腹に苛まれつつガールズバーの女性たちに死ぬほど声をかけられながらぶらぶらし、1人でふらりと入れそうな安い大衆居酒屋を見つけてすぐさま入店。カウンタに座って、とりあえず1杯目のビールを流し込むと五臓六腑に染み渡りまくって、思わず「うんまー」と独り言ちて店員に笑われた。

思えばこの日、京都は東寺に仏像を観に行くために早朝から歩き散らかしていたこともあり、スマホの万歩計みたら累計で3万歩を超えていた。そりゃ疲れてるわ。それもあって、実はライブも折り返しくらいからずっと座って観ていた。人々の隙間からちゃんとステージが観えたし、おかげで割としっかりメモもとりながら観ることができたので、まあ結果オーライ(?)。

そんなことも思い起こして己の足をさすりつつ、ちょっとした漬物と大阪といえばの定番過ぎるどて煮ととんぺい焼をつつきながらビールを飲み進めていると、すぐ隣の席に座っていた20代前半くらいの会社の同期っぽい男女1組が楽しそうに飲んでいて、付き合っているわけではないものの、完全に互いに男女として接しながら超楽しんでいる生々しいバイブスを放ちまくっており、別にそんなに聞きたくもなかったけれど会社の上司のグチとか互いの恋愛遍歴とかをしっかりと聞こえてくる音量で話していたので、自動的に聞く形になってしまいそんなの聞いてしまうわこちとら1人だもの、と謎に己で己に言い訳しながら、腹が満たされるまで割としっかりと聞いてしまった…というか、良い酒の肴にしてしまい、これはこれでまた思い出深いなと思いつつ、宿へと戻ったのであった。

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